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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
転生者とマーケット
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偽情報の正体、龍の真実

 そのままクロとノーブルたちは、再び建物の中へと戻っていく。先ほどまでの張りつめた空気は、どこか遠くへ去っていた。


「ところで、さきほど“近衛”とおっしゃいましたが……なぜこんな辺境の施設に? 本来は皇帝の側にいるのでは?」


 クロが何気なく問いかけると、後ろから軽い咳払いが聞こえた。


「クロ。陛下をつけろ」


 注意を促したのは、隊員のひとりか――あるいは、先ほどまで銃を向けていた誰かだったのか。それを受けたクロは、ちらりと肩越しに振り返り、気まずさも悪びれた様子もなく、ただ一言返す。


「……そうでした。まあ、私は帝国民ではないので、大目に見ていただけると助かります。それで――なぜ、ここに?」


 軽く肩をすくめながら問い返すクロに、ノーブルは思わず目を細めた。まるで意に介していないその動じなさが、どこか痛快ですらある。


 だが、すぐに表情を戻すと、小さく咳払いをひとつ。


「……まずは、クロの“答え合わせ”から始めようか」


 そう言いながら、彼女は歩を進める。クロと並ぶようにして、施設奥の出荷場――クォンタム・クリスタル・クォーツの管理区画へと向かっていく。


「最初の指摘からいこう。あの“クリスタルドラゴン”は、言った通り――花だ」


 歩きながら、ノーブルは淡々と確認を入れるように告げた。


「それと……次。ここの運営会社についてだが――帝国直下の組織。それも、その通りだよ」


 ノーブルはそう言いながら、歩を進めつつ淡々と事実を告げていく。すれ違う兵たちは皆、彼女に対し迷いなく敬礼を送る。


「じゃあ、次は“間違っていた”ところだ」


 少しだけ声を落とし、ノーブルはクロに向き直る。


「――まず、あのクリスタルドラゴンは偶然の産物ではない。あの姿は、意図して“創られた”ものだ」


 その言葉に、クロの瞳が揺れる。驚きと疑問が入り混じる視線が、ノーブルをまっすぐに捉えていた。


「ここまで話したら、理由も伝えた方がいいだろう。……あれは、皇帝陛下のお孫様のために作られた特別な花だ。お孫様が幼いころ読んでいた絵本――その中に出てくるクリスタルドラゴンが、とてもお好きでね」


 ノーブルは、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「一応、正解していた部分もある。結晶変位。……あれは異常反応で、予定の何十倍ものサイズにまで膨れ上がってしまった。予想外だったよ」


 そこでひと息つくと、ノーブルは苦笑交じりに言葉を継いだ。


「だから、本来は我々近衛軍が厳重に輸送する予定だった。だが、予想を大きく上回る結晶拡張のせいで、輸送体制の見直しを迫られた。梱包サイズの変更、それに伴う人員の再配置……結局、周囲を完全封鎖して、護衛任務も一から組み直すことになった」


 淡々と語られる言葉の裏に、複雑な現場の苦労がにじんでいた。


「私が“受付嬢”に扮していたのも、その一環だ。万が一、何かが起きたとき――そう、クロのような人物が現れた場合に備えて、即座に制圧できるようにね」


 そう語るノーブルの横顔はどこか楽しげで、ほんのわずかに、少女のような名残すら感じさせた。


「……まあ、それとは別に。少しくらい一般人みたいなことをしてみたかったという、私個人の我がままでもあるんだけどな」


 そう話しながら、一行は管理区画へと辿り着く。ノーブルが無言で手をかざすと、重厚な扉が音もなく開いた。


 中はひんやりとした空気に包まれており、内部は厳重な警備体制が敷かれていた。中央――クリスタルドラゴンの足元には、数人の近衛兵が静かに目を光らせている。


「……さて、最後の答え合わせだ」


 ノーブルは立ち止まり、クロに視線を向ける。


「“バハムートが巣くっている”という偽情報――それは、正解。完全な陽動だった。わざと機体を破壊し、逃げるように見せたのも……まあ、住民が立ち入らないようにするための芝居だ。滑稽だったろうが、こちらも時間がなかった」


 肩をすくめながら言うその表情には、わずかな後悔と割り切りが混ざっていた。


 ノーブルは手元の端末を操作し、クロの端末と接続。納品データを確認し終えると、傍らの箱をひとつ持ち上げて渡す。


「これだ。……よかったな、壊れていない」


 クロは箱を受け取りながら、軽く片眉を上げる。


「……そのセリフ。壊れたものもあったって意味ですよね?」


 間髪入れずに放たれたツッコミに、ノーブルは明らかに言葉を詰まらせた。だが弁明はせず、微妙な表情のまま沈黙する。


 クロはそれ以上追及せず、小さく頷いた。


「――では、帰ります」


「玄関まで送ろう」


 ノーブルが静かに応じ、ふたりは並んで施設を後にする。


 扉を抜けて外に出ると、思わず視線が止まった。ヨルハのまわりに、複数の近衛兵たちが集まり、敬意とも警戒ともつかぬ視線で彼女を見上げていた。


「お前たち! 持ち場に戻れ!」


 ノーブルの一喝に、軍人たちは一斉に背筋を伸ばし、その場を離れていった。

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― 新着の感想 ―
ノーブルさん……ねぇ。市民の真似事も出来ないノーブルさんで近衛への指揮権があるのかぁ〜何者なんやろなぁ(棒)
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