56:連れ出す
「俺が…白い破滅に抗える存在?」
俺の呟きにセレナは首を縦に振る、アリアは俺と同じくセレナの言葉に思考が止まっている様だった。
「え、ええ?セレナは聖杖から白い破滅を教えられてて教国に来たのはそれに抗う方法を見つける為でその抗う方法はベルク?…ま、待って、立て続けに情報が入ってきて頭が…」
「ご、ごめんね…確かに突然こんな事言われても現実感ないよね」
頭から煙が出そうな勢いのアリアをセレナが慌てて介抱する、正直自分も情報を整理する為に休みたかったがそうも言ってられなかった。
「俺が君の言う抗う存在なのかは一旦置いておこう、それより君はこれからどうするつもりだ?」
俺の問いにセレナとアリアはこちらに振り返る、頭を掻きながら今の状況を説明した。
「俺達の目的は君を保護してヴィクトリアを襲撃した者から守る事だ、そして君の目的は果たされたと仮定した上で話すが君はどうする?俺達と共に帝国に来る気はあるか?」
アリアも真剣な眼差しでセレナを見る、セレナは目を閉じて逡巡すると意を決して答えた。
「私も連れて行ってください、貴方に会えた以上は教国をこのままにする理由もなくなりました」
そう言うと腰に下げた鞄から紙の束を取り出す、受け取って内容を見るとそれは金銭や物品のやり取りのリストや契約書だった。
「私が五年掛けて集めた教皇を始めとした教国上層部の汚職の証拠です、全てを集めれた訳ではありませんがこれ以外にも彼等が欲に塗れた行いの一部始終も抑えてあります」
「…大したものだな、これが公開されればラウナス正教の上層部は軒並み吹き飛ぶぞ」
「私が教国に来た時に後見人となってくれたマザー=メルティナから引き継いだものです、時が来たらこれを上手く使ってくれと」
マザー=メルティナは俺でも聞いた事がある人物だ、孤児や行く場のない者が働ける様に識字率を高める為の教会での教育制度や体制を整えたり五年前からヒューム大陸を巡って慈善活動を行っている事から女性でありながら司教の位に就いた“聖母”と呼ばれる人だ。
「マザー=メルティナが五年前に教皇達の陰謀によって教国を追い出された時からこの国の腐敗は一気に進みました、私は無知で信仰心ある貴族の娘という印象を与える事で彼等から警戒されない様にしていました」
「…なんというか良く無事だったわね、これだけの事をする人達がセレナを放っておくとは思えないけど」
「私にそういう事しようとしてくる人もいたけど“聖杖は純潔の身しか認めませんがそれでもしますか?”って言ったら引き下がったわ」
「え?聖杖ってそんな条件があるの?」
「もちろん嘘、でも三百年もほったらかしにしてた聖杖に選ばれる条件なんてあの人達に分かる訳ないもの」
悪戯めいた笑みを浮かべながらセレナは向けられてきた悪意から逃れてきた事を語る、この強かさはどことなくアリアや姉達と似ている気がした。
「決まりだな、ひとまずはこのままセレナを連れて…っ!」
カオスクルセイダーが伝えてきた事を確認する為に窓際に移動して外を確認する、窓の外から見えるものに思わず顔をしかめた。
「ベルク?」
「どうやら教国も易々と逃がす気はないらしい…」
二人にも窓際から外を確認させる、窓の外から見える街道の奥から完全武装した正教騎士団がこちらに向かってきていた…。