天雷と崩壊の照準
フレアソードを構えたバハムートは、なお一歩も動かない。迎え撃つというより、その場に立ったまま敵の最大を待ち受けているようだった。
ミカリエスに乗るジャッジは、小さく息を整えると周囲へ視線を走らせた。
無人の大部隊は、ヨルハとスケイリスターを崩すどころか、傷ひとつ負わせられないまま壊滅状態へ追い込まれつつある。さらに後方では、エクスフラックの攻撃によって戦艦までもが次々と沈められていた。
「予想通り……いえ、それ以上だ」
静かにそう漏らし、ジャッジは正面へ視線を戻す。
そこにいるのは、バハムート。
巨体に釣り合う大剣を軽々と構えるその姿は、あまりにも現実離れしていた。ただ立っているだけだというのに、そこには揺るがぬ威圧がある。攻め込む側であるはずの自分が、逆に呑まれそうになるほどの圧だった。
ジャッジは胸の奥に湧く緊張を押さえ込み、深くひとつ息を入れる。
「セルフィ。最大の一撃をぶつけます。合わせてください」
呼びかけに応じるように、セフィレイム側の映像がモニターの隅へ浮かび上がる。
そこに映っていたのは、すみれ色のパイロットスーツを身に纏った女性だった。ヘルメットのスクリーンは濃く色づいたガラスのようで、その奥の表情までは窺えない。だが、そこから聞こえてくる声には、迷いを消した者だけが持つ覚悟が滲んでいた。
「わかった。タイミングを合わせる」
短い返答だけで十分だった。
互いに、もう迷いはない。常識では測れない圧倒的な存在を前にしてなお、自分たちの持てる最大をぶつける。その意志だけが、二人を支えていた。
短い沈黙が落ちた後、ミカリエスとセフィレイムが動き出す。
ミカリエスは遥か上空へ。セフィレイムは大きく距離を取る。
「逃げるんですか?」
バハムートは挑発するように問いかける。だが、それに反応する事なく、二機はただ黙って間合いを広げていった。
雲よりもなお高い上空で、ミカリエスがぴたりと停止する。
次の瞬間、その全身から雷光が迸り始めた。
青白い光が装甲の継ぎ目から一斉に噴き上がる。空間を焼くような放電音が響き、機体はまるで雷そのものを纏ったかのように輝き始めた。
さらに、機体各所の装甲が展開した。
隠されていた球体ユニットが次々と姿を現し、それぞれが眩い光を放ちながら回転を始める。ひとつではない。全身に埋め込まれていたそれらが連動し、機体の周囲へ複雑な光の軌道を描いていく。
「天海」
その一言と共に、ランスが展開し、クローランスへと姿を変える。
そして、重々しい駆動音を響かせながら、クローランスが回転を始めた。
すると、先ほどまで全身を覆っていた雷光が、回転するその中心へと吸い寄せられるように集まり始める。
散っていた稲妻が収束し、束ねられ、圧縮されていく。
青白い閃光はますます密度を増し、やがて空そのものを穿つような圧へと変わっていった。まるで天そのものを引きずり下ろし、一点へ叩き込もうとしているかのような異様な光景だった。
ミカリエスと同様に、セフィレイムもまたバハムートから大きく距離を取る。
右腕に備えたビームランチャーを両手で構え、静かにその名を告げた。
「崩壊」
その一言と共に、全身を覆っていた追加装甲が次々と外れていく。
黄金の追加装甲を脱ぎ捨てたセフィレイムは、元の姿を現した。そこにあったのは、薄い青を基調とした機体だった。先ほどまでの荘厳さとは異なる、鋭く研ぎ澄まされた美しさが、その機体にはあった。
さらに、外れた追加装甲はそのままビームランチャーへと合体していく。
装甲が組み合わさり、砲は肥大化し、やがてセフィレイム本体の全長すら上回る黄金のランチャーへと変貌した。
「縮退開始」
低く告げられたその言葉と共に、凄まじいエネルギーが砲身へ収束し始める。圧縮されていく光は、ただ集まっているのではない。破壊そのものを一点へ凝縮しているかのようだった。
コックピット内では照準がわずかに揺れていた。
莫大な出力に引かれるようにぶれながらも、その照準はゆっくりと、しかし確実にバハムートへ合っていく。
空の彼方では雷が収束し、こちらでは崩壊の光が一点に集まる。
「いきます! 天雷神罰!」
「オーバークラッシュバスター!」
次の瞬間、ミカリエスのクローランスから圧縮された雷光が解き放たれた。青白い閃光は雲を散らし、天そのものを裂くように一直線に落ちてくる。
同時に、セフィレイムの黄金のランチャーからも、縮退された金色の光が解放された。迸った一撃は、進路上に転がる残骸を触れた端から消滅させ、大地すら抉り取りながら凄まじい勢いで突き進んでいく。
上空から迫る青白い雷光。
正面から撃ち込まれる金色の崩壊光。
二つの必殺が、今まさにバハムートへと迫っていた。




