26 来訪準備
「この借りは、必ず返していただきますからね」
「あぁ、わかってる。だからしっかり頑張ってくれ」
あれから、あっという間に日が過ぎていった。
さすがに国の代表の通訳がメイド服というわけにはいかないため、急遽ドレスを拵えさせられた。
私の髪が青みがかっているプラチナヘアだからか、それに合わせた濃紺の落ち着いたAラインのドレス。胸元は寂しいので、あえて首まで隠れるものにしてもらった。
どうせ一度しか着ないのだから、とレースや刺繍は辞退したのだが、何を思ったのか領主が今時のやつでなるべく華やかに、と言ったもんだからどんどん豪華になっていくドレスになんとも言えない気分になった。
そもそも貸してもらえるというのであれば、クエリーシェルの姉の持ち物でも良かったっていうのに。なぜか、拵えるというのに一番乗り気だったのが領主だった。
(ドレスなんて、いつぶりだろう)
久々にコルセットをつけられたせいか、息が苦しい。コルセットをつけると、さらに貧相になる胸元を見ながら溜息をついた。
「そうそう、これは私から餞別だ」
手渡されたのは装飾品。ダイヤとエメラルドであしらわれたネックレスと同じエメラルドのイヤリングだ。恐らく、私の瞳の翡翠色に合わせたのだろう。
「ケリー様、無駄遣いです」
「いやいや、ほら、似合うだろう?国賓の前に出るのだ、これくらい当然だ」
領主の姿が、初めてのパーティーに送り出す父親を見ているような錯覚に陥りながら、されるがままに装飾品をつけてもらう。
「うむ、とてもよく似合っている」
「ありがとうございます」
鏡を見ると、普段見ない華やかな姿の自分が映る。ネックレスもイヤリングも程よく主張していて、自分を引き立ててくれていた。
「では行こうか」
「はい」
エスコートするために、クエリーシェルから手を差し出される。自然にその手に自らの手を重ねると「よろしくお願い致します」と恭しく頭を垂れた。
「お待ちしておりました、ヴァンデッダ様、リーシェ様」
城内は歓迎ムードだった。また、城下町も見慣れない国からの国賓の来訪にお祭りムード一色だ。
来訪に合わせて王城は最終段階だからだろうか、人が多く、ドタバタと忙しそうだった。
「やっときたか」
ふてぶてしい態度は幼馴染ゆえの気安さか。国王はリーシェを上から下までしっかりと見ると、「しっかり着こなしているな」と意味ありげに笑われた。
一体どういう意味なのか、それほどまでに普段私は貧相に見えるのだろうか。問い詰めたい気持ちにはなるが、国王相手に意味を追及するわけにもいかず、静かに執事長からの伝達事項に耳を傾ける。
「まず、来賓についてだが、カジェ国の国王と王妃、そして皇女の3人が来る。国王については入り婿で、王妃が本来の国の血縁だ。だから国王にはもちろんだが、くれぐれも王妃には失礼のないようにな」
「はい、心得てます」
うち、2名は顔見知りです、と内心で答える。顔は努めて澄まして、そのような事実はおくびにも出さないが。
「国王の名がアジャ、王妃がアーシャ、皇女がアルルだ。それぞれ間違えぬように」
「はい」
「それと、なるべく細かなところまできちんと通訳をしろ」
(そりゃ、そうよね。こちらのメンバーに、ほぼ内容を聞き取れる人物がいないのだし)
下手に自ら内輪ネタを話すつもりもないので、素直に「承知致しました」と答えた。
「ちなみに我が国の国王、王妃、ご子息とご息女の名はもちろん把握しているだろうな?」
「もちろん心得ております。クイード様、メリンダ様、ヒューゴ様、アマリス様、でございます」
「よろしい。あぁ、何かあればその都度伝えるのでそのように」
「かしこまりました」
ふぅ、小煩いジジイだな、と心中で素直な気持ちを毒吐く。まぁ、1種のしきたりみたいなものだろうが、言われなくてもわかっている、ということが大半である。
そもそも一介のメイドが通訳することなど異例だから、わざわざ大掛かりな釘を刺しにきているのだろうが。
今回は私がメインなので、領主はちょっと離れたところから保護者として見学するようである。心配そうにこちらを見ている様は、本当に父親を見ているようだった。
(一体、誰が巻き込んだと思っているんだ)
心配するのであれば、そもそも頼まれごとを受けないでいただきたい、と最もなことを思いながら、来賓を待つ。あくまで通訳、私は後方でただ話を聞き、訳して話すだけである。
(無事に終わればいいけど)
特に何事もないことを祈りながら、装飾が終わり、歓迎ムードで盛り上がっている城内で、静かに彼らを待つのだった。




