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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者:
第五章 メイドたちの絆

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083. ルリとキウイの魔力制御訓練

 フィオーレ城内、広大な軍の訓練場。

 普段は騎士団の威勢のいい声が響くその場所で、二人の影はその静寂の中に相対していた。


「ではルリ様、魔力制御の特訓を開始いたします」

「うん、わたし、がんばるよ……! キウイ、よろしくね!」


 キウイの落ち着いた合図に、ルリの張りのある声が響き渡る。

 二人はここにいる目的は、ただ一つ。

 ルリがサクラの身体を二度と傷つけないための、魔力制御の特訓のためだ。


「すみません、私の空き時間とこの場所をお借りできる時間がなかなか合わず調整に手間取り、訓練開始までしばらくお待たせしてしまいました。別の場所も考えたのですが……やはり、ここが一番落ち着くでしょう?」


 キウイが周囲の開放的な空間を見渡しながらそう言うと、ルリは懐かしむように笑みをこぼした。


「ふふっ、そうね……なんだか、なつかしいな。ここでキウイとたくさん魔法の練習したもんね」


 サクラとルリの結婚式の余興のために、ルリとキウイが二人きりで行った様々な魔法の実験と練習。

 その殆どは、このフィオーレ軍の訓練場で行われたものだった。

 だからこそ、二人にとってこの場所は、とても慣れ親しんだ落ち着く場所なのだ。


「肩の力を抜いた方が訓練に身が入りますから。さあ、張り切って参りましょう」


 ルリとキウイは、互いの熱意を確かめるように、顔を見合わせて微笑みあった。

 その様子は、立場や身分を超え、まるで歴戦の親友のような様子であった。


「それで、どんな練習をするの?」


 ルリの真剣な意欲が滲む質問に、キウイは丁寧な説明を返した。


「最終的には、ルリ様の中にあるサクラ様の魔力を厳に管理し、ルリ様が魔力生命体として生きるための魔力消費の際に、サクラ様の魔力を消費しないようにするのが目標です」


 ルリはその説明に息を詰めながら耳を傾けた。

 キウイはさらに説明を続ける。


「その足掛かりとして、まずは、ルリ様の魔力感知の『精度』を上げましょう。現状のルリ様は、魔力感知の『感度』が大変優れていて、遠くの、わずかな魔力の掠れまで、存在としては捉えられます。しかし、それらがいくつあり、どんな形状をしているかの詳細を、明確に捉えることが苦手なのです。この魔力感知の『精度』を上げるのが、サクラ様の魔力と、それ以外の魔力の識別への第一歩となります」


 キウイは自分の言葉にルリが静かに頷いたのを確認して、一呼吸置いた。


「説明はここまでです。実践といきましょう。ルリ様、目を閉じてください」


 キウイの言葉に従って、ルリはゆっくりと静かに目を閉じた。


 目を閉じると、ルリの脳内にはサクラの優しく微笑む顔が思い浮かんだ。

 だが、その笑顔はすぐに、自分が衝動のままにサクラを襲ってしまった、あの夜の光景で上書きされてしまう。

 あの時のことを思い出す度に、指先の血の気がすべて引くような、冷たい感覚に襲われる。

 ――二度と、あんなことは起こさない。

 優しいサクラを、自分の愛で傷つけたくない。

 サクラの隣で、ずっと笑い合っていたい。

 その強い後悔と愛に裏打ちされた信念のもと、ルリは続くキウイの言葉に集中した。


「今から結界魔法を展開します。数を当ててください」


 キウイは頭上の遥か上空に結界魔法を一斉に展開した。

 ルリはキウイが魔法の展開を終えたのを感じ、全神経を上空に現れた魔力の塊に集中させた。

 ぼやっとした塊が浮いているのを感じる。

 ルリの感覚内では、まるで視力が悪い人が見た景色みたいに、その様子は靄がかかったようにぼんやりとしか感じられなかった。

 その曖昧な境界線を懸命に把握しながら、ルリはその数を数えた。


「うーん……五個、かな……?」

「お見事、正解です。では続いて、少しだけ難易度を上げます。展開した結界のうち、いくつかを意図的に破壊しますから、残った数を当ててください」


 キウイが展開した結界魔法のうち数個を選んで指差すと、指を差された結界魔法がふわっと弾けて消える。

 ルリは「むむむ」と唸りながら、再び魔力感知に集中した。


 上空では弾けた結界の残滓が水飛沫のような魔力を撒き散らしている。

 この余計な魔力の感覚が、ルリの魔力感知をさらに混乱させた。

 ルリは混乱の中でも、なんとか結界魔法のぼんやりとした境界線をなぞった。


「ええと……二個……?」

「はい、正解です。流石に簡単すぎましたね。応用編といきましょう。もっと難易度を上げていきますよ」


 ルリは苦労して正答を導いた問題を「簡単すぎた」と言われて軽いショックを受けた。


 キウイはその後も、結界の数や形状を変えながら、同様に結界魔法を展開、破壊を繰り返した。

 キウイが展開する結界魔法を小さくしたり、形状を複雑なものにしたりと異種工夫を凝らすと、ルリはその境界線を把握するのに、より一層苦戦していった。


 キウイはルリが苦戦する様子を、ただひたすらに冷静に分析した。

 何度目かの間違った数を答えてしまった時、ルリは思わず弱音をこぼした。


「うう……キウイ、むずかしいよぉ……」

「ここまで概ね私の想定通りの結果ですよ。全く問題ありません、ルリ様。……やはり、細かくなったり、形状が変化すると、魔力感知の精度が落ちてしまいますね。そこを重点的に鍛えていきましょう」

「ふぅ……そうねぇ……」


 ルリは大きな溜め息をつくと、集中をぷつんと切らしたように、ぱちりと目を開いた。


「ごちゃごちゃしてるの、にがてなんだよね……でも、ちゃんと練習して、できるようにならないと……」

「何回でも付き合いますから、ゆっくりいきましょう。焦ってもいい結果は出ません。大丈夫、ルリ様は抜群のセンスを持っていらっしゃいます。慣れたらちゃんと感知できるようになる筈ですよ」


 キウイが優しく微笑むのに、ルリは自分の力不足を歯がゆく思うように笑った。


「わたしのために、いっしょにがんばってくれてありがとう、キウイ」


 ルリのその言葉にキウイは、秘密を打ち明けるように少しだけ声をひそめて、静かに言った。


「……実を言うと、この特訓はルリ様だけのためというわけでもないのです。私にも利益があるのですよ」


 キウイは上空に先ほどまで訓練で使っていた結界と同じものを、一つ展開した。

 ルリは今まで目を閉じていたので、それを初めて視認した。

 淡い光を放つ球体の結界の幻想的な様子に、ルリは息をのんだ。


「チェリーさんとの結婚式で、せっかくなので私自身の魔法で実現可能な範囲で、最大限に華やかなパフォーマンスをと思っていまして……でも、サクラ様とルリ様の結婚式の余興と違って、仕事じゃないので、なかなか練習の時間が取れません」


 キウイが結界を指差すと、光がふわっと舞い散りながら、結界が華やかに解放された。

 ルリは、先ほど魔力感知下で感じた、結界が弾ける際に発生していた水飛沫のようなものの正体をようやく把握し、そのきれいさに感嘆の声をあげた。


「わあ、目で見るとこんなかんじだったんだ。とってもきれい……!」

「ふふ、ありがとうございます。そんなわけで、ルリ様の訓練に付き合うという名目で、私は自分の結婚式のパフォーマンスの練習をしているのです。お互いに利益があっていいでしょう?」


 キウイは表情を変えずに淡々とそう言い放ったが、ルリはその口元が、悪戯そうにわずかに緩んでいるのに気づいた。


 以前キウイは、サクラとルリの結婚式の余興のために、ルリと秘密の特訓を繰り返していた。

 しかしそれはキウイの仕事内容を管理する葵の許可を得た、あくまで仕事だった。

 国が主催する、フィオーレ王国の姫サクラと、その妃ルリの結婚式を盛り上げるという、フィオーレ王国直々の依頼という形だったのだ。

 キウイの仕事の一環として、キウイの裁量での場所や時間の確保が許されていたのである。


 しかしチェリーとキウイの結婚式は、あくまでキウイの個人的な催事である。

 その準備に精を出したくても、フィオーレ王国に使用人として雇われている以上、自由にできる時間は少ない。

 そこでキウイは今回のルリの魔力制御の特訓を、結婚式のパフォーマンスの練習の場として活用することにした。キウイが発言が意味するのはそういうことだった。


「そんなわけで、私としてはこの訓練の時間は、たくさんあればあるほどよいのです。密に計画していきましょう。よろしくお願いします」


 そういつも通りの落ち着いた表情から放たれるキウイの言葉は、どこまでも合理的でありながら、ルリへの温かな配慮が隠し味のように含まれていた。

 ルリはキウイのその言葉が、ルリに対して気を遣わせないための優しい言い訳も含んでいるのを察知して、ふわりと笑った。


「ふふっ……キウイはやさしいね」

「身の置き方が器用なだけですよ。でも、ありがとうございます」


 こうしてルリとキウイの魔力制御特訓は、定期的に執り行われることになったのだった。






この二人のコンビなかなか好きです。

あんまり二人きりのシーンというのがあんまりなかったので、ちょいちょい出していければと思います!

せっかくの専属メイドですし!

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