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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
お掃除開始。クロの清掃大作戦!

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試作艦の鼓動

 正式にクロの物となったエクスフラックへ乗り込み、ブリッジへ向かう通路を進む中、エルデは少し不満げに周囲を見回していた。


「なんか、落ち着かないっすね」


 艦内は整ってはいる。だが、それだけだった。余計な装飾はなく、休める空気も薄い。通路の壁面も床も機能一辺倒でまとめられていて、誰かが暮らすための場所というより、目的のためだけに組まれた機械の内側を歩いているような印象が強い。


「試作艦だからです。そういった設備は必要最低限しか積んでいません」


 ジュンはそう答えながら端末を操作し、エルデの目の前へホロディスプレイを浮かび上がらせた。


 そこには簡易的な内部設計図が表示されている。各区画の配置は無駄がなく、機能を押し込むようにまとめられていた。そして、その設計思想を示すように、脇へ短い一文が添えられている。


 ――一撃離脱と一撃必殺の掛け合わせ。


「なんか……よくわからないっすね」


 エルデは眉をひそめ、首を傾げた。理屈としては分かるようでいて、実感としては掴みにくいのだろう。実際、生活性を削ってまで詰め込まれた思想は、現場の使い勝手より、尖った発想を優先した設計にも見えた。


「そうですか? 私は好きですね」


 対してクロは、その一文にどこか惹かれたように目を細めた。短い言葉の中に、この艦の尖った性格がそのまま表れている。無駄を削り、狙いだけを鋭く残したような思想に、ロマンを感じているのだろう。気づけば、この艦そのものに少しずつ愛着を持ち始めていた。


 クロはエルデの前に浮かぶホロディスプレイを引き寄せると、指先で軽くスクロールしながら内容を確認していく。


「小型の割に大きいのは、装甲が分厚いせいなんですね。それに、粒子エンジンも大型艦が積むような物を採用している」


 表示された数値と構造材の厚み、機関部の占有率。それらを追うだけで、この艦が単に推進力だけを重視した船ではないことが見えてくる。無理やり高火力と高防御を押し込み、その結果として内部空間にしわ寄せが来ている。そんな設計だった。


「ええ。そのため、スペースが少ないんです。本来のRF搭載数も、そのせいで極端に少なくて、二機が限度です。正直、これを軍に組み込むのも、艦隊に組み込むのも、私はためらいます」


 ジュンは苦笑しつつ、理解しかねる物を見るような表情を見せた。


 その反応に、クロはわずかに眉を上げる。


「一応、テスト段階の新型ステルス機能に、大型艦級の出力を前提にした湾曲メガビーム砲が二門。それに全方位クラスターミサイル発射基が四基。攻撃力は十分だと思いますが」


 数字だけを見れば、むしろ過剰と言っていい。小型艦の枠に押し込めるには、あまりにも尖った武装構成だった。


「成功すれば、使いようはあるかもしれません」


 そこまでは認めるように、ジュンは頷く。


 だが、と言葉を継ぐ前に振り返り、まっすぐクロを見つめた。


「でも、積まれている物はどれも試作段階の物ばかりです。メガビーム砲は連射出来ませんし、クラスターミサイルも一発ごとの威力が低い。シールドを破れなければ、相手にはほとんど傷を与えられません」


 淡々とした口調だったが、その内容は冷静だった。火力は高い。だが、高いだけでは兵器として完成しているとは言えない。一撃が通らなければ、その瞬間にこの艦は危険へ晒されることになる。尖り過ぎた設計ゆえの扱いづらさが、ジュンにははっきりと見えていた。


「ですが、使えるなら面白いですね」


 ブリッジのドアが開くと同時に、クロはそう呟いた。危うさも癖の強さも理解した上で、それでも惹かれる物がある。そういう声だった。


「使えるなら、ですけどね。試作段階の物がどこまで実戦で通用するのか、私は不安です」


 そう苦笑すると、ジュンは操縦席へ腰を下ろした。端末をセットし、手慣れた動きで粒子エンジンを起動する。


 次の瞬間、甲高い駆動音がブリッジ内へ鋭く響き始めた。耳の奥を引っかくような高音に、思わずクレアが耳を伏せ、顔までしかめる。


「……うるさいですね」


「防音もあまりしてないっす。耳がキーンってなってるっすね」


 クレアと同じように、エルデも指で耳を塞ぎながら顔をしかめた。試作艦らしい未完成さが、こんなところにも出ているらしい。


「最初だけです。起動が安定すれば大丈夫ですよ」


 ジュンも少し嫌そうに顔をしかめつつ、それでも手は止めない。そのまま発艦準備を進めていくと、アレクからブリッジへ通信が入った。


 ジュンは操作を切り替え、クロの目の前にもホロディスプレイを浮かび上がらせる。映し出された画面の向こうでは、格納庫の扉が背後でゆっくりと閉じ始めており、その手前にアレクが立っていた。


『社長。聞こえます?』


「聞こえますよ。準備は出来ました?」


『はい。必要な物は積み込み終わりました。コンテナBは念のため、カタパルトにセットしてあります』


 アレクの報告に、クロは小さく頷く。


「OKですね。ブリッジまで来てください」


 そう言うと、クロはホロディスプレイをジュンの方へ送った。


「アレクが来たら出発です。私とクレアはバハムートで後を追います」


「わかりました。アレクさんが到着しだい出ます」


 ジュンはそう返し、通信を閉じながら次々とシステムを立ち上げていく。ブリッジ内には起動音と操作音が重なり、いよいよ発艦が現実のものとして迫ってきていた。


「手伝うっす。クレアねぇ」


 エルデが頭の上にいるクレアへ声をかけると、クレアはひらりと跳び、クロの肩へ移った。


 軽くなった頭を一度撫でるように触ってから、エルデは空いている席へ腰を下ろす。そのまま端末へ手を伸ばし、自分に出来る準備を始めた。先ほどまでのはしゃいだ様子とは違い、顔つきには仕事前の真剣さが出ている。


「では、後程」


 その一言を残し、クロとクレアは転移でその場から消えた。


 ほんの一瞬だった。そこにあったはずの気配が掻き消え、ブリッジには出発を待つ者たちと、艦の駆動音だけが残った。エクスフラックは、いよいよ動き出そうとしていた。

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