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35.付着物

 洋介が常総線の旅を楽しんだ翌週の水曜日、遅めの昼飯を食べていると鹿子木から待望の電話があった。

「あっ、神尾さんですか? いつのもことではありますが、神尾さんの読みは本当に凄いですよ。いや、本当に凄い」

「まあまあ、一体何が分かったのですか? 教えてくださいよ」

「神尾さんに言われた通り、鑑識であの手袋を徹底的に調べてもらったんです。まあ、鑑識では直ぐにはやってくれしませんでしたけどね。何回も催促してようやくやってもらいました。そうしたら出てきましたよ」

「何が出て来たんですか? 早く教えてくださいよ」

「非常に小さかったんですが、人間のものと思われる細胞片があの手袋の内側から見つかったんです」

「やはりありましたか。その細胞片はDNA型鑑定ができるくらいのものだったのですか?」


「鑑識では、頑張れば何とか鑑定できるのではないか、と言っています」

「それは凄い! 結果はいつ分かる予定なのですか?」

「DNA型鑑定となると、水戸の科捜研でやってもらうことになります。あそこはいつも順番待ちの状態で非常に忙しいのです。三日くらいは掛かるかもしれないと言われています。それで、ただ待っているのも悔しいので、結果が出る前に神尾さんのご意見を伺った上で捜査を進めたいと思いまして、電話したという訳です。これからそちらに伺っても良いでしょうか?」

「はい、どうぞ。できれば会員さんたちが沢山来られる夕方にならないうちの方がこちらとしては嬉しいのですけど、鹿子木さんのご都合もあることでしょうから、何時でも結構ですよ」

「有難うございます。できるだけ早く伺います」

 鹿子木は嬉しそうに電話を切った。


 その三十分後には筑波ホビークラブの受付の中に鹿子木の姿があった。

「随分と早く来られましたね」

「今は他の事件のことなんて考えていられませんよ」

 洋介は笑いながら鹿子木に話の先を促した。

「神尾さんは何であの手袋を詳しく調べるように言われたんですか? 私なんか、手袋からアルカロイドが検出されただけで喜んでしまいましたから、それ以上のことなんて考えてもいませんでした。きっと何か理由があったのでしょう?」

「ああ、そのことですか。いや大した理由があったわけではなかったんです。ただ、あの手袋の掌の部分に上から斜め横に薄く線のようなものが見えたのを覚えていたものですから、もしかしたら何か発見できるのではないかと思っただけなのです」

「そんな線、ありましたかね……。それで、その線は何故できたとお考えなのでしょうか?」

「例えばですよ、これは本当に私の勝手な想像なのですが、犯人が何らかの手段を講じて岩宿さんを崖から転落させかかった時、岩宿さんは犯人の手を掴もうとしたのではないかと思ったのです。ほら、『溺れる者は藁をもつかむ』って言うじゃないですか。きっと凄い力で掴もうとしたと思うのです。でもうまく掴めそうになかった。それでも岩宿さんは必死に掴もうとして凄い力を出した。だから犯人の掌には傷が付いた。その痕跡が手袋の中に残っている可能性はゼロではない。まあ、そんなふうに考えたのです」

「いや、驚きました。神尾さんの閃き通りの結果だったのではないかと思いますよ」

 鹿子木は心の底から感心しているような顔でそう言った。


「それで、問題はこれからの捜査のことなんです。次はどんな手を打てば良いか、神尾さんはどうお考えになりますか?」

「私の考えより、名刑事としての鹿子木さんはどうお考えですか?」

「いや、参ったな。そんな嫌味を言わなくてもいいじゃないですか……。普通に考えれば、先ずは太田哲也の口腔内細胞を提供してもらいDNA型鑑定の準備をしておくのが一番かと」

「そうですね。それが最優先事項であることは間違いないでしょうけど……」

「けど……って、他にもやっておくことがありますか?」

「あの会社だけに限ってみても、岩宿さんを恨んでいたと思われる人間は太田さん以外にも何人もいましたよね」

「確かにその通りです。太田以外にも元合成研究者で研究部門会事務局をやっていた安田順一や合成研究者だった帯織裕一郎も岩宿のことを相当恨んでいたと思われます」

「私は他にも岩宿さんを酷く恨んでいた人がいるのではないかと思います。それから、あんな生き方をしてきた岩宿さんのことだから、会社関係者以外にも恨んでいた人がいた可能性は低くはないとも思います。今はG製薬会社に限ってDNA型鑑定の準備を行なうことが優先事項だとしても、もう一度原点に立ち返って、容疑のあるかもしれない人たちをリストアップする必要があるように思いますね」

「でも……、完全かと言われれば、そうは断言できませんが、容疑者のリストアップはもう既に相当力を入れてやってきたつもりですけどね」

 鹿子木は不満そうにそう言った。

「確かに鹿子木さんお一人ではできることに限界がありますよね」

 洋介も少し同情するような言い方をした。


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