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人魚と姫 〜私達が結婚すると、世界が救われる!?〜  作者: ぞ
第二章 人魚の里

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33. 深淵の絶望の目覚め

 オニキスさんとパールさんに異常事態の相談をするため、ルリと一緒に屋敷に戻ると、飛び出すような勢いで、アメジストさんが二人を連れて出てきたところだった。


「ルリ! いきなりどこかへ行ってしまって心配していたが、大丈夫そうだな? 二人がいない間にアヤメが、負の魔力の気配がすると飛び出して行ってしまって……」

「負の魔力に関しては、大丈夫そうなんです! それより……」


 私は手短に、今わかっている情報をアメジストさんたちに伝えた。負の魔力が湧き出るのは止まったこと。アヤメがスフェーンさんを落ち着かせるのを目撃したこと。そして、ルリが「すごく大きい何かが、目覚めかけている」と言ったこと。

 私の話を聞き終わると、オニキスさんが一瞬の沈黙のあと、短く言った。


「あ(・)れ(・)は、アビス・ゲイザーだ」


 その言葉に、パールさんは合点のいった表情をする。


「なるほどぉ、ルリちゃんが言った、『すごく大きい何か』は、アビス・ゲイザーのことだったのねぇ。オニキスが封印した、巨大な鮫の魔物のことよぉ」


 アメジストさんは「あいつか……」と言いながら、苦い顔をする。彼女の反応からするに、相当厄介な相手らしい。


「あの……アビス・ゲイザーというのは、どんな魔物だったのですか?」


 私の問いかけに、パールさんは続けて説明してくれた。


「ちょっと前……三百年くらい前に、この辺りで暴れていたのよぅ。どうしても倒せなかったから、オニキスに眠りの魔法をかけてもらって封印したんだけどぉ……千年は眠ったままの筈だったのに、なんで封印が解けたのかしらぁ……」


 そんなことを言いながら、パールさんは首を傾げた。三百年前を「ちょっと前」と表現するパールさんは気になったが、今はそんなことに気を取られている場合ではない。


「『負の魔力』の影響かもな」


 パールさんの疑問に答えるように、オニキスさんが言った。


「あの巨体に暴れられたら、水圧で里が崩壊しちゃうわぁ。目覚める前に、対処したいところねぇ」


 パールさんのその言葉にいち早く反応したのは、ルリだった。


「たいへんだ! はやく行こう! こっちだよ!」


 ルリは私たちにそう告げると、迷うことなく飛び出した。




「アビス・ゲイザーについて、もっと詳しく教えていただけますか?」


 これから対峙する魔物の情報を少しでも多く知りたくて、私はパールさんに尋ねた。


「そうねぇ……本当に厄介な、鮫の魔物でねぇ」


 言葉を選びながら、パールさんは説明を続けた。


「まずは、とにかく身体が大きいのよぅ。並大抵の攻撃では、びくともしなかったわぁ」


 パールさんは、まるで過去にアビス・ゲイザーと対峙した時のことを追体験しているかのように、少し遠くを見やりながら説明した。


「それで、やっとのことで傷を負わせても、すぐに修復されちゃうのぉ。額の核が修復の力の源ということはわかったんだけど、その核を守る結界がとても強固で、何度壊してもすぐ復活しちゃってぇ……しかも、海水から結界維持のための魔力を補充してるから、魔力を切らせることもできなくてぇ。だから、眠らせるしかなかったのよぅ」


 パールさんは、当時を思い出してか、悔しそうな表情をしながら語った。


「むむむ……つよそうだね……! うーん、また眠らせるしか、ないのかな?」


 ルリが難しそうな顔で唸る。私はふと、頭に浮かんだことを口にした。


「時止めの魔法をかけることができたら、結界維持のための魔力補充が止まって、核を露出させられたりしないかな……?」


 ただの思いつきだったが、口に出してみると、意外と筋が通っている気がする。


「あら、サクラちゃん、そんなことができるのぉ?」


 できるかどうかはやってみないとわからない。以前戦った寄生花のララ・ヴァインのように俊敏な魔物だったら、高度な集中を要する時止めの魔法のターゲットにするのは難しい。しかしそれ以上に、これは机上の空論であった。


「動くものには時止めの魔法をかけるのが難しいのもあるのですが……。実は、さっき色々あって魔力をルリに全部渡しちゃったので、私は魔力が空っぽなんです」


 そう、私は今、ほとんど魔法が使えない状態だった。


「うう……ごめんよ、サクラぁ」


 ルリがばつが悪そうに謝る。


「あらあらぁ。人間は、海水からの魔力補充ができないのかしらぁ?」


 パールさんの問いかけに、私は首を振る。


「人魚の皆さんは、海水の魔力を『食べ』ているのですよね。私には、ちょっと想像もつかないです……」


 人間が海水を食べるなど聞いたことがない。そもそも人間はどのように魔力回復しているのだろう、考えたこともなかった。今度キウイに聞いてみようと心に決める。

 今、ルリのおかげで人魚の姿になっているが、ベースは人間である。やはり、海水を食べるという感覚は、どうしても理解できなかった。


「人間とは、面倒な生き物だな」


 ため息を一つ吐きながら、オニキスさんがそう言い放つ。


「できないものは仕方がない。人魚の里のことだ、我々で何とかするさ」


 アメジストさんはそう言って、不敵に笑った。


「そうだよ! それに、わたしだって時魔法使えるようになったんだから、私が止めたらいいんじゃない?」


 ルリも明るく笑った。たしかに、ルリのセンスなら、慣れない時魔法でもうまく使いこなしてくれそうだ。

 なんとかなるかもしれない。皆にそんな雰囲気が広がる。


 一同に安堵の空気が広がりかけた、その時。

 突然、オニキスさんが先頭に出て私たちを制止した。


「間に合わなかったな」


 前を見据えたオニキスさんは、いつもの無表情を保ったままただ一言、そう言った。

 直後、耳をつんざくような轟音とともに、辺り一帯が揺れた。一瞬、身体の芯まで叩きつけられるような強い波に襲われる。だが、すぐにその感覚は消え失せた。


「大丈夫かい?」


 アメジストさんの言葉に、彼女が波を相殺してくれたのだと理解した。


「たいへん! あいつ、おきちゃったみたい……!」


 ルリが遠くを見つめながら言ったその言葉は、まるで現実を突きつけるように、私の心臓をえぐった。アビス・ゲイザーの覚醒を許さず、その前に再び眠らせるという、最善の策。それはもう使えなくなったのだと悟る。

 その轟音と波の衝撃により、私はアビス・ゲイザーの圧倒的な力を感じた。希望が潰えたわけではない。だが、この脅威を肌で感じた私は、ただ呆然とするしかなかった。

前回とテンションが違いすぎて風邪ひきそうですね。というわけで、今度はサメと戦います!

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