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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
転生者とマーケット
177/469

艦の中枢、そして“成長”

いつも『バハムート宇宙を行く』をご愛読いただき、誠にありがとうございます。

大変申し訳ございませんが、作者の都合で執筆と推敲の時間を確保するため、毎週 月曜日を休載日 とさせていただきます。読者の皆さまにはご不便をお掛けいたしますが、何卒ご理解いただければ幸いです。


・休載日:毎週 月曜日


・更新スケジュール:火曜〜日曜8 : 00 / 12 : 00 / 16 : 00 / 20 : 00(1 日 4 話)


もし宜しければ ブックマーク・ご感想・評価・リアクション・レビュー で応援していただけますと、次の物語を紡ぐ大きな力になります。


クロたちの旅路を、これからも温かく見守っていただければ幸いです。

改めまして、ご不便をお掛けすることをお詫び申し上げるとともに、変わらぬご支援に心より感謝いたします。

どうぞよろしくお願いいたします。

 言い合いが続くアヤコとシゲルをよそに、クロはひとつ咳払いしてふたりに目を向ける。


「……積載スペースはドローンが追加されたのは理解しました。でも、本当に重要なのはブリッジと中枢区画です。見せていただけますか?」


 その一言に、アヤコとシゲルは同時に「待ってました」とばかりに顔を上げ、勢いよく頷いた。


 エレベーターに乗り込み、一行は中央上部に位置する艦のメインスペースへと移動する。


 扉が開き、通路へと足を踏み出すと、かつて無機質だった壁面が明らかに刷新されていた。表面は滑らかで、やや温かみを帯びた質感。素材自体が、目に見えて違っていた。


「気づいた? この壁、衝撃吸収材でできてるんだ。触ってみるとわかるよ。ほどよく柔らかくて、しかも頑丈。まさに夢の素材!」


 アヤコが誇らしげに言うと、隣のシゲルが肩をすくめてぼやく。


「……こいつが譲らなくてな。そこまでやる必要ねえだろって言っても、聞きゃしねえ」


 けれどアヤコは、にこりと笑って返す。


「せっかくの機会だし、妥協なんてしたくないじゃん。じいちゃんだって――本当はわかってるくせに」


 その言葉に、シゲルはふんと鼻を鳴らし、ぷいと顔を背けた。


 クロとクレアはというと、壁にそっと手を添え、その感触を確かめるように撫でていた。


「……おもしろいですね」


 クロとクレアが声を揃えて呟いたあと、ふたりは一瞬だけ顔を見合わせ、くすりと笑い合う。その様子に、アヤコが得意げに胸を張り、シゲルは――ぶっきらぼうに顔を背けたまま、わずかに口元を緩めていた。


「ここだけじゃないんだよ。内部はね、もう最初の構造とはまったく違う形にしてあるんだから」


 アヤコはそう言いながら、クロを先導して艦内の廊下を進む。壁に手をかざすと、目の前のドアが静かにスライドして開いた。


 その先に広がっていたのは、広々とした作業スペースだった。高天井、整然と並ぶツールラック、壁面には複数の作業アームや格納式のロボットユニットが設置されている。


「まずは作業場。……どう? すごいでしょ?」


 自信満々に胸を張るアヤコに、クロは周囲をひととおり見渡してから、素直な感想を口にした。


「……どうと言われましても、……広いですね」


「そりゃそうだ。素人が見てわかるようなもんでもねえしな」


 シゲルが笑いながら言葉をかぶせるが、その横でアヤコはやや不満げに口を尖らせる。


「も~……せっかく新しい工具やロボットもいろいろ入れたのに……」


 その様子に目を細めつつ、シゲルはひらりと手を振る。


「アヤコ。ここは俺たちが分かってりゃ十分だ。次、行くぞ」


 そう言い残し、シゲルは先頭に立って歩き出す。


 次に案内されたのは応接室。なんてことのない部屋ではあるが、簡素ながらも落ち着いたデザインが施されていた。色味は控えめで、家具も最小限。だがその配置には、不思議と“もてなし”の気配が漂っていた。


 続いて現れたのは、客室が三部屋。そしてその奥――


 クロは、やや首をかしげる。


「……なぜ個室が六つも?」


 その問いに、アヤコは少し気まずそうに苦笑した。


「いや〜、スペースが余っちゃってね。とりあえず何も置いてないけど、個室にしとけば色々使えるかなって」


「一部屋にまとめて他の用途に回すって手もあったが……まあ、あって困るもんでもないしな」


 シゲルはそう言って、艦内の一室を開く。


「ここがクロの部屋だ。さすがに風呂までは無理だったが、シャワーは付けてある。トイレも完備、ベッドにクローゼット、それから――」


 指を折りながら、シゲルは誇らしげに続けた。


「小型の冷蔵庫、ソファーとテーブル、あとは小型の投影モニターも設置済み。今のお前の部屋より、だいぶ豪華だぞ」


 そう笑って振り返ると、アヤコが隣で肩をすくめた。


「クロもね、もうちょっと部屋に生活感出してもいいと思うよ? ベッドしかないとか、寂しすぎる」


 クロはわずかに考えるようにしてから、静かに答える。


「リビングで事足りていたので……ですが、今度は少し考えてみます」


 そのまま一行は、次の部屋へと足を運ぶ。


「――ここがリビングキッチンだ!」


 シゲルの声が、ひときわ高くなる。


「どうせならってことでな。家じゃ近所迷惑で使えない“スピーカータイル”と、“大型投影モニター”を導入したんだ! この迫力の映像と音響――スポーツ観戦とかしたら、もうたまらんぞ!」


「じいちゃん、それこだわり過ぎて予算オーバーだったんだよね……」


 アヤコが呆れ混じりに言うと、シゲルがむっとした顔で言い返す。


「お前が言うな!」


「だって、スピーカータイル、やり過ぎでしょ? 何枚使ったと思ってんの?」


「お前だって『これで映画観たい』って騒いでただろうが! お互い様だろうが!」


 再び始まったふたりの応酬に、クロがぼそりと呟く。


「……また始まりましたね」


 その肩の上、クレアが小さく頷きながら、さらりと口を開く。


「わたしは、おつまみでお肉があれば、それで充分ですけど」


 その一言に、クロはふっと微笑んだ。


「クレアも、欲が出てきましたね」


「すみません……」


「いえ、良いことです。ちゃんと“成長”してますよ。ただ――」


 クロはちらりと、まだ言い合いを続けているアヤコとシゲルに目を向ける。


「……その欲に飲まれ過ぎると、あのふたりのように予算オーバーから醜い争いが始まってしまいます」


 くすりと苦笑しながら告げると、クレアは素直に頷いた。


「気をつけます」


 そのまま、ふたりで並んで言い争いを眺める。クロとクレアは目を合わせると、ふっと同時に微笑んだ。

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― 新着の感想 ―
無理はしないで下さいね。続きを楽しみにしています。
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