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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
転生者とマーケット
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ギルド登録と異形の災厄

誠に申し訳ございません。

可能な限り更新を続けてまいりますが、今週金曜日の更新が休止となる可能性がございます。

ご不便をおかけし恐縮ではございますが、何卒ご了承いただけますと幸いです。

 翌朝。クロはいつも通り、右肩にクレアを乗せ、ノアと並んでジャンクショップを後にした。


 まだ人通りの少ない通りを、三人の足音だけが控えめに響いていく。


「戸籍も正式に登録されましたし、これでギルドへの申請も問題ありませんね」


 クロがそう告げると、隣を歩くノアは少し俯き気味に頷いた。


「はい……。でも、今さら許されていいのか、迷いがないと言えば嘘になります」


 弱々しく漏れた声に、クレアが小さく耳を動かす。だが、クロは歩調を崩すことなく、淡々と答えを返した。


「いいんです。私がもう制裁は加えました。……ただし、二度目はないですけどね」


 その一言に、ノアははっとして顔を上げる。だが、クロの表情はどこまでも変わらない。


「それは……身に沁みてます。本当に、なんで僕は……」


「考えても答えは出ません。あなたはもう“ウインド”ではなく、“ノア”です。過去を悔やむのは自由ですが――前に進まなければ、それも意味がない」


 その静かな言葉に、ノアは肩の力を抜くように息を吐いた。


「……はい」


 その返事は、ごく小さな声だったが、確かに“前を向こう”とする意志がこもっていた。


 そして、三人はギルドの自動扉をくぐる。


 朝のロビーはまだ静かで、受付カウンターの奥では、いつものようにグレゴが無表情で事務作業を続けていた。


 クロは迷わずカウンターへと歩み寄り、穏やかに声をかける。


「おはようございます。今日は新人の登録で来ました」


 グレゴは手を止め、ゆっくりと顔を上げる。その表情は相変わらず仏頂面。けれど、無視することなく目の前のノアに視線を向けた。


「――名前は?」


 低く響く声に、ノアは一瞬だけ肩をすくめた。だが、逃げるような動きはなかった。


「……ノア・シンフォスです」


 短く、けれどはっきりと名乗る。


 グレゴは端末を操作しながら、立て続けに質問を投げかけていく。内容も調子も、クロが初めて来た時とまったく同じだった。


「武器は?」


「……ありません」


「機体は?」


「シゲルさんから、レンタルしてもらっています」


 その返答に、グレゴの指が一瞬だけ止まった。何か引っかかるような素振りだったが、口には出さず次へ進む。


「船は?」


「持っていません」


 そして、最後に――明らかに空気を変える一問が落とされた。


「……人は、殺せるか?」


 静まり返るような沈黙。その問いに、ノアは目を伏せず、まっすぐに答えた。


「……殺したくは、ありません。けど――必要なら、やります」


 その言葉は、強さではなく、覚悟の重さを持っていた。


 グレゴはしばし黙し、そのままノアを見つめ続けた。数秒の沈黙が、静かに重く流れていく。


 そして、ようやく――


「……わかった。身元を証明できるものは?」


「端末にあります」


 ノアは腰のホルダーから端末を取り出し、画面をグレゴに差し出した。


 クロは、ノアの手続きの様子を一歩後ろから静かに見守っていた。


 ひと通りの確認が終わったのを見届けて、彼女は穏やかに声をかける。


「後の手続きは、お願いします。――ノア、頑張ってください」


「はい。ありがとうございます」


 ノアはきちんと頭を下げて答えた。その姿に、クロはほんの一瞬だけ微笑を浮かべ、背を向ける。


 そのままロビーを離れ、近くのテーブルに端末を置いて、最新の情報を確認する。けれど、次の行動に移ろうとしたところで、不意に背後から声が飛んだ。


「――クロ」


 登録作業に戻っていたグレゴが、手を止めずに続ける。


「今日は、ギルマスのところに行け。お前に依頼がある」


 その言葉に、クロは足を止め、軽く頷いてから再び歩き出す。


 受付を背に、ギルド内の階段を静かに上がっていく。二階奥、重厚な木製の扉――ギルドマスターの執務室。


 クロは扉の前に立ち、ゆっくりと拳を上げた。そして、コツンと控えめにノックを打つ。


「だれ~?」


 間延びした声が、扉の向こうからのんびりと届いてくる。


「クロです」


 短く答えると、カチャリと扉のロックが外れ、中から姿を現したのは――ギール。彼は端末の書類を片手に持ちつつ、視線だけをクロに向けた。


 クロは軽く一礼して室内へ入り、机の前まで進む。


「ごめんね、急に呼び出して。ちょっと、君にお願いしたい依頼があってね」


 ギールは手元のデータを操作し、一枚のホログラフィック依頼文を投影する。


「これ、災害の前兆と思われる兆候があってさ。現地の調査を頼みたい。もしすでに事態が発生していたら……その場で処理をお願いしたいんだ」


「災害……とは?」


 クロが眉を寄せて尋ねると、ギールは新たな情報ウィンドウを表示する。


「――“デストロイヤー”。ワームホールから溢れ出してくる、異形の怪物だよ」


「……デストロイヤー」


 表示された映像に、クロの視線が静かに釘付けになる。


 そこに映っていたのは、虫とも獣ともつかない、不定形の外殻と蠢く脚部を持つ怪物。無機質な空間の中で咆哮を上げるその姿には、理屈では説明のつかない“異質さ”が滲んでいた。

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