本当の家出
「アルレット!!無事で良かった!!」
リオネル様と街へ観光に行った翌日、父が突然やってきた。
「どれだけ心配したと思ってるんだ。 どうしてすぐに帰って来なかったんだ? 母さんもフルールも心配していたんだぞ」
父の言葉に心の底がすーっと冷えていくのが分かった。
全くこんなに白々しいことをよく言えるなと感心する。
誘拐される前の私だったら父が心配してくれたことに泣いて喜んでいただろう。
しかしあの誘拐事件で諦めがついた・・・というか目が覚めた。
父にとって私は利用価値がないから捨てられたのだ。
そして今、利用価値があると分かり連れて帰ろうとしている。人の気持ちも考えずなんて自分勝手な人なのだろうか。
「まったく、すぐに帰ってくれば良いものを娘の我儘で長い間お世話になってしまい何とお礼を言ったら良いか・・・。 本当にありがとうございました。 また改めてお礼に伺いますので今日はこれで失礼します。 アルレット、さあ行くぞ! 」
「・・・帰りません」
「は? 何を言っているんだ! これ以上迷惑をかけるんじゃない!!」
いつも淡々としている父が大声を出すなんて珍しい。それ程焦っているのだろう。
「まあまあ、お茶を用意しましたので少しゆっくりしていってはどうですか?」
リオネル様がにっこり微笑んだが目は笑っていない。
「ご存知とは思いますが、現在カンタールには魔物が侵入してきていてその対応に追われているのです。 本来なら私も魔物討伐にいかなければならない中、娘のためにわざわざ時間を割いてここまで来たのでゆっくりしている時間はないのです」
「それはそれは大変でしたな。 しかし魔物討伐は控え役の方々が担っていると聞いていますが、ロバート殿はどこか調子が良くないのかな?」
ウィルソン様の問に父は口ごもる。
当然だ。単に魔力が弱くなっていることを知られると不都合なため魔物討伐へ行けないだけだ。
「実は娘が誘拐された心労から体調を崩していまして・・・・・・。 でも心配ありません。 娘が無事屋敷へ戻ればすぐに回復するでしょう」
「私は帰りませんよ。 そして二度とお父様に強化の魔力は使いません」
「!!」
父の顔が青ざめる。まさか私が父の目的に気付いていないと思っていたのだろうか。
昨晩リオネル様が深刻な顔で部屋へ来た。そこで父が私を迎えに来ることを知った。
どうして今更迎えに来るのだろうか?助けようともしなかったのに。
「きっと君がいなくなって自分の魔力が弱まっていることに気付いたんだろう。 カンタールへ帰ったら当主の座に居続けるために、君に魔力を使わせるつもりさ」
プライドの高い父ならそうするかもしれない。
そして私は父のために力を使い続けることになり、カンタールからは一生出られないのだ。
想像するだけで恐ろしかった。当然私は帰りたくなどない。
でもただ帰りたくないという理由でこのままここに迷惑をかける訳にはいない。
私が黙りこんでいるとリオネル様が言った。
「もういっそのこと君の魔力を公表してはどうだろうか? 君の魔力は素晴らしい。 しかし自分自身を守ることは出来ない。 ならばその力を公表しよう。 君の能力なら希望すればきっと王宮で職を与えられるだろう。 そうすれば護衛も着くだろうし、周りの目もあるから誰か一人だけが君を独占することはできなくなる」
王宮で働くということは王をお守りするということ。
そこで働く者達は素晴らしい魔力を持っており、当主と同等かそれ以上に名誉あることだ。
そんな所へ私が行けるとは到底思えないが、カンタールへ戻らなくて良くなるのであれば公表する方が良いかもしれない。
「でもそうなったらリオネル様は・・・?」
「後継者は取り消しかもね。 でも良いんだ。 やっぱり人の力で後継者になろうなんて間違ってた。 たとえどんな結果になろうとも、自分の力でやらないといけないんだ。 ・・・・・・だから君も、君自身のために頑張るんだ」
そう言うとリオネル様は優しく頭を撫でてくれた。
それが別れの挨拶のように思えてなんだか寂しかった。
父へカンタールには帰らないことと強化の魔力を使わないことを宣言し、そのまま部屋へ戻ろうとしたその時
「なにふざけたこと言ってるのよ!!」
フルールが肩を震わせながらやってきた。
ああ、あなたも一緒に来てたのね。
「お姉様が帰ってこないとどうなるか分かってるの!?」
「当主の座を追われるだろうな」
ウィルソン様が厳しい口調で続ける。
「今まではアルレット嬢の魔力によって当主相当の力へ強化されていたが、彼女がいなくなった今の君の力では領地や市民を守ることは出来ない。 他の者に当主の座を譲りたまえ」
自分の魔力が衰えていることも、今まで私の魔力で補ってきたことも全て知られていると分かった父は顔を真っ赤にして叫んだ。
「私に控え役へ回れと言うのですか!?カンタールはここまで代々続いてきたのです、私の代で終わらせるわけにはいかない!!」
「本当の実力あっての当主だ。 他人の力に頼るのは、君のためにも周りのためにも良くない」
父へ言っている言葉なのに、他の誰かへも向けられているようだった。
「私はカンタールへは帰りません。 それでお父様が当主の座を追われることになっても。 今までお父様の魔力を強化してきた私が間違っていたのです。 そのせいで今魔物が侵入してしまい、カンタールの人達は怖い思いをしている。 ・・・・・・本当に申し訳ありませんでした」
私は憤怒し騒ぎ立てる二人を残し、そのまま部屋を後にした。
それから数ヶ月経ち、ウィルソン様の口利きによって私は現在王宮で働いている。
職務は護衛の方の魔力の強化や当主の作る結界の強化など多岐にわたる。
私の力の特殊性から、リオネル様の言った通り護衛も付き安心して暮らせるようになった。
カンタール領は当主交代となり今では名前が変わっている。
父と継母とフルールは屋敷を追われ、今では控え役として新しい当主へ仕えているらしい。
そしてリオネル様は後継者ではなくなり、弟のモーリス様がアルバトスを継ぐこととなった。
私達の結婚の話もなくなった。けれど・・・・・・
「なんでリオネル様までここにいるんですか?」
「冷たいなー、元婚約者じゃないか! アルバトスはモーリスに任せて僕は好きなことをやるって決めたんだ!」
気が付いたらリオネル様も王宮で働いていて、今は仕事仲間といったところだ。
「弟には及ばないが、僕は君の力がなくても王宮で働けるくらいの実力はあるんだよ。 それに、魔力以外なら君を独占しても良いんじゃないかと思ってね」
そう言うとにっこり微笑み優しく頭を撫でた。
こうして私の家出は成功したのである。
どうにか完結できました!
初めての小説なので不慣れな点が多かったと思いますが、最後までお付き合いいただきありがとうございました!