37.そういう世界
「「……」」
メアリは引くつもりはないみたいで、そのまましばし睨み合った。
メアリに悪気がないのはわかってる。昨日も一昨日も宿に帰ってから確認したけど、メアリと一緒にいた間のログは『隠ぺい』以外出ていなかった。単に黙っていることがある程度ならログは出ないから、それはメアリには隠し事があるってことで、それが人よりはちょっと大きな秘密だということではある。
だけど、そのくらいはたいしたことじゃない。会ったばかりの人間に話せないことくらい誰にだってあると思う。それに『策謀』も『陰謀』もなかった。だからメアリの隠し事は疚しいものじゃないってわかる。
今だってそうだ――つまりこれはただのお節介で、本当に『心配』されているか『懐かれた』ってやつだ。
だけど、だからこそ疑われたのは辛いし、定住先は本当に必要ない。
と、軽く睨み合っているところに、小さな事件が起きた。
ふと気づくとメアリの表情が固まっていて、どうしたのかと見回せば制服姿の騎士らしき人たちが五名、こっちに向かって歩いてくる。よくよく見ればその後ろにも、遠巻きにして五名。いや、もっといるな――。
なんだ?
俺たちを囲むように立っている。ってことは狙いは俺みたいだけど、ログが出ていない。
ログが出ないってことは大きなトラブルではないってことだけど、なんにせよメアリを巻き込みたくない――だって彼女は親切にいろいろ教えてくれた恩人だ。
なんだか複雑な表情をしているメアリは、ちょっとおびえているようにも見えて申し訳なくなる。
だけど、大丈夫だ。これはたぶん俺がここにいなければそれで済むことのはず。
あっさりとそう結論を出すと、俺はその場を離れることにした。
「メアリ、色々教えてくれてありがとう――俺、もう行くよ」
「エド、待って――」
メアリが俺を引きとめようとした時、遠巻きにしている方の騎士たちの一人の背後に見覚えのある少女の姿を発見した。
この前逃げた子だ。
不用意に食事を勧めたことを謝りたくはあったけど、たぶん近づいたらすごい勢いで逃げられるだろうな――って、もしかして。
大いなる心当たり。
……今自分が騎士に囲まれてる理由ってそれか。
危険な性癖を持つ不審者がいるって通報されたのか……うう、ただでさえジョブがアレなのに。これは絶対捕まるわけにはいかないな。
「メアリ、ごめん。俺、捕まるのはまずいからもう行くよ。俺のことはよく知らないってことにしてくれればそれで済む――」
「エド、ごめんなさい――」
謝罪の言葉をかけられた。でも、信じてもらえなかったことならもういいし――そのあとに続きそうな言葉を急いで遮って急いで話す。騎士たちはもうすぐ近くまできてる。早口で言い添える。
「いや、知らなかったとはいえ悪いのは俺だし。できたら俺のこと、誤解だってとりなしてくれると助かる。あんなちっちゃい子をどうにかしようなんて思ってない。俺が探してるのはたった一人――本気で彼女になってくれる人だし、恋愛対象者は十八歳以上だ。プラトニックなら十六歳以上もありだけど」
メアリの目が大きくなって、その後で俺の視線をたどって振り向いた。あの少女に目を止めたらしく、こっちを見た目がさらに大きくなっていた。
「残念ながら目を付けられちゃったみたいだ――いろいろやらかしちゃったからにはしかたないけど」
リベンジはまた今度にしよう。
「待って! あの――」
「じゃ。いろいろありがとう。君にもいい出会いがありますように」
まあ、この場合ならしかたないだろう。今はとりあえずどこかに場所を移そう。メアリのその後も気になるからあんまり遠くないところに転移して――様子を見てから違う町に行くか違う国に行くか考えよう。
「だって、どうするつもり!? 囲まれてるのよ?」
「ああ、俺、転移魔法が使えるんだよ――だから心配いらない」
種明かしをしてから小さく手を振って転移魔法を発動――しようとしたんだけど、なぜか俺はその場から移動できなかった。
?
どういうことかと一瞬だけ眉を寄せ、さっき消したばかりのウィンドウを呼び出す。とりあえずログを確認――。
「スキル『魔法効果無効』をラーニングしました。アクティベートしますか? Yes / No」
!?
なんかすごく有用性の高いやつが来たみたいだけど、つまりこれって、すぐそこまで来ている騎士の誰かがそういうスキル持ちってこと――ってどうしよう。転移魔法が使えないってことは、物理か? 倒して逃げる? それは……できないことはないだろうけど。物理的に振り切って逃げるのは――やればできるだろうけど絶対に騒ぎは避けられない。
どうする? やるか?
……いや、別にやる必要なくない?
二秒考えて、俺はラーニングしたばかりの『魔法効果無効』とやらをラーニングした。
相手の『無効』を『無効に』する作戦。
ふふん。俺って頭いい~。うむ。やっぱアホは元、で返上だな。
「よしっ」
今度こその転移魔法は幸い無効化されることはなく、無事広場の端の方にある屋台の陰に移動することができた。
で、予想通りに中央の噴水のところでざわめく声――「うおっ!?」とか「どこ行った!?」とか「探せ!」とか。
だけど、予想外なことが一個……。
「えええええっ!? なにっ? なんでっ?」
って、俺の腕をつかんだままのメアリがついてきたこと――。
『なんで?』はこっちのセリフだ。
通常なら、俺の転移魔法はそうと意識しない限り一緒にいる人間を移動させたりしない。
だからメアリはあの噴水の場所にいるハズなのに。
目を丸くしていたら、もう一個予想外なことが。
「なんで……確かに無効化したのに」
って呟きが、そのメアリから。
「って、あのスキル、騎士さんじゃなくてメアリの……?」
釣られて呟いて慌てて口を押えたものの、もう遅――。
「エド? あなたまさか――嘘噓嘘っ、あなたみたいな人、いなかった。絶対キュン♡ラブのキャラじゃない――まさかわたしが死んだ後で続編が出たの!? それともまさかわたしが気づけなかった隠しキャラがいたっ!?」
………………え?
それって。
つまり、そういう――ホント、俺だってゲームキャラかと思うような美少女だって思ったしね。最初に会った時点でね。
俺、アホだ。
この世界ではたいてい一つの国に一つのストーリーが当てはめてあって、だとしたらここにだって送り込まれた人間がいるって考えるのは至極当然で、しかもそれがかわいい子じゃないなんてことはない……むしろこれだけかわいい子なんだから絶対関係者だと思うべきだった。
最初から町娘のかっこで『ヒロイン』や『悪役令嬢』に見えなかったから油断した……orz。




