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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
家族としての始まり
120/469

輸送艦の行方と塗り替えられる価値

誤字脱字の修正しました。

ご報告ありがとうございます。

 アヤコの怒りが落ち着いたのを見計らって、クロが話題を切り替える。


「それで、少し話を戻しますが。あの輸送艦、二隻ありますよね。一隻はギルドに売却しようかと考えています」


 ソファに深く腰を下ろしたシゲルが、ビールを一口啜りながら、膝に乗ってきたクレアにビーフジャーキーをもう一枚与える。


「もったいねぇ気もするが……運用もできなきゃ置き場もねぇしな。うん、それでいいだろう」


 続けて、アヤコが隣のクッションを抱えながら首をひねる。


「そうだね。でも、もう一隻はどこに置いておく? それにペイントとか内部の改装もしたいし……」


「本体を一度、宇宙空間に置いておきますか?」


 クロが提案するが、シゲルはすぐに首を横に振った。


「いや、今はそのままでいい。まずはスペックをもう一度ちゃんと確認しておこう」


 そう言って端末を操作すると、ホログラムが浮かび上がり、艦の仕様が次々に表示されていく。


「――帝国の輸送艦か。さすが、性能は文句なしだな」


 シゲルの感嘆に、アヤコも素直に頷く。


「うん。クォンタム社製の軍用大型補給艦――『QT-CG・グラウクス』。全幅162m、全高112m、全長241m。両舷には巨大なカーゴベイが設置されていて、下部にも小型カーゴベイがある。艦首中央には艦橋と居住ブロック。武装は……なし」


 アヤコは投影されたホログラムに指先を滑らせ、エンジンブロックの部分を拡大表示する。


「でも特筆すべきは推進系だね。メインエンジンは両舷にMQEを搭載、補助のスラスターも最新型のMQEスラスターを四基。これ、かなり高性能だよ」


 その解説に、シゲルが満足げにビールをあおり、ニヤリと笑う。


「これだけの積載があって、航続距離も申し分ない。大気圏にも突入できて、重力下でも問題なく航行可能……文句なしだな。惜しむらくは、シールド機構が無いってことくらいか」


 缶を揺らしながら、シゲルがさらに続ける。


「まあ、あとは改造だな。簡易でもいいから、最低限のシールド機構は積まんといけねぇ。それと、軍用のシステムもいくつか外して、代わりにアヤコの管制ユニットを突っ込もう。カラーリングも変更、ロゴもオリジナルに変えねぇとな」


 そう言って、手近にあったビーフジャーキーをひょいとつまむ。


 だがその手を、すかさずクレアの前足が制す。


 じっとにらみ合うふたり――その間にも、アヤコは新たな提案を重ねていく。


「ねえ、居住区画はどうする? 軍用そのままだと味気ないよ」


「そんなのいらねぇよ。あんな堅苦しい区画なんざ、全部取っ払ってやる。リラックスできるスペース作って、風呂と寝室、それに簡単な調理機能があれば十分だ。どうせ運用するのは俺たちだし、大人数用の機能は不要だろ。広々と快適に使う。それが贅沢ってもんだ」


 ビーフジャーキーの争奪戦は続く。いつの間にか、皿の上には一本しか残っていなかった。


 だが、そんな中でもシゲルは手を止めず、にやりと口角を上げて付け加えた。


「ついでにな、医療ポッドも付けてやる。いざって時のためにな」


 その言葉に、アヤコも満足げに頷いた。


「お金はかかるけど……クロがしっかり稼いでくれてるから、今回は色々できそうだね」


 その言葉に、クロは淡く微笑みながら頷く。


「それは良かったです。持ち帰ってきた甲斐がありました。前回の20万Cと比べても、今回はかなり利益が出そうですしね」


 その言葉に、アヤコとシゲルの手がぴたりと止まった。


「……クロ、前回って、どれくらい資材と物資を持って帰ったの?」


 アヤコが、ゆっくりと神妙な声色で尋ねる。


「大型コンテナ一杯です。それを、二個ですね」


「……それって、大体一棟分くらい?」


 アヤコの眉間に、じわりとしわが寄っていく。


「いえ。正確には、1.5棟分ほどだと思います。その中から、未登録の資材と物資をいくつか買い取ってもらいました」


 淡々としたクロの返答を聞いた瞬間――アヤコとシゲルは、顔を見合わせたのち、息をそろえたように深いため息を吐いた。


 その横で、シゲルは手元のビーフジャーキーをクレアに奪われまいと、さりげなくガードしながらつぶやく。


「クロ、お前……カモられたな。もっと高く売れたはずだ。なにせ、このコロニーは慢性的に資材も物資も足りてねぇんだ。売り手のほうが強ぇ市場なんだよ」


「もう、グレゴさんってば……知らないのをいいことに、ほんとずるいよね」


 アヤコが頬を膨らませながら憤慨し、クロへと身を乗り出す。


「クロ、今の買取査定って、いつ出るの?」


「明後日です」


 即答するクロに、アヤコはにやりと笑いながら拳を握った。


「よし。じゃあ、じいちゃん。明後日は私もついてく。グレゴさんには悪いけど、ガチの交渉勝負を仕掛けるよ」


「おお、やってこい! あいつの悔しがる顔が目に浮かぶぜ!」


 満足げに笑いながら、シゲルは最後のビーフジャーキーを一枚噛みしめ、ビールを喉に流し込む。


 その下で――クレアが名残惜しげにシゲルの膝を見上げながら、そろりと前足を伸ばすも届かず、ふにっと口をとがらせていた。

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