承.“卑しい底辺の娘”は正体を現わした
み~た~なあ!!
けけけけけっ、生きて帰すわけにはいかんぞえ!!
会場内は水を打ったように静まり返っていた。誰もが、今の状況を理解できなかった。
――帝国の皇女が、なぜここに?
疑問が貴族たちの頭の中に浮かぶ。アルカディア帝国は、ルナリス王国の北に位置する大国であり、その軍事力と魔法技術は大陸随一と言われていた。そんな帝国の第一皇女が、なぜ雑多な小国の一つに過ぎないルナリス王国の建国記念パーティーに、しかも粗末なドレスを着て現れたのか。
『セレナ』改め、アリスティアの目は、ルドルフからマリア、周囲の貴族たちへとゆっくりと移った。その視線は、一人一人を裁くかのように鋭く、冷たかった。
「私がなぜここに……という顔をしているな。答えは簡単だ。セレナは私の腹違いの妹だからだ」
またもや場内がざわめく。貴族たちが驚きの声を上げ、隣同士で囁き合う。
「セレナは皇族としては認められなかったが、私とは血の繋がった姉妹という事実には変わりない。姉妹として交流があっても不思議ではなかろう」
「だがしかし、セレナは……平民で」
セレナの養父であるエーレンブルク公爵が冷や汗を流しながらも反論する。その反論に、アリスティアはギロリっと睨みつけながらも否定しなかった。
「その通り、セレナの母親は平民だ。だが、父親は皇帝陛下である事実には変わりはない。皇族であらば皇位争いを始めとする政争は避けられず、何の後ろ盾のない平民の母親が政争に巻き込まれたらどうなるかなど説明せずともわかるだろう?
だからこそ、皇帝陛下は母親と生まれたばかりのセレナを政争から遠ざけるために、ルナリス王国のエーレンブルク公爵家に預けた。エーレンブルク公爵もセレナを養子、母親をセレナの乳母として迎え入れ、夫人と共に我が子同然に愛情を注いでくれた。
皇帝陛下も妻子を大事にしてくれるエーレンブルク公爵夫妻に感謝し、少しばかりの援助をしていたのだが……そうした事情は先代の兄夫妻から聞いてなかったのか?」
「そ、それは……」
アリスティアの問にエーレンブルク公爵は答えられなかった。
彼の公爵位は、兄夫妻を事故に見せかけて殺したからこそ得られたものだ。セレナのことも、母親が平民ぐらいしか知らなかった。帝国からの援助金もなぜもらえるかだなんて深く考える事なく自分の懐に入れ、セレナには最低限の生活しか与えていなかった。
“卑しい血筋でも、才覚はあるのだから精々利用し尽くしてやろう”
それぐらいの認識だった。兄夫妻の遺した養女など、自分が爵位を継いだ以上は自分の所有物と同じだと思っていた。
“貴様の魂胆なぞ、すでにお見通しだ”
アリスティアが公爵に向ける冷たい視線は、まさしくそう語っているに等しいもの。公爵はもう生きた心地がしなかった。
「まぁ公爵がどのような経緯で公爵になったかは置いておこう。私が問題としたいのは、セレナが婚約者の義務として王太子の仕事を全て肩代わりさせられている件。その功績を全て王太子のものにされている件だ」
アリスティアの視線が公爵からルドルフに向けられる。セレナと似た顔立ちながらも、セレナにはない王者としての風格に彼は顔をこわばらせた。
「特に今日のルナリス王国の建国記念パーティーの準備は、義妹がほぼ一人で行っていた。本来準備せねばならぬ者が遊び惚けている間、義妹が寝る間も惜しんで奔走していた。これに関して、諸君らはどう思っている?」
彼女の声は静かな怒りというべき威圧が込められていた。まるで部屋全体の空気が重くなったかのようだ。
無関係な者、事実を知らない者でさえも恐れを抱くほどの威圧だ。セレナがどのような扱いを受けているかを知りながらも、手を差し伸べなかった者。黙認とも言える態度を取った者は、生きた心地がしなかった。彼らの多くが目を伏せ、うつむきかげんになる。
「私は今にも倒れそうな体調であるにも関わらずパーティーに参加しようとした義妹を休ませるため、私が代理として参加した。代理であるから、義妹が着る予定であったドレスを着て……な」
アリスティアは自身のドレスの裾を軽くつまみ上げる。その生地は確かに粗末で、王太子の婚約者が着るにはあまりにも見すぼらしかった。
「全く、王太子の婚約者にこれほどまでの粗末なドレスしか用意できないとは、ルナリス王国の財政は大丈夫なのか?」
「そ、それは……セ、セレナが……無駄遣いをするからだ!」
ルドルフが必死に言い訳するも、その声は震えており、説得力がなかった。
「無駄遣い……か。なら、王太子殿下よ。貴様の隣に立つ令嬢の着ているドレスとアクセサリーをどうみる?それらは、私の父上。皇帝陛下がセレナに送ったものだ。帝国の皇族専用のデザイナーに用立てた逸品であり、市場価格にすれば小国の国家予算にも匹敵しかねない贅沢品を着ている事実をどうみる?」
嘲笑に近い笑みを浮かべた彼女の指がマリアを指し示した。マリアは蒼白になりながらも、とっさに思いついた言い訳を述べた。
「し、知らなかったのです!エーレンブルク公爵令嬢充てだったから……私充てだと思って」
そんなわけあるか!!
アリスティアはマリアにそう言ってやりたかったが、まともに相手をしているといつまでも本題に入れない。
アリスティアは別に今ここで愚か者たちをざまぁな目に合わせる気はない。彼女の最優先事項はただ一つ。一刻も早くセレナを王国という牢獄から連れ出す。それだけだった。
っというか、皇女様が動くまでもなく勝手にざまぁされそうな気がする……




