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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
転生者とマーケット
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増える災害、目覚める本能

 いつも通り、クロとクレアは静かにドックを発ち、目標宙域へと向かっていた。


「ヨルハ。お前は、“災害”を知っていたか?」


 肩に乗るヨルハは、首を横に振る。


「いえ。私は、まだ見たことはありません」


「……そうか。こいつら、一体なんの目的で現れるんだろうな」


 バハムートの低い声が宙に溶ける。その飛翔は加速し、目標座標へと一直線に突き進む。


 その時――端末から警告音が鳴り響いた。


「バハムート様!」


「――ああ、見えてきてる。……なんだこの気持ち悪さは」


 視線の先。空間にはワームホールがぽっかりと開き、そこから異形の群れが次々とあふれ出していた。


 虫のような肢体、獣のような蠢き。形状の定まらない混成体が、空間を染めていく。


「フレアで塵にする。ヨルハ、同時に撃て」


「はい、バハムート様!」


 バハムートの右手が、ヨルハの口元が、それぞれ漆黒の球体を生み出す。


「――フレア」


 バハムートの宣言と同時に、二つの黒き光がほとばしる。空間を裂き、デストロイヤーの群れに直撃し、爆ぜる。


 しかし――


「おおっ!? ほとんど塵になってない!?」


「バハムート様、喜ぶところじゃありませんっ!」


 ヨルハの鋭い声が空間を切り裂く。しかし、その忠告を受けてもなお、戦場の緊張感は増すばかりだった。


 バハムートが興奮を滲ませたまま宙に浮かぶ視線の先――そこでは、デストロイヤーの群れが次々とワームホールから溢れ出し、その数を加速度的に増やしていく。


「ならば……バハムゥゥゥゥッ……ブラーァァァスタァァァッ!!」


 叫びとともに、バハムートの胸部に真紅の光が集束する。破壊と熱量を極限まで高めたその奔流は、咆哮の如くほとばしり――


 漆黒の宙域を、真紅の熱線が引き裂いた。


 ワームホールごと、群がるデストロイヤーを巻き込み、灼熱と破壊の奔流が空間を飲み込む。圧倒的な力の波は、ただ“存在”すら残さぬほどに、敵を塵と化していった。


 ――だが。


 消え失せたはずの空間に、なお残る影があった。いくつかの個体は、それでもなおその場に留まり、姿を崩さずにいた。


「……やはりか。こいつら、破壊の力が通りにくい」


「それって、まさか!」


「俺に近い性質なのかもしれんな」


 淡々と語る声の奥に、奇妙な愉悦が滲む。


 その間にも、ワームホールからはさらにデストロイヤーが湧き出してくる。数に押される光景――だが、そこに恐れはなかった。


 むしろ、バハムートはマスクの下で口角をゆっくりと吊り上げていた。


「ふ……よし。お前たち――俺の“実戦経験”の糧になってもらおうか!」


 その言葉とともに、バハムートから放たれる圧力がさらに高まった。


 目の前に広がるのは、止めどなく湧き続ける災害――デストロイヤーの群れ。しかし、彼の内に芽生えていたのは恐れではない。渇望。欲求。そして――解放。


 バハムートという存在が、抑えていた力の一部を解放するための舞台が整いつつあった。


「さて、ヨルハ。こいつらには、どうやら俺たちの力が効きにくいらしい」


「……はい。まさか、あのフレアですら塵にしきれないなんて……」


 肩の上で警戒を強めながら、ヨルハは緊張した声で返す。その顔には、かつてない警戒と疑念が浮かんでいた。


 だが――バハムートは、涼しげに、ただ一言。


「別に、いいだろ」


 あまりにも軽く返されたその言葉に、ヨルハは驚いたようにバハムートの顔を見上げた。


「バハムート様……?」


「ヨルハ。お前はまだ、“進化した力”をまともに使えてない。バハムートの名を冠する者が、それでどうする。まあ、進化して間もないから仕方がないがな」


 言葉の終わりと同時に、彼の右腕に渦が巻き始める。


 それは風の流れなどという生やさしいものではなかった。空間そのものを削り取るような、怒涛の圧縮暴風。今にもすべてを吹き飛ばし、そして捻じ切りそうな、無慈悲な力の塊。


「――こういうことも、できないとな!」


 バハムートが拳を構える。右腕に渦巻くのは、空間をねじ伏せる暴風の奔流。圧縮され、ねじれ、形を変えながら、今にも爆発しそうな力が蠢いていた。


 迫りくるデストロイヤーの群れ。その最前線に、迷いなく拳を突き出す。


「俺の拳は――ただの嵐じゃない。大先輩に敬意を込めて。受け取れ! ――シュツルム・ナックルッ!!」


 轟音とともに解き放たれた暴風の塊は、雷鳴のような衝撃を伴い空間を裂いた。


 吸い込み、刻み、ねじ切り、粉砕する。渦の進路に立つすべてを、容赦なく巻き込みながら進む一条の暴風――それはまさに“超越の一撃”だった。


 デストロイヤーたちは抵抗する暇もなく、叫びを上げる間もなく、ただ破壊の奔流に呑まれていく。


 その先に、静かに、しかし確かに響く声。


「――伝統を、なめるなよ」


 バハムートの背から放たれる圧力は、戦場の空気すら変えていた。その拳から放たれた一撃は、“災害”という名の理不尽すら貫いていた。

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