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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
家族としての始まり
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扉の向こうのマスコット

いつも『バハムート宇宙を行く』をお読みいただき、誠にありがとうございます。


このたび、活動報告を更新いたしました。

もしお時間がございましたら、ご覧いただけますと幸いです。


今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

(……この店、客が来ない)


 開店してからというもの、店の前に立ち止まる者もいなければ、来訪の音すら聞こえない。にもかかわらず、シゲルやアヤコは、日々せっせと部品の解体や組み立てに追われている。


(でも……誰のために?何を相手に商売しているんですか、これは)


 その疑問が浮かび上がったちょうどそのとき――答えは、音とともに現れた。


「こんにちはー!ホワイトライオン急便でーす!荷物の受け渡しと集荷に来ましたー!」


 作業場の外、シャッター前に一台のエアートラックが停車していた。明るい声が響くと同時に、シゲルは端末に手をかざし、シャッターを開ける。


「クロ、そこの隅に積んであるコンテナ、トラックに積んどけ」


 言いながら、投影されたデータ群に視線を落とす。


「了解です」


 クロは淡々と返事をし、指定されたコンテナへと向かう。見れば、そこには子どもの身体では到底動かせないような金属製の大型コンテナが、無造作に積まれていた。


 だがクロは、何事もなかったかのように――それを軽々と持ち上げる。


「っ……!?」


 配達員の男が、盛大に目を見開いた。


「ちょ、ちょっと!?子どもなのに……なんでそんな……!?」


 驚く彼の前で、クロは一つずつ、手際よくコンテナを運び終える。そして、今度はトラックから下ろされた別の荷物を受け取り、同じように片付けていく。


「いやあ、すごい力ですね……子どもとは思えない……」


 驚きのあまり固まった配達員が、やがてぽつりと呟いた。


「でもシゲルさん、こんな子ども……家族にいましたっけ?」


 その言葉に、シゲルは面倒くさそうに応える。


「養子だ、養子。余計な詮索すんな。荷物はありがとうな」


「養子って……シゲルさんが?えっ、なんかの前兆ですか?コロニーに隕石でも落ちる?」


「バカ言ってんじゃねえ!さっさと次行け!」


 怒鳴りつける声を背に、エアートラックは再び静かに発進していった。


「ったく……こんな善人をつかまえて、隕石だとよ。失礼にもほどがある」


 ぶつぶつと愚痴をこぼしながら、シゲルは届いたコンテナのひとつを開けてみせる。中に詰まっていたのは、破損したロボットのパーツ、戦艦から引き抜かれた基板や装甲パネル、電子制御ユニットといった雑多な機材の数々だった。


「クロ、これがウチの収入源だ」


 そう言いながら、シゲルはジャンクの山を無造作につまみ上げる。


「こういう部品を分解して、洗浄して、再調整して――使える部分は新たな素材としてメーカーに売る。中古機体ショップや戦艦改修業者にも卸す。残ったもんはウチで組み上げて、“レッドライン製”の特殊ドローンとか端末に仕立てる」


 手元で投影した受注リストを見せながら、続ける。


「他にも、改造家電として売ることもある。ほとんどが端末経由の注文だがな」


 クロは頷きながら、視線をコンテナの中へと戻す。


「なるほど。だから、客が店舗に直接来ないんですね」


「ああ。来ないわけじゃねえんだが、滅多に来ねぇ。ほとんどはオンラインで完結する」


 シゲルは肩をすくめ、近くにある工具を手に取る。


「ロック・ボムも似たようなもんだ。あっちは、たまに試射目的で人が定期的に顔を出すけどな。あれはあれで、うるせぇ連中が多い」


 静かな口調のまま、シゲルはぽつりと呟いた。


「後は……アヤコの作ったシステムやアプリなんかも売ってる。それも、結構な稼ぎになってるな」


「なるほど。となると……店を開けておく必要はないのでは?」


 素朴な疑問を口にしたクロに、シゲルはじろりと睨みを寄こす。


「バカ。開けとくんだよ。お前みたいなのが釣れるんだからな」


 それを聞いて、クロは言葉に詰まった。確かに、自分とこの家族の出会いも――すべては、この店の扉から始まったのだ。


「……そうですね。開けてくれていて、ありがとうございます」


「気にすんな」


 シゲルは、手元のコンテナに視線を落としたまま、ぶっきらぼうに返した。


 そんな空気の中、クロはふと顔を上げる。


「では――マスコットみたいなものを作ってみましょうか」


「は?」


 素っ頓狂な提案に、シゲルが目をしばたたかせる。


 だが、すでにクロは動き始めていた。別空間から取り出したのは、真紅に輝く石、柔らかな綿、布袋、そして――大量の水。


「お、おい!何を始める気だ、お前……!」


 慌てた声を上げたその瞬間、奥から足音が聞こえた。


「どうしたの?じいちゃん、そんな大きな声出して」


 アヤコが顔をのぞかせる。そして、作業台の上で見慣れぬ材料を次々と組み合わせているクロの姿を見て、目を見開いた。


 クロは布袋に綿を詰め込み、水を注ぎ、最後に真っ赤な石をそっと滑り込ませると、きゅっと袋の口を結んだ。


「お姉ちゃん。ちょうど良かったです。この店のマスコットにしたいキャラ、なにかあります?」


 唐突な問いに、アヤコは小さく首をかしげた。


「え?マスコットって……どういうこと?」


「説明します」


 クロは真顔で頷き、そっと作りかけの布袋を脇へ置く。


「今からえっとゲームは知らないんですよね、そうすると・・・・・・エネミー?を作ります」


「エネミーって……敵のことじゃないの?」


 アヤコの表情が急に引き締まる。


「違います。いや、厳密には敵なんですが、役割的な表現であって……つまり、“下僕”とか、“奴隷”とか――」


「アウトすぎるってば!!」


 勢いよく突っ込むアヤコに、クロは一拍置いて再考する。


「……じゃあ、“従業員”ですかね。もしくは“看板娘”?」


 ようやく無難な単語に落ち着いた。


「最初からそう言って……ほんとお願いだから」


 深くため息を吐きながらも、アヤコはなにかを察したように端末を開き、画面を投影する。


「キャラって言われてもピンとこないけど……こういうの?」


 アヤコがそう言って、端末のスクリーンを投影する。浮かび上がったのは、赤い体に白いグローブ、額には黄色のバイザーが輝く、小さなヒーロー風のキャラクターだった。


 丸くて柔らかそうなフォルム、ネコミミのような頭部、そして前に出した拳――どこか懐かしくて、でも不思議と力強さを感じさせる一枚だった。


「昔ね、じいちゃんに“こんなの可愛くない?”って、お絵描きして見せたやつ。まだ小さかったころ、たぶん……設計ってこういうとこから好きだったんだと思う」


 アヤコはどこか照れくさそうに笑いながら、それでもどこか誇らしげだった。


 クロは一瞬だけ絵を見つめ、それから静かに頷く。


「……いいですね。気に入りました。これをベースにします」


 クロは一枚の紙を取り出すと、指を滑らせ、そこへ古代文字を丁寧に書き込んでいった。文字のひとつひとつが淡く光を放ち、まるで紙そのものが生き物のように脈動している。


「お姉ちゃん。その投影を、この袋に重ねてみてください。本来は想像力と意識による強制投影が必要なんですが……今回は、それでも成立するかを試してみます」


 アヤコは戸惑いながらも頷き、端末からホログラムを操作して、先ほどのキャラクターを布袋の上に投影する。その瞬間、光が袋の表面に吸い込まれるように沈み込み、模様のように定着していった。


 クロは古代文字を記した紙をそっと袋に添え、次に別空間へと手を伸ばす。取り出したのは、深紅の液体が波打つ小さなツボ――バハムートの血だった。


 一滴だけ、慎重に紙へと垂らす。


「……これで、いいです。少し離れてください」


 その声に、アヤコとシゲルが無言で一歩退く。


 次の瞬間――袋に、変化が現れた。


 ただの綿と水、赤い石を詰めた無機質な塊が、ゆっくりと、しかし確実に姿を変えていく。柔らかな曲線が浮かび、輪郭が形成され、色が帯びる。赤いボディに白いグローブ、黄色いバイザー――そう、それはまさにアヤコが描いたキャラクターそのものだった。

6月9日(明日)の更新は、お休みさせていただきます。

ご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解のほどよろしくお願いいたします。


次回の更新は6月10日より再開いたします。

いつも通り、8時・12時・16時・20時の更新を予定しておりますので、引き続きお楽しみいただければ幸いです。


今後とも『バハムート宇宙を行く』を、どうぞよろしくお願いいたします。

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