ギルドへの相談
【お休みのお知らせ】
来週の更新はお休みさせていただきます。
更新は8月3日より再開いたします。
ご不便をおかけして申し訳ございませんが、再開までお待ちいただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
「はぁ……それで、今度は何なの?」
ギールは疲れ切ったようにソファーに腰を下ろすと、クロとその隣に立つハルトを交互に見比べた。
ギルドマスターの執務室にいるのは、ギールとグレゴ、クロとシゲル。そして、クロの肩に乗るクレアと、いまだ自分がなぜここへ連れてこられたのか、何も分かっていないハルトだった。
「先に言っておくけど、また変なものを持って帰ってきたという報告なら、もう聞きたくないからね。ただでさえ、小惑星を丸ごと持って帰って秘密基地を作ったなんて話を聞かされたばかりなんだ。もうお腹いっぱいだよ」
ギールは深くソファーに身体を沈め、これ以上は何も受け入れたくないとでも言いたげに額を押さえた。
「クロ! 何でそれを報告しなかったんだ、この大馬鹿者!」
すでに疲労を隠そうともしないギールとは対照的に、グレゴは怒りを露わにしてクロを叱りつける。
「いえ、秘密基地ですよ。言うわけないじゃないですか。秘密なのですから」
「そういう意味じゃねぇって言ってんだよ! どこの世界に、小惑星ごと持って帰ってくる馬鹿がいるってんだ!」
「ここにいますが……そう何度も馬鹿と言わなくてもいいじゃないですか。一応、正式にもらったものですよ」
クロは心外だとでも言いたげにわずかに眉を寄せたが、反省している様子はまるでない。
「そうだぜ。おかげで、俺のジャンクショップはこれからウハウハよ」
それまで二人のやり取りを楽しげに眺めていたシゲルが、待ってましたとばかりに口を挟む。
「独自に製品を作れる場所も手に入った。まあ、正式に流通させるためのライセンスを取るのは面倒だが、これからは俺のオリジナル製品を堂々と卸せるんだ」
そう言いながら、シゲルはソファーの背もたれに思い切り身体を預けた。両腕を広げたその姿は、まるで自分の成功を誇示する王者のようだった。
「それとこれとは話が別だ」
グレゴは浮かれているシゲルへ鋭い視線を向ける。
「それに、今後は正規の取引になるんだろ? だったら、卸値は下げろよ!」
「はぁ? なぜだ」
先ほどまで余裕たっぷりだったシゲルの顔から、笑みが消えた。
「当たり前だ! 今までは表に出せない取引だったから、危険料まで込みの値段だっただろうが! 正式なライセンスを取って正規に卸せるなら、その危険料は必要なくなる。だったら、安くなるのは当然だ!」
グレゴはそう言い切ると、これ以上何か反論があるのかとでも言いたげに、シゲルへ鋭い視線を向けた。
先ほどまで得意げに胸を張っていたシゲルは、その勢いを失ってソファーに身体を沈める。そのまま気まずそうに顔を背けると、誰に聞かせるでもなく小さく呟いた。
「ちっ……しくじった」
シゲルは悔しそうに顔を歪めた。
対するグレゴは、ざまあみろとでも言いたげに口元に笑みを浮かべていた。
「それで、話が逸れたけど……クロ。この子は?」
ギールは話を本題へ戻すと、これまでの会話にまったくついていけず、一人だけ置いてけぼりとなっていたハルトへ視線を向けた。
「そうそう。ギールさん、今は大変ですよね?」
「そうだねー。誰かさんのおかげでねー」
ギールは感情の抜け落ちた棒読みで答えながら、じっとクロを見る。
小惑星を丸ごと持ち帰り、秘密基地まで作った張本人へ向ける視線には、疲労と恨みがたっぷりと込められていた。
しかし、そこへグレゴが口を挟む。
「ギール。お前の場合は、それだけじゃねぇだろ。自分のチームにも問題を抱えてるんじゃなかったか?」
「……今は、その話はいいの」
ギールはわずかに顔を引きつらせながら、グレゴの言葉を強引に遮った。
それから、余計な方向へ話を広げるなとでも言いたげな視線を一度向けたあと、改めてクロへ視線を戻す。
「それで? この子をどうしたいの?」
待っていましたとばかりに、クロは隣に立つハルトを示した。
「そこで、この子を雇いませんか?」
「はぁ?」
唐突な提案に、ハルトの口から間の抜けた声が漏れた。
自分の知らないところで話が進められていたと思えば、今度はギルドに雇わせようとしている。あまりにも勝手な展開に、ハルトは提案の意味をすぐには飲み込めず、クロの横顔を見つめた。
「その子を? どうしてギルドで雇う必要があるの?」
ギールもわずかに眉を上げ、ハルトへ視線を向ける。
「その前に、説明しろ、クロ。こいつは誰なんだ?」
グレゴの低い声を受け、クロはそこでようやく、まだ二人に詳しい事情を話していなかったことを思い出した。
「ああ、そうでしたね」
クロは先ほどシゲルに説明した内容を、もう一度最初から話し始める。
ダリのことで小惑星オンリーワンを訪れたこと。その場でいろいろな話が進み、オンリーワンとトバラからハルトを預けられたこと。そして、ハルトにはクロたちの住むコロニーで働きながら、これまで知らなかった世界を見せることになった。その経緯を、クロは淡々と説明していった。
その間、ハルトは悔しそうに顔を歪めていた。
自分のことだというのに、当人の意思を尋ねられることもなく話が進んでいる。それが気に入らないのは明らかだった。
だが、ここで異議を唱えれば、先ほどのようにシゲルから怒鳴られるかもしれない。まして、部屋にはシゲルだけではなく、明らかに只者ではないグレゴまでいる。
ハルトは苛立ちを押し殺しながら、声を上げるタイミングを慎重に窺っていた。
「……お前は、どうしてそう次から次へと厄介事を持ち込んでくるんだ」
説明を聞き終えたグレゴは、もはや呆れてものも言えないとでもいうように額を押さえた。
「いえ。今回は、どちらかといえば向こうから持ち込まれた話ですよ」
「オンリーワンからの頼みか。それに、トバラさんのお孫さん……」
グレゴとは対照的に、ギールはハルトを興味深そうに見つめていた。
先ほどまでの疲れ切った様子はわずかに薄れ、その瞳には新たな可能性を見出したような光が浮かんでいる。




