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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者: ぞ
第四章 ドワーフの国

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70. 魔術師と職人の作戦会議

「ルリ……マグマって、水のような性質があると思うのだけど……駄目元で聞くのだけれど、ルリの水魔法で操れたり、しないのかしら?」


 口にしながら、無理だろうとは思っていた。案の定、私の淡い期待を打ち消すように、ルリは首を横に振る。


「マグマは……たしかに水だけど、火だもの。火は、水とケンカしちゃうから。ちょっと、むずかしいね……」


 ルリの感覚的な表現を受け、キウイが理論を補強するように解説を付け加えた。


「マグマはたしかに流体ですが、その本質は火そのものです。水魔法と火魔法、相克する両属性に高い適性を同時に持てれば操れる可能性がありますが……。自分の適性と相反する属性は、通常、相性が悪くなります。相反する二つの属性の高い適性を得るなど、そのような特異な例は聞いたことがありません」


 豊富な知識を持つキウイが「聞いたことがない」と言うのであれば、それは魔法の常識を超えた実現不可能な事象なのだろう。私は希望を断ち切るように、一瞬頭に浮かんだアイデアを胸にしまった。

 すぐに思考を切り替えて声を出したのは、フォルナ公爵だった。


「マレット伯爵、制御装置……イグニス・コアは、核を冷却すると暴走状態になると言っていましたね。原因はわかっているのですか?」


 フォルナ公爵が尋ねると、緊張で顔を強張らせたマレット伯爵は、絞り出すように応じた。


「今、イグニス・コアが噴出し続けているマグマは、本来は……予備資源なのです。この国のマグマが、何らかの事情で失われたときの、緊急用の貯蔵分で……。空間魔法によって拡張された内部の保管領域に、このドワーフの国を賄える、およそ一ヶ月分のマグマが内包されているようでして……っ」

「そんな量のマグマ……全て噴出してしまったら、街全体が完全にマグマに沈んでしまいます……っ!」


 フォルナ公爵が己の耳を疑うように信じられないという顔をし、悲鳴のような声を上げた。


「……本来は、マグマの補充が完了すれば、噴出は自動的に止まる筈なのです。しかし……今は、そのセンサーの役割をする『核』に、冷却で凝固したマグマが固着して、纏わりついてしまっているようです。そのため、イグニス・コアが満たされることはなく……このままでは、予備のマグマが空になるまで噴出し続けてしまう状態なのです……! これこそが、私が見つけた、イグニス・コアの致命的な欠陥です……っ」


 マレット伯爵の言葉は、私たちに絶望をもたらした。重苦しい沈黙が、マグマの熱気の中、空間を支配する。

 その沈黙を打ち破ったのは、常に冷静なキウイだった。キウイは迷いなく一歩前に出ると、マレット伯爵に声をかける。


「マレット伯爵様。そちらのイグニス・コアの設計書をお借りして、私が拝見してもよろしいですか」

「……っ」


 一歩一歩、迷いなく近づいてくるキウイに、マレット伯爵は無意識に身体をびくっとさせ、顔に深い緊張を走らせた。

 先ほどマレット伯爵がルリへ不用意な非難を口にした際、凄んだキウイの瞳の奥には確かな殺気が宿っていた。「近づけば排除する」とまで言われたのだ。その冷徹で凄まじい威圧感が、今もマレット伯爵の脳裏に鮮明に残っているようだった。


「ああ……先ほどは貴方が私の大切な主様たちに危害を加えようとしているように見えましたので。今後あのような敵対的な態度を取られないのであれば、私も無用な攻撃はいたしません」


 キウイは表情一つ崩さず、戦闘意思の解除を示すように、静かに両手を上げた。

 マレット伯爵の緊張は依然として完全には解けきっていなかったが、その身体からわずかに力が抜けたのがわかった。


「でも、この設計書は、ドワーフの古語で書かれていて、私もすべては解読できておらず……」

「読めるかどうかはこちらで判断します。マレット伯爵様、無駄な時間はありません。設計書を、すぐこちらに」


 キウイの張り詰めた表情と、詰め寄るような言葉に、マレット伯爵は観念したように手に持っていた設計書をキウイに差し出した。それを受け取ったキウイは、使命感に満ちた鋭い眼差しで設計書を眺め始めた。


「ああ、これはドヴェルグ語ですね。古文書を読んでいるとよく見る言語です。解読は難しくありません。……ふむ、なるほど……」


 キウイは周囲の緊迫感をよそに、顔色一つ変えずそう言い放つと、意識を集中させるように設計書を凝視した。キウイの手は、淀みなく数秒で数ページをめくり進める。

 最後まで頁をめくり終えたキウイは、設計書を閉じると、一つ深く息を吐いた。難解な古語を苦も無く解読していたその様子とは裏腹に、キウイは期待に反して、苦い顔をして口を開いた。


「……なるほど。設計書にある魔法の術式は解読できました。ですが、機体そのものの設計に関する話は……申し訳ありません、私の専門外です。この状態で知識なく下手に刺激を与えれば、イグニス・コアを物理的に破損させ、完全に制御不能にしてしまう恐れがあります……」

「そう……ですか。ドワーフの技術とはいえ、機械の設計は、私も専門外です。これでは、打つ手がありません……」


 フォルナ公爵も深く頷き、苦い顔をした。誰もが諦めかけていたその時、声を発したのは、マレット伯爵だった。


「待ってください! 私、その設計書を読み解くにあたって、機械設計を少しばかり独自に勉強しましたの……! キウイ様、よろしければ、私が把握しきれなかった古語の文章の意味を教えていただけませんか」


 マレット伯爵の予想外の告白に、キウイはわずかに目を見開いた。それまで苦渋に満ちていたキウイの表情に、希望の光が灯った。


「ほほう……それは助かります。文章の解読であればお任せください。どちらを読めばよろしいですか」


 マレット伯爵はキウイからすばやく設計書を受け取ると、目的の頁を探すようにぱらぱらとめくった。ある頁を開くと、そこに描かれた図面を叩きながら、キウイに問いかける。


「構造的に、ここの二箇所の穴がメンテナンスハッチの開放スイッチの役割を果たす筈です。スイッチの動作条件が、この頁に書かれていませんか」


 キウイはすぐに古語の記述を追った。


「確かに……『二つ穴の内部を同時に、鍛造適正温度に維持』とあります。私にはその意味はわかりかねますが、これでよろしいですか?」

「ええ、ええ、大丈夫です! 素晴らしいわ! では、次にこちらの……」


 数分をかけて、マレット伯爵とキウイは設計書を挟んで真剣な確認作業を進めた。張り詰めていた二人の間の空気は、いくつもの疑問が解けていくうちに徐々に緩み、確認を終えた頃には、二人の顔には達成感に満ちた明るさが宿っていた。


「なるほど、この手順でメンテナンスハッチを開放し核を露出させて、付着している凝固したマグマを除去すればよいのですね……! ありがとうございます、マレット伯爵」

「いいえ、キウイ様の古語の知識のおかげです……! よかった、これで希望が見えました……! ……フォルナ公爵!」


 マレット伯爵は喜びを押し殺すように、再び緊張の面持ちでフォルナ公爵に声をかける。


「キウイ様と一緒に読み解いた、核を露出させる手段……。それには、どうしても二人の鍛冶職人の協力が不可欠なのです。私のような爵位の低い者からの指示は、公爵様のご気分を害してしまうかもしれません。……それでも、街の危機の前です。誠に恐縮ですが、どうか、お聞き入れいただけますでしょうか」


 深く頭を下げたマレット伯爵の震える背中に、フォルナ公爵は胸を痛ませたように悲しそうな顔を見せ、すぐに優しい微笑みを見せた。


「今まで貴方に重い立場を押し付けてしまったこと、心から申し訳ありません、マレット伯爵。私……本当の本心では、爵位の上下なんて何とも思っていませんわ。どうか遠慮なさらず、顔を上げて、貴方の知識を持って一刻も早く私に指示をいただけると嬉しいです」

「フォルナ……公爵……」


 フォルナ公爵の心からの優しい笑みに、マレット伯爵は、はっと息をのんだ。ずっと自分を縛り付けていた爵位という名の壁が、音を立てて崩れていく。張り詰めていた心の糸が切れたように、涙が滲むほど安堵の表情を浮かべた。


「フォルナ公爵、イグニス・コアの左右の上腕部に穴が空いているのが見えますか? あれがメンテナンスハッチを開放するためのスイッチです。設計書によると、両腕の穴の内部を一定の温度に保つことができたら、ハッチが開き、核を露出させられます。その温度とは……鍛造適正温度です。鍛冶で鉄を打つ際の、あの炉の温度ですよ。フォルナ公爵、この国で一番、それを完全に制御できるのは、貴方ですね」


 マレット伯爵は、深い安堵の笑みと共に、フォルナ公爵に向かって力強く頷いた。その目には、今や爵位の垣根はない、職人としての絶対的な信頼が宿っていた。


「元々、二人の腕利きの鍛冶師が同時に作業しないと整備できない仕組みのようです。ですが、今ここに、最良の二人が揃いました。フォルナ公爵、私たちなら、必ずやり遂げられます」


 二人の職人は、固く、熱い握手を交わした。そこには、もはや爵位もわだかまりもない。

 マレット伯爵は、覚悟を決めた視線でフォルナ公爵に問いかける。


「核を露出させたら、付着している凝固したマグマを一気に焼き溶かします。フォルナ公爵、貴方なら、いけますね?」

「ええ、もちろん。必ずやり遂げましょう!」


 協力体制を確立し、フォルナ公爵とマレット伯爵は、新たな決意とともにイグニス・コアの方へ向き直った。

 ちょうどその時、冷静沈着なキウイが、鋭い声で二人の動きを制止した。


「どうかお待ち下さい。皆様、念の為にも、私の後ろにいて下さい。魔力の流れに嫌な予感がするのです……。何が起こっても、必ずこの私が、結界魔法でお守りします」


 キウイの強い警告に、私たちは緊張をはらみながらも素直に従い、キウイの背後に身を寄せた。私は隣にいるルリの少し冷えた手を、決意と不安を込めてぎゅっと握りしめる。全てを運命に委ねるように、噴き上がるイグニス・コアを見つめた。

 こうして、マグマの熱気渦巻くその場所で、私たちは、ドワーフの国の運命を左右する、イグニス・コアに立ち向かうことになった。






Q. メンテナンスハッチを開ける条件がそんなことあります?

A. ファンタジーなんで!


こまけぇこたぁ気にするな!

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