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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
家族としての始まり
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響き合う調整と銃声のリズム

 試射室の奥、ターゲットが静かに起動する。照明がターゲットを照らし、円形の的が回転しながら定位置に収まった。


「――ど真ん中を狙ってみろ」


 スミスは短く告げ、静かにクロを見つめる。クロは無言で頷き、ゆっくりと射撃ラインの前へ進んだ。


 構えたリボルバーに、迷いはない。引き金に指をかけ、狙いを定め――一発。


 乾いた小さな音が試射室に響いた。撃鉄が引かれ、シリンダーが静かに回転する。彼女は間髪入れず、一定のリズムで弾を撃ち続けた。


 シリンダーが一回転した後、ターゲットの映像がモニターに映し出される。画面に現れたのは――中心をかすめる弾痕もなく、ターゲットの外周にほぼ均等に刻まれた着弾跡だった。


「……ずれてるな」


 スミスがモニターを見つめながら小さく呟く。


「クロ。全部、真ん中を狙って撃ったんだよな?」


「はい。引き金の重さも確認しましたし、構えの調整も済ませました。けれど――一回転する間に、中央には届きませんでした」


 クロは静かに答えると、手にしたリボルバーを見つめた。冷静な分析の視線。弾道の軌跡と構造の違和感を、頭の中でなぞっている。


 スミスは頷き、作業台に視線を落とす。並べられた各種工具を手早く揃え、細かな微調整に入る準備を整える。


「ちょっと待ってろ」


 スミスは手早く工具を並べると、クロからリボルバーを受け取り、銃身の角度を慎重に確認しながら言葉を続けた。


「反動と軸のズレ、それと……グリップだな。もう少し小ぶりなものにして、軽くなったぶんの重さでバランスを取る。見てろ――すぐに仕上げる」


 そう言いながら、彼はリボルバーを素早く分解しはじめた。その手つきに無駄はなく、動きに迷いもなかった。まるで、長年使い慣れた楽器でも調律するかのように。


 部品ごとに解体されたフレームを一つずつ確認し、わずかな歪みや内部のエネルギー供給ラインに異常がないかを丹念に点検する。グリップは従来よりやや小型のものを選びつつ、重量配分を調整した素材に置き換えられていく。


「Xフレームの剛性、それにマウントレールとビームダガーの配置を考えて……よし」


 満足げにひと息つくと、スミスは再び組み上げたリボルバーをクロへと差し出した。


「お前の手に合うサイズで、軽くなりすぎないよう重量を足しておいた。握り心地はどうだ?」


 クロは無言で頷き、リボルバーを手に取る。新しいグリップはわずかに細くなっていたが、素材の重みが確かに手の中に伝わってくる。


 違和感は――ない。むしろ、銃の重心が手の中心へ自然に吸い込まれてくるようだった。


 再び射撃ラインの前へ立ち、深く息を吸う。両足で床をしっかり踏みしめ、肘と肩で反動を殺す構えに入る。


 一発目。音は先ほどと変わらず小さく、それでいて芯を持って響いた。


 撃鉄の動き、シリンダーの回転、照準のブレ――すべてが調律されたかのように滑らかだった。


 二発、三発――計六発。クロは一定のリズムで撃ち切る。


 直後、モニターがターゲットの映像を映し出す。そこには、中心を取り囲むようにわずかなズレで刻まれた弾痕――そして、ド真ん中にきれいに残った一発の穴があった。


「……ひとつ、芯を食いましたね」


 クロは静かに言った。喜びでも驚きでもない。ただ、武器との“同調”が手に伝わってきたことへの確認だった。


 スミスはその言葉に満足げに頷く。


「最初の一発が芯を掴んだってことは、構えも反応も正解だったってことだ。あとは身体が馴染めばいい」


「はい。これは――いい武器になります」


 クロの声には、確かな確信が宿っていた。


「――次は、動くターゲットに撃ってみてくれ」


 スミスはそう言いながら、リボルバーの側面を指先で示す。


「残弾は、撃鉄の下部にある小型モニターに表示される。視線を少し落とせばすぐに確認できる位置だ」


 さらに、銃の反対側――シリンダーラッチの対になる位置を軽く叩くジェスチャーをする。


「威力の切り替えはここ。三段階に調整できる。低・中・高……だがな」


 そこで言葉を切り、クロの瞳をじっと見据える。


「――最大出力では撃つな。今、ここのシールドが壊れてる」


「わかりました」


 クロは短く答え、再び射撃ラインへと歩を進める。静かに構え、呼吸を整え――動くターゲットを追いながら、一発目を撃ち込んだ。


 銃声は変わらず小さく、しかし芯のある音が室内に響く。機構は正確に動き、クロの動きもそれに呼応するように滑らかになっていく。


 二発、三発――連続して撃ちながら、彼女の身体が明らかに銃に馴染んでいくのがわかる。重心のズレはすでに消え、構えと反動の収束が自然と一体化していた。


(……いい感触)


 クロは無言のまま、動くターゲットを正確に追い、撃ち続けていた。照準の合わせ方、反動の受け止め方――すべてが徐々に最適化されていく。


 だが、そのとき。


 リボルバーから、短く鋭い警告音が鳴った。クロは一瞬だけ目を落とし、撃鉄の下にある小型モニターを確認する。


 《OVERHEAT》の文字が点滅していた。


「……ここまで、ですね」


 クロがそう呟くと、スミスが作業台越しに頷く。


「オーバーヒートだ。クールダウンが必要だな」


「この冷却、早める手段はありますか?」


 クロの問いに、スミスは肩をすくめながら答える。


「できるさ。専用のホルスターを使えば、冷却速度は上げられる。だが――お前には要らんだろ」


 そう言って、リボルバーを指差す。


「そのために、Xラージフレームと長銃身を選んだ。放熱性も高くしてある。時間さえあれば、自然に冷える」


 スミスの言葉に、クロは軽く頷く。


「……なるほど」


 それだけで、彼女は十分に納得していた。構造の理屈も、機能も、動作から手に伝わる感触も――すべてが一致していた。


 少し間を置いて、クロは視線をスミスへ向ける。


「この調整、料金は必要ですか?」


 その問いに、スミスはふっと口元を緩めた。


「本来ならもらうところだが……今回はいい。面白いものが見られたからな」


 職人らしい言葉だった。理屈より、技術者としての“興”が優先されたのだろう。

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