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バハムート宇宙を行く  作者: 珈琲ノミマス
家族としての始まり
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制限された地獄遊戯、開戦の鐘

誤字脱字を修正しました。

ご報告ありがとうございました。

 バハムートの言葉に、ヨルハは一瞬、戸惑いを見せた。前足をわずかに上げ、ちらりとバハムートの顔を見上げる。


「……正面からで、いいのでは? バハムート様にかなう相手はいないですし」


 それは事実としての判断だった。だが、バハムートは首をゆるく振る。


「違う、ヨルハ。もちろん、俺にとっては何も問題ない。けど……そこが論点じゃない」


 金色の瞳が細められ、ふと悪戯を仕掛ける子どものように笑みが浮かぶ。


「どうやったら――一番“面白い”と思う?」


 その問いかけは真剣だったが、どこまでも無邪気で遊戯的な響きを帯びていた。


 ヨルハはきょとんとしたまま、内心でそっと呟く。


(……やっぱりこの方、ちょっと変です)


「“面白い”……ですか?」


 わずかに首をかしげ、空気を嗅ぐように鼻を動かすと、思案の表情を見せた。


「完全には分かりませんが……私なりに考えるなら――正面から踏み込み、敵という敵をすべて蹂躙する……というのは、どうでしょうか?」


 その言葉に、バハムートの口元がわずかに緩む。


「ふむ。正解に近いな。だが、それだけでは芸がない」


 金の瞳が細まり、次の瞬間には猛獣のような愉悦の笑みを見せる。


「よし、縛りをつけよう。まず――“フレア”は禁止だ。使わない」


「……っ!」


 ヨルハが思わず息を呑む。バハムートの代名詞ともいえる殲滅力を封じる――それは、自らに課す制限であり、同時に“遊び”の始まりでもあった。


「戦闘はすべて、接近戦のみで行く。真正面から奴らの中心に突っ込んで、ひとつ残らず踏み潰す。ヨルハ――お前も好きに狩っていい。ただし、フレアは使うな」


「了解しました。近接戦限定……心得ました」


 ヨルハは姿勢を正し、静かに応じる。その内心には、ほんの微かに高揚と戦慄が同居していた。


 それは恐怖ではない。傍にある存在が、全力で“遊び”に踏み込もうとしている。その事実だけが、ただ静かに重たく響いていた。


「あと、拠点と戦艦は無視だ」


 バハムートの声が、淡く、けれど明確に空気を支配する。


「奴らの“拠り所”は壊さず残す。その中で、何が起きたのかを奴ら自身に見せてやる。無力を刻み込んでから、“本当の地獄”を贈る」


 その声は、まるで裁定者のように冷静で、執行者のように冷酷だった。


 そして、その“執行”は――突然始まった。


 首領は通信を終え、格納庫へ向かっていた。新型機の調整に取り掛かるためだ。だが、その足が途中で止まる。拠点内に警告灯が走り、赤色の非常灯が回転し始めた。


 直後、スピーカーから鋭いアラートが響き渡る。


「警戒レベル、最大値へ移行。敵性反応確認!」


 周囲の空気が緊迫に染まる。オペレーターの声が上ずりながらも、必死に続ける。


「反応熱源、二つ。ひとつは戦艦クラスの大型反応……もうひとつは、それに随伴する高機動機体!」


 首領が眉を寄せたそのとき、別の通信士が叫んだ。


「照合開始――ハンター登録情報と一致。……え? ハンター名、クロ。登録階級、Fランク。機体名……バハムート!」


 報告を受けた管制室内に、瞬時に沈黙が落ちる。


 誰もが、耳を疑った。


 その静寂のなか、ぽつりと誰かが呟く。


「……子ども? Fランクの素人が、バハムート……だと?」


 聞き間違いか、冗談かと疑う目線が端末に集まる。だが、表示されたID照合結果も、解析ログも、すべて正規の認証を通過していた。


 首領は不快げに顔をしかめ、端末に映るデータを睨みつける。


 数値に偽りはない。だが、その内容が現実離れしていた。


「馬鹿な……素人が“バハムート”の名を使って売名か? しかもガキ一人に、今までにない戦艦クラスの機体を用意したってのか……? ふざけやがって」


 通信端末のマイクを掴むと、首領は怒りをぶつけるように叫んだ。


「全戦闘員に告ぐ! 即時迎撃態勢に移行しろ! あんなものはでかいだけの張りぼてだ、ビビるな! ただの案山子だ、ぶっ潰せ!」


 怒声が拠点全体に響き渡る。


 兵士たちは慌ただしく動き出したが、その足取りには緊張も焦りもなかった。


「ハンター:Fランク」「子ども」「バハムート」という、本来結びつくはずのない三語が放つ違和感を、誰も真剣に受け止めていなかった。


 彼らの意識はあくまで「いつもの対応」。この侵入も、よくある越境者や不届き者の延長線上――そう思い込んでいた。


 だがその思い込みこそが、命取りだった。


 目前まで迫っているのは、“案山子”などではない。


 名を冠した“存在”――真の災厄。


 誰もそれに気づかぬまま、開戦の時を迎えようとしていた。

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