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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
転生者とマーケット
167/493

転移シャッター、制作完了

誠に申し訳ございません。

可能な限り更新を続けてまいりますが、今週金曜日の更新が休止となる可能性がございます。

ご不便をおかけし恐縮ではございますが、何卒ご了承いただけますと幸いです。

 その後も、艦内では着々と作業が進んでいた。


 シゲルはレイアウト図面の最終調整を終えると、整備用ドローンや作業ロボットへと命令プログラムを入力し始める。配置と動線をリンクさせた制御データが艦内に送られ、艦の内部は少しずつ改修作業へと移行していった。


 一方、アヤコはシステム入れ替え後の安定性を確認するため、チェックコードを走らせつつ、各ユニットの応答に異常がないかを念入りに検証していた。


 艦内の一角では、レッド君に乗ったクレアが細かい指示を飛ばしており――その傍らでノアが正座させられていた。


「だから、これは“保管対象”って言ったでしょう!」


「す、すみませんでしたぁ……!」


 そんな騒がしい一幕が繰り広げられる中、今日の作業は徐々に終盤へと差し掛かっていた。


 クロは、右舷前方の積載スペースに続々と届く荷物を整理していた。端末で確認しつつ、指定された品目を次々と分類していく。


 そして、その中の一つ――シャッターがついに届いた。


 クロは静かにそれを取り出すと、大型の整備ドローンを使い、二枚のシャッターを慎重に吊り上げる。宙に浮かんだそれらを、裏面同士がぴたりと合うように並べさせた。


 そして、その表面に指先で古代文字を刻み込んでいく。呪術のような緻密な筆致。意味を知る者は少ないが、それは明らかに“繋がり”を生むための符号だった。


 小型ドローンが横で待機する中、クロは別空間から壺を取り出す。


 中には、バハムートの血液が静かに揺れていた。


 その血液を塗料容器へと流し込み、赤く染まった液体が細かな霧となってシャッター全体を覆っていく。


 やがて――


 赤に染まったシャッターの表面が、静かに黒へと変化する。まるで何かが吸い込まれるように色が深まり、刻まれた古代文字は一瞬だけ淡く光を放ち、その後すっと消えた。


「……できた」


 クロは呟くように言葉を漏らす。


 テストとして、二枚のシャッターを距離を取って設置。クロは目の前の一枚に手を伸ばし、軽く開けた。


 すると、もう一枚のシャッターも、まるで呼応するように上がっていく。


 そのまま、クロは目の前のシャッターに手を差し入れ――次の瞬間、向こう側のシャッターから、その手が滑り出た。


 空間が確かにつながっていた。


「……完成。“どこでもシャッター”ですね」


 満足げに呟いたその声は、誰に届くこともなく、周囲の作業音の中に静かに溶けていった。


「で、その黒いシャッターが……どこでもシャッター?」


 ふいに背後から声をかけたのは、アヤコだった。興味深そうに目を細めながら、ゆっくりとシャッターの縁を指でなぞる。


 その隣では、シゲルが端末を操作しながら、作業ロボットたちの挙動ログを確認している。


「これでいちいちエアカーに乗らなくてもすぐに来れるな」


 少しうれしそうに、目はどこか楽しげだった。


「クロ様、さすがです!」


 クレアはレッド君の頭の上から身を乗り出し、目を輝かせながら褒め称える。尻尾をぴんと立てて、まるで自分のことのように誇らしげだった。


 一方、その後ろで作業道具を片づけていたノアは、ぽつりと呟いた。


「……でも、名前がちょっと危ない気がするんですよね……どこでもシャッターって……ギリギリ感あるというか……」


 言葉の意味よりも、響きの方に何かを感じたのか、ノアは引きつった笑みを浮かべながらぽつりとつぶやいた。


 それを聞いたクロは、否定も肯定もせず、淡々としたまま応じる。


「機能としては、正確に表現していると思いますが……やっぱり、変えた方がいいですか?」


「できれば、そうした方が……」


 ノアが遠慮がちにそう言いかけた、そのとき――


「ノア! 貴方はクロ様の命名がダメだとおっしゃるんですかっ!」


 レッド君の頭の上からクレアが立ち上がり、耳をぴんと立てて威嚇するように前足を広げた。声の調子は怒りよりも、むしろ“忠誠”による過剰な擁護に近かった。


 ノアは焦ったように両手を振りながら、必死に弁解する。


「い、いやいやっ! そういう意味じゃなくて! ただちょっと、響きがですね……!」


 クロはそんなふたりのやり取りを見て、やがて小さく首を振った。


「クレア、やめなさい。ノアの指摘には一理あります。この名称は、とある作品から拝借したものですから」


 きっぱりとそう言われ、クレアはレッド君の上で小さく肩を落とした。そのまま、申し訳なさそうにうなだれながら、そっと腰を下ろす。


「……申し訳ありません、クロ様」


 その様子を見ながら、クロは一度だけ深く息を吐き、視線を改めて黒いシャッターへと戻す。


「では、名称を再検討しましょう。“どこでもシャッター”ではなく、もう少し汎用性と印象に配慮したものを……」


 言いかけて、少しだけ考え込み――そして、あっさりと言い切った。


「簡単に、“転移シャッター”にしましょうか」


「はいっ。その方が、正直……安心します」


 ノアはほっとしたように頷き、ようやく緊張が解けた様子で微笑んだ。


 そのやり取りを見ていたアヤコとシゲルは、どちらともなく視線を交わし、やや困ったような顔を浮かべる。


「……なあ、結局、さっきの騒ぎはどういうことだったんだ?」


「さぁ? なんとなく、著作権的な何かを回避した気がするけど……深く聞かないでおこうか」


 アヤコは苦笑を浮かべつつ、軽く肩をすくめた。


 そんな中、クロはすでに次の工程に意識を向けていた。


「シャッター、どこに設置しますか?」


 淡々と尋ねたクロに、シゲルは端末を確認しながら即答する。


「こっちは俺が艦側に取りつけておく。クロは、ジャンクショップの倉庫に設置してきてくれ」


 そして視線をアヤコに向ける。


「アヤコ、お前も付き合ってやれ。設置作業、ひとりじゃ難しいかもしれん」


「了解。クロ、行こうか。どうせなら位置決めも一緒に見ておきたいしね」


「はい。よろしくお願いします」


 軽く頷きあいながら、シャッターを別空間に仕舞った後、ふたりはその場から転移し、ジャンクショップへと戻っていった。

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― 新着の感想 ―
ふと思ったけど、黒豆柴それも女の子に指示されながら作業って、叱られてもご褒美では?w
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