3日目
夜が明けてしまった。
いっそこのまま寝てしまいたかったけれど、今日もお店を開けたいから、このまま起きてる事にする。
「途中何回か寝てただろうが」
あれは違う、意識が飛んだだけだ、意識が飛んでるのに無理やり起こすジルドが悪い。
何回も! 何回もっ!
「まだ、足りねぇんだがなぁ」
ま、だ…足りないだとぅ……!
十代かっ!? 十代なのかっ!?
「俺ぁ、二十代だっつーの」
!!!!
なんですと! てっきり三十代中盤くらいかと!
素で驚けば、ゴチンと頭突きされ、オマエはどうなんだと返された。
「わたし? わたしは24歳ですけど」
「…………そうか」
いや、そうか、じゃなくて、貴方はどうなんですか、と。
「24だ」
………。
無言で布団にもぐってみる。
まさかの同い年。
ああああ、あれかも! こっちの世界と日本とでは時間の進み方が違うのかもよ!
「こっちもあっちも同じだ。 いいから出て来い」
布団にもぐっていたのを引っ張り上げられて、腕枕をされる。
かっちかちの筋肉枕は寝にくいので、ごそごそと移動してジルドの肩口に頬を寄せた。
「ねぇ、そういえば、結婚したのはいいけど、これからどうするの?」
一緒に住んだり、そもそも、ジルドのご両親に挨拶とかしなくてもいいのかな?
「あー、まぁ、俺に親は居ねぇし。 一応職場には届け出すけどなぁ」
職場? そういえばジルドの仕事って一体…。
「言ってなかったか、俺ぁ、第20部隊に所属するヘイタイさんだ」
………軍人さんでしたかー、その割りに随分砕けた感じですよねー。
「私生活と仕事はきっちり分ける派なんだよ、悪ぃか」
悪くありません、むしろ仕事できっちりしてるのが想像できません。
「あぁ? あんまりカワイイこと言ってやがると、もう1回ぶち込むぞ」
すみません、すみません、もう無理です。
毛布を抱き込みながら、わたわたとジルドさんから距離をとる……狭いベッドだから当然落ちかけるわけですが、それを見越していたジルドに捕まえられまた抱き込まれる。
「あー、かわいい、かわいい。 これでどうして同じ年なんだかなぁ」
むぅ。
抱きしめられたまま口を尖らせる。
「で、結婚したらどうするのか、だったな。 とりあえず、俺は王都にある軍の寮に部屋はあるが、こっちの家は借家だからここに越してきてもいいか?」
王都の寮? えぇと、とりあえずこの家に越してくるのはかまいませんが、見てのとおり狭いですよ。
「着替え程度しかないから問題ない。 あと、仕事の関係でなかなか帰ってこれない事がある」
出張がある仕事なのか、仕事なら帰ってこれなくても仕方ないだろう。
「かわいい嫁が居るんだから、帰ってくるに決まってんだろうが」
そう言ってチュッチュされる。
そして窓の外でもチュンチュンと……うわぁ、すっかり日が昇ってる!!
大慌てでベッドを降りて、だるい体に鞭打って服を着て長く伸び放題の髪に櫛を入れて、頭の高いところで一まとめにして縛る。
「なんだ、今日も店開けんのか」
まだベッドの上で引き締まった体を晒しているジルドに、勿論ですとも! と返して階下へ降り、顔を洗って気合を入れた。
さぁ、今日こそ勇者様御一行が来ますようにっ!!
結果を言いますと、勇者様御一行は来店されませんでしたっ! ちゃんちゃんっ!
「昼前には発ったぞ。 今日はどの店にも寄らなかったみたいだな」
門番のスライズが備品の補充ついでに、勇者様御一行情報を落として行ってくれた。
だけど、昨日のような絶望感はない。
むしろ来なくてホッとしている自分が居た。
スライズに塗り薬や日用品を渡して見送り、手持ち無沙汰に商品棚を整える。
ジルドは朝ごはんを食べてから仕事に出て行った、職場に結婚したことを報告してくると言っていた。
なんだが嬉しそうだったなぁ。
細められた三白眼と上がった口の端を思い出して、むふむふと顔が緩んでしまう。
さぁてと、今日もスライムの処理、頑張ろうっと!
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
2013.12.31 koru.