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39. そういう世界 その三

「……いきなり犯罪者扱いは酷いんじゃない?」


 どうにかパイを飲み込んで残りをお茶で流した――美味しいのに吹いたりしたらもったいない。


「だって、国境が越えられないってそういうことでしょう!?」


 ああ、なるほど。犯罪者は越えられないのか。


「いや、越えられないわけじゃなくて。ただどっちに行くかで――ハインスベルク王国やクレーヴェ王国側には行けるけど、ヘクスター共和国側には行けないってだけ。犯罪歴があるせいで国境越えが難しいわけじゃない」

「……なんで? この国から出るならハインスベルクもヘクスターも手続きは変わらないじゃない――犯罪歴がないならどっちかだけダメだなんてそんなはずない。転移魔法が使えるならなおさら――」


 そう、俺の問題は単に、最初にいた国から遠くなりすぎると国境を越えられなくなるってだけだ。


「カミサマに阻害されてるんだよ」

「は?」


 カミサマの裏事情――は、ばらさない方がいいか。


「とにかく、俺の履歴はクリーンだよ。それに、お互い転生者だってことがわかったんだからもうちょっと信用して――そうだ、対外的なステータスの出し方、教えてよ」


 ステータス画面を呼び出す。

 たしかミチカがビューをアクティブにすると他の人間にも見えるようになるって――で、その状態(つまり補助の魔道具ナシ)でステータスが出せるのは転生者だけだって話だったと思う。それが見えるのも転生者だけだ。


「ビューを長押しで『エクスターナル』を選択するのよ。知らないの?」

「へ~。なるほど、エクスターナル……表向きな表示ってことか……長押しとか、初めてやった」


 あきれ顔だ。

 ええっと、なになに……名前「エドワード・A・アッシュ」年齢「一八歳」性別「男」ステータス「正常」そこまでが横一列。

 あ、なるほど、名前が短くなって、ミドルネームはアーサーの方に。なんかずいぶん適当な……微妙なごまかし方だなぁ―――ん? んんん?

 その下に、職業『非公開・・・ : 本人の了承がない場合は閲覧不可』ってある。

 ベイシック・ジョブとカレント・ジョブの記述がなくなって職業にまとめられて――しかもなにこの『非公開』って。無茶苦茶怪しい。

 トン、とそこをタップしてみたら「職業を公開しますか? Yes / No」って出た。

 Yesを選択――「暫定職業を設定してください。1.他国に亡命中のアホ王子 2.出奔した他国のアホ王子 3.世に知られざる他国のアホ王子 4.行き場のない他国のアホ王子 5.外見に極振りした他国のアホ王子(視察中)」


 ………………。


 って、またコレ! アゲイン!! インベリアボー(変化しない)でアンノータボー(変更不可)な『アホ』の文字!!

 すごく酷い。それに最後のやつ『アホ』なのに『視察中』ってなに、それ。


 しかも本来のやつについていたはずの『一応元』がない――!? 慌ててビューを戻してみたら、ちゃんとついてるのに――どこ行った!? それに他のやつもおかしい――これだと現在進行形でどっかの国の王子様だ。どういうこと――エドワードの廃嫡手続き、とっくに終わってると思ってたけど、まさかまだなのか?

 ちょっと途方に暮れる。

 いやいや、途方に暮れている場合ではない。

 ……とりあえず、設定できるとしたら2、かなあ? でもやっぱ非公開がいいと思う。一応2を選んだあとで職業は非公開に戻したけど、なんか落ち込む。


 それから表示してもいいスキルも選択――魔法適性は本来の火と水と雷撃を選択して、治癒と剣技を追加――だけどレベルは非公開に。その他のオプションは全部『非表示』にした。ラーニングアビリティーのせいですごいことになってるから、最初からあることを知らせない方がいい。……しっかし、けっこうな量だな――必要な分だけラーニングしたつもりが……あ、これいらないかも――ポチポチポチ。あ、転移魔法はバレてるから表示させとこう――ポチポチ。


 ふう。これくらいで『ちょっとはできるやつ』くらいな設定になったかな。

 と、そんな感じで設定は終えた。終えたんだけど。


 はあ……。

 俺の人生から、アホは取れないのか?

 悲しい気持ちで画面を見つめていたら、


「……ずいぶんな百面相をしてるけど、『自分の』ステータス画面を見てそんなふうになるって、どんなおもしろいことが書いてあるの?」


 ってメアリが聞いてきた。

 ……アホの衝撃が過ぎてメアリのことを忘れてた。


「職業が出ないけどそれでもいいなら見ていいよ。おもしろくないけど、どうぞ?」


 くるりとひっくり返す動きで画面をメアリの方にむける。


「犯罪歴は――本当だ、ないのね」そう言いながらスクロールする動き。「色が変わらない――名前も年齢も――経歴の詐称もなしってこと――職業が非公開だけど。魔法適性が四種類!? しかも剣技にも適性有りってすごいハイスペック……さすがの転生者ってこと……『仕事は自分で見つけられる』ってあれ、嘘じゃなかったんだ。でもなんで職業が非公開なの?」


 本当だよ。

 『王子』の文字さえ入っていなければ公開するのに。あと『アホ』も。


「……はあ」


 重々しいため息がでた。


「わたしも転生者なのよ? 教えたらダメってことはないでしょ?」

「……俺の希望してるジョブじゃないし、転職するつもりだし、いろいろ面倒なんだよ」

「つまり、見られたくないことが書いてあるんでしょ?」


 まあ、そうだ。

 しぶしぶ頷いた俺に、メアリが目を細めた。


「今のあなたに犯罪歴はない――でも、今後一度でもやったらその経歴は消えないわよ」


 だからなんで俺を犯罪者扱い――予備軍にしようとするんだ。

 そういえば広場の噴水のところでもなんか――急いでたからそのままになってたけど。


 記憶を巻き戻す。

 あの時の会話――『ふざけてたわけじゃないっていうのはわかってるの! だけどこの国では――っていうか、どの国でだってそういうつもりでそういう相手を探すのは違法だし、生まれ持った個人の特性に文句を言えないのはわかるけど――知ったからにはわたしにはそれを止める義務がある――』で、あの時俺が思ったのが、俺が彼女になってくれる人を探すのはダメなのか? ってこと。

 だけどまさか、そんなはずがない。ナンパができるんだからこの国だって自由恋愛のハズだ。

 で、そのあとあのちっちゃい子のことがあって――俺は誤解だって言ったはずだけど、騎士たちが迫って来て転移を――。

 で、さっき言われたのが、『国境が越えられない!? 重罪人じゃない!! 何をやったの――って、アレ!? ……さっきのあの子――本当にやったってこと!? それなのにまた性懲りもなく!? それで定住できないのね!! あっぶない。騙されるところだった。顔のいい男と口のうまい男には要注意だったのに油断した。とにかくこのままにはしておけないわ。逃げる気はないみたいだけど、どうしたら……』ってやつ。


 ってことは。


「……メアリ、まさかと思うけど、まだ俺がロリコンだって疑ってる?」

「だって、そうなんでしょう!?」


 ……ホント、この世界って俺に酷い。

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