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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
転生者とマーケット
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迷わず辿り着いた先に

 しばらく風と戯れるように走り続けたクロだったが、やがて目的地――ホームセンターの看板が視界に入ってくる。


「もう少し走っていたかったけど……仕方ないですね」


 惜しむように呟きながら、駐輪エリアにソラを停める。ロックを確認した後、店内へと足を運んだ。


 向かう先は、ドア類が並ぶ資材売り場――のはずだった。だが、クロの足はふと立ち止まる。


「……シャッター?」


 目の前に並んでいたのは、大型のスチールシャッター群。扉として使うにはあまりに重厚だが、そのぶん大きな荷物も通せる利点がある。


(ドアでも構造を作ることはできる。でも、物資の運搬効率や艦への接続互換性を考えるなら……シャッターの方がいい。気密性の処理さえすれば、搬入用ゲートにもなる)


 クロの頭の中で、必要条件と用途のすり合わせが瞬時に行われていく。大型シャッターなら、搬入用ゲートにも使える。輸送艦側に取り付けることすら可能かもしれない。


 結論は、すぐに出た。


「ありがとうございました。では、シャッターの配達をよろしくお願いします」


 そう言って一礼し、クロは売り場をあとにする。駐輪エリアでロックを解除し、ソラを押し出すと、再び軽やかに走り出した。


 次に向かうのは――自宅だった。


 昼下がりの陽を受けながら、自宅へと向かった。


 到着したのは、自宅のジャンクショップの作業場。


 クロはシャッターを開け、ソラを中へ入れると、カシャンと音を立てて再びシャッターを下ろした。そして手をかざすようにして一瞬、空間を歪ませ――ソラごと別空間に仕舞うと、その場から転移を発動する。


 転移先は、再整備中の『QT-CG・グラウクス』が停泊する整備ドック。


 到着と同時に視界に飛び込んできたのは、すでに塗装を終えた黒い艦体。上面と側面には真紅のラインが一本ずつ走り、前面ハッチには――先ほどまでは途中だったマスコット・レッド君の巨大なグラフィック。


 グッドサインのレッド君が、軍用大型輸送艦にでかでかと笑っていた。


「……少し、ミスマッチな気がしないでもないような……」


 眉をひそめ、クロはぽつりと呟く。


 それでも艦としての威圧感が損なわれているわけではなく、不思議な“らしさ”が漂っていた。


 クロは視線を戻し、艦内のブリッジへと足を向ける。


 途中、通路の一角で見慣れた姿が動いているのが目に入る。


 レッド君の頭の上で指示を出しているのはクレア。そのレッド君の頭上で、宙に浮いたままノアへ指示を出していた。


「その箱は左舷格納庫の奥です。ノアさん、それは不要品ではなく保管対象ですよ!」


「あ、はいっ、すみません!」


 小さなクレアが、しっかりとノアを導きながら効率よく物資の仕分けをしている様子は、どこか微笑ましく、そして少しだけ奇妙でもあった。


(……クレアが仕切ってるのか)


 そんな光景に苦笑しながら、クロは静かに通路を抜け、ブリッジへと向かっていった。


 ブリッジへと足を踏み入れると、静まり返った艦内にただ一人、アヤコの姿があった。宙にふわりと浮かんだまま、数枚のウィンドウを両手で次々と操作しながら、彼女は淡々とシステムの入れ替え作業に集中している。


 クロは扉の前で足を止め、一声かけた。


「ただいま戻りました。……お父さんは?」


 アヤコは振り返らず、にやりと笑みだけを浮かべた。


「おかえり、クロ。ふふっ……今回は迷子にならなかったみたいだね」


 からかうような口調に、クロは軽くため息をつきながらも、静かにゴーグルを外した。


「……ゴーグルのおかげですね。これがなかったら、確実に迷ってました」


 素直に認めたその声に、アヤコの肩が小さく揺れる。


「偉い偉い」


「それと……お姉ちゃん、暇なときでいいので、UIの設定について相談したいことがあるんです」


 クロの言葉に、アヤコは作業中の端末をちらりと見てから、すぐに頷く。


「了解。もう少しでひと段落つくから、終わったら付き合うよ」


「ありがとうございます」


 短く返すその声には、どこか心地よい距離感がにじんでいた。


 アヤコは軽く首を傾けながら、ふと思い出したように続ける。


「じいちゃんは、たぶん食堂にいるよ。レイアウト図面と、にらめっこ中じゃないかな」


「わかりました。行ってみます」


 クロは軽く頷き、ブリッジをあとにしようと向きを変える。


 その背に、アヤコがからかうように一言を投げた。


「さすがに、艦内では迷子にならないでね~?」


「さすがになりませんよ」


 苦笑を浮かべながら返すクロの姿を、アヤコは端末越しにちらりと見やり、微笑みつつその背を見送った。

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