艦の中枢、そして“成長”
いつも『バハムート宇宙を行く』をご愛読いただき、誠にありがとうございます。
大変申し訳ございませんが、作者の都合で執筆と推敲の時間を確保するため、毎週 月曜日を休載日 とさせていただきます。読者の皆さまにはご不便をお掛けいたしますが、何卒ご理解いただければ幸いです。
・休載日:毎週 月曜日
・更新スケジュール:火曜〜日曜8 : 00 / 12 : 00 / 16 : 00 / 20 : 00(1 日 4 話)
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どうぞよろしくお願いいたします。
言い合いが続くアヤコとシゲルをよそに、クロはひとつ咳払いしてふたりに目を向ける。
「……積載スペースはドローンが追加されたのは理解しました。でも、本当に重要なのはブリッジと中枢区画です。見せていただけますか?」
その一言に、アヤコとシゲルは同時に「待ってました」とばかりに顔を上げ、勢いよく頷いた。
エレベーターに乗り込み、一行は中央上部に位置する艦のメインスペースへと移動する。
扉が開き、通路へと足を踏み出すと、かつて無機質だった壁面が明らかに刷新されていた。表面は滑らかで、やや温かみを帯びた質感。素材自体が、目に見えて違っていた。
「気づいた? この壁、衝撃吸収材でできてるんだ。触ってみるとわかるよ。ほどよく柔らかくて、しかも頑丈。まさに夢の素材!」
アヤコが誇らしげに言うと、隣のシゲルが肩をすくめてぼやく。
「……こいつが譲らなくてな。そこまでやる必要ねえだろって言っても、聞きゃしねえ」
けれどアヤコは、にこりと笑って返す。
「せっかくの機会だし、妥協なんてしたくないじゃん。じいちゃんだって――本当はわかってるくせに」
その言葉に、シゲルはふんと鼻を鳴らし、ぷいと顔を背けた。
クロとクレアはというと、壁にそっと手を添え、その感触を確かめるように撫でていた。
「……おもしろいですね」
クロとクレアが声を揃えて呟いたあと、ふたりは一瞬だけ顔を見合わせ、くすりと笑い合う。その様子に、アヤコが得意げに胸を張り、シゲルは――ぶっきらぼうに顔を背けたまま、わずかに口元を緩めていた。
「ここだけじゃないんだよ。内部はね、もう最初の構造とはまったく違う形にしてあるんだから」
アヤコはそう言いながら、クロを先導して艦内の廊下を進む。壁に手をかざすと、目の前のドアが静かにスライドして開いた。
その先に広がっていたのは、広々とした作業スペースだった。高天井、整然と並ぶツールラック、壁面には複数の作業アームや格納式のロボットユニットが設置されている。
「まずは作業場。……どう? すごいでしょ?」
自信満々に胸を張るアヤコに、クロは周囲をひととおり見渡してから、素直な感想を口にした。
「……どうと言われましても、……広いですね」
「そりゃそうだ。素人が見てわかるようなもんでもねえしな」
シゲルが笑いながら言葉をかぶせるが、その横でアヤコはやや不満げに口を尖らせる。
「も~……せっかく新しい工具やロボットもいろいろ入れたのに……」
その様子に目を細めつつ、シゲルはひらりと手を振る。
「アヤコ。ここは俺たちが分かってりゃ十分だ。次、行くぞ」
そう言い残し、シゲルは先頭に立って歩き出す。
次に案内されたのは応接室。なんてことのない部屋ではあるが、簡素ながらも落ち着いたデザインが施されていた。色味は控えめで、家具も最小限。だがその配置には、不思議と“もてなし”の気配が漂っていた。
続いて現れたのは、客室が三部屋。そしてその奥――
クロは、やや首をかしげる。
「……なぜ個室が六つも?」
その問いに、アヤコは少し気まずそうに苦笑した。
「いや〜、スペースが余っちゃってね。とりあえず何も置いてないけど、個室にしとけば色々使えるかなって」
「一部屋にまとめて他の用途に回すって手もあったが……まあ、あって困るもんでもないしな」
シゲルはそう言って、艦内の一室を開く。
「ここがクロの部屋だ。さすがに風呂までは無理だったが、シャワーは付けてある。トイレも完備、ベッドにクローゼット、それから――」
指を折りながら、シゲルは誇らしげに続けた。
「小型の冷蔵庫、ソファーとテーブル、あとは小型の投影モニターも設置済み。今のお前の部屋より、だいぶ豪華だぞ」
そう笑って振り返ると、アヤコが隣で肩をすくめた。
「クロもね、もうちょっと部屋に生活感出してもいいと思うよ? ベッドしかないとか、寂しすぎる」
クロはわずかに考えるようにしてから、静かに答える。
「リビングで事足りていたので……ですが、今度は少し考えてみます」
そのまま一行は、次の部屋へと足を運ぶ。
「――ここがリビングキッチンだ!」
シゲルの声が、ひときわ高くなる。
「どうせならってことでな。家じゃ近所迷惑で使えない“スピーカータイル”と、“大型投影モニター”を導入したんだ! この迫力の映像と音響――スポーツ観戦とかしたら、もうたまらんぞ!」
「じいちゃん、それこだわり過ぎて予算オーバーだったんだよね……」
アヤコが呆れ混じりに言うと、シゲルがむっとした顔で言い返す。
「お前が言うな!」
「だって、スピーカータイル、やり過ぎでしょ? 何枚使ったと思ってんの?」
「お前だって『これで映画観たい』って騒いでただろうが! お互い様だろうが!」
再び始まったふたりの応酬に、クロがぼそりと呟く。
「……また始まりましたね」
その肩の上、クレアが小さく頷きながら、さらりと口を開く。
「わたしは、おつまみでお肉があれば、それで充分ですけど」
その一言に、クロはふっと微笑んだ。
「クレアも、欲が出てきましたね」
「すみません……」
「いえ、良いことです。ちゃんと“成長”してますよ。ただ――」
クロはちらりと、まだ言い合いを続けているアヤコとシゲルに目を向ける。
「……その欲に飲まれ過ぎると、あのふたりのように予算オーバーから醜い争いが始まってしまいます」
くすりと苦笑しながら告げると、クレアは素直に頷いた。
「気をつけます」
そのまま、ふたりで並んで言い争いを眺める。クロとクレアは目を合わせると、ふっと同時に微笑んだ。