【14】晩餐の後は・・・
身支度を終え、一階の食堂へ向かった。
食堂にはすでに席に着いた父と母おり、私が入室すると笑顔で迎えた。
「すっかり元気になったみたいで安心したよ。今日は訓練所に行ったそうだな」
「はい、アルフ兄様に付き魔導騎騎士団の方へご一緒させて頂きました」
私が答えると父と母は一瞬「ん?」って顔になった。
あ、ヤバい。返答が真面目すぎたか。
この場をどう切り抜けようかと思考していたら、タイミング良く兄二人が食堂にやってきた。
「「遅くなりました」」
「来たか、ブレリック始めてくれ」
全員揃ったので、父が執事のブレリックに食事の開始の声を掛けると、次々に料理が運ばれてきた。
なんとかやり過ごせたようだ。
見た目はどれも美味しそう。でも見た目に反して味は毎度薄味なのでテンションは下がっていく一方だ。
何とか食事を終えた後、母に食後のお茶を一緒にと、捕まりそうになったが「絵本を読みたいので」と適当に誤魔化し逃げることに成功した。
まだ母とツーショットになる自信はない。
とっとと部屋に戻ろう。
全身筋肉痛だし、部屋で色々やりたいこともあるし。
アルフレッドも食事を終えると「今日一日の魔法の成果を纏めたいので」とすぐさま自室へ戻っていった。
アデレイドは父に執務室に呼ばれたので、父と一緒に食堂を出ていった。
昼間に色々あり過ぎたせいか、今のところ夜は何事もなく、逆に拍子抜けのような気もするが、何もないならその方が良いに決まっている。
とりあえず、さっさとお風呂に入ろう。
部屋に戻りセシルにお風呂のお願いをした。
パパッと湯浴みを終え、寝間着にも着替え、髪も乾かしてもらう。
やる事を全て終えセシルは「何かありましたら、すぐお呼びくださいね」と部屋を後にした。
よし、これでやっと一人の時間を満喫できる!
考えていたことが、いくつかある。
まずは髪を纏めるリボンだ。出来ればリボンは避けたい。何かリボンの替わりになる物は・・・と考えた結果
確かチェストの引き出しに裁縫道具が入っていたよね
チェストの引き出しの一番上を開ける。
四角い箱がある。それが裁縫道具だ。
蓋を開けてみると、刺繍糸がズラりと何色も揃っている。
色とりどりの刺繍糸を目にして胸が高鳴る。
前世で一時期ミサンガ作りにハマったなぁ
まず自分の髪の色を鏡で確認する。
髪は藍色だから何でも似合いそう、と刺繍糸を何色か手に取り鏡の前で髪に合わせて見た。
結局選んだのは黒、グレー、白だ。
この三色で太めに編むことにした。
藍色の髪に黒だけだと同化しそうだが、グレーと白が入れば地味にはならないだろう。
目指すのは派手じゃなく、でも地味でもない。
髪に映える色合いだ。
刺繍糸を編んでいくには、糸の端を動かないようにする重しが欲しい。
部屋中に視線を巡らせ思考する。
本だと滑る可能性がある。と言うか私の部屋には、あまり分厚い本はないから役に立たない。
何か重しの替わりになる物はないか・・・
ふとコーヒーテーブルの脚に目が止まった。
フカフカの絨毯に、ズッシリとくい込んでいるテーブルの脚。
このテーブルの脚の下なら滑らないし、重さも十分ありそうじゃない?!
思い付くと同時にすぐさまテーブルに手を掛けた。
くっ、なかなかの重さだ
あ、私子供だし力ないから当然か。
あれ?でも今日アルフ兄に身体強化を教え貰ったよね!できるかも?
即座に魔力を集中させ腕を強化するイメージをした後、チョンとテーブルを突いてみた。重たくて持ち上がらなかったテーブルが指一本で軽くズレ動いた。
マジか!!凄いな身体強化!
自分の腕力に興奮しながらテーブルをひょいっと持ち上げ糸を挟んだ。
身体強化で色々試したい気持ちに駆られたが、まずは紐を作らないとだ。これを完成させないと明日もリボンが待ち受けている。
今日のピンクのリボンを思い出したら苦い気持ちになった。
床にうつ伏せになりながら、テーブルの脚に挟んだ刺繍糸を黙々と編んでいく。
編み始めて途中で、編む作業も身体強化で早くなるんじゃない?と思い、試しに両腕に身体強化してみる。
お!めちゃくちゃ早く編める!
腕の筋肉痛も気にならない!
しかも腕ごと強化したから、肘で支えているうつ伏せの状態でも苦にならない。この調子でいけば、今夜中に3本は編めるかもしれない。
身体強化、最高だな!
編み始めてふと思う。
自分で始めといて言うのも何だが、この格好でミサンガ編んでる人って見たことないかも。
なかなか滑稽な自分の姿に、一人で吹き出し声を出して笑っていたら、コンコンと扉を叩く音がした。
え!いま?!誰!?
「エル~、入るよ~」アルフ兄の声だ。
想定外の兄の訪問に慌てて立ち上がり、寝間着の前をパンパンと叩き身なりを整えた。
扉がガチャリと開き、笑顔でアルフ兄が入ってきた。
「いま笑い声が聞こえたけど、一人で笑って何してたの~?」
え、部屋の外まで聞こえてたのか
「い、いえ、べ、別に・・・」
吃りながら答えつつも目線が、テーブルの脚に挟まったままの完成間近の刺繍糸を捉えた。
あ、慌ててそのままだった。
アルフ兄も私の目線を追い、テーブルの脚の下にある編みかけの刺繍糸に気づき、瞬時に目を見開いた。
「な、何これ?!」
「えっと、えっと・・・」
何か言いたいが何も浮かばない。
「ちょ、ちょっと待って、一つずつ確認していこう。うん、まず一つ目、これ刺繍糸だよね?刺繍糸を編むって思い付きが凄いね。綺麗に模様みたいになってる」
「あ、ありがとう、ございます」
「二つ目、なぜテーブルの脚の下に挟まってるの?さっき軽く魔力変動を感じたけど・・・まさかこれのせい??そして三つ目、まさかそこに転がって編んでた?ブフッ・・・グフッ」
三つ目の時に、アルフ兄は笑いを堪えきれない様子で吹いた。思わずジト目で兄を見る。
ジト目のまま、一つ目の質問から答えようと口を開きかけたところに、また扉を叩く音がした。
また!今度は誰なのっ!!