25 登城
「ぜぇぇぇっっっっっっっっったいに嫌です!!!!」
「どうしてだ、あんなにペラペラと流暢に喋っていたじゃないか」
「王城で?国賓と?!無理です!ぜぅぅぅぇぇぇぇっっったいに無理です!!」
いつになく拒否するリーシェに、食い下がるクエリーシェル。このやりとりに、はたからみたら、どちらが立場が上だかわからないだろう。
「国の一大事なのだ、歓迎しても言葉が通じなかったらどうしようもないだろう」
「じゃあ何で招待したんですか」
「それは、今後の国家運営で必要なことで……」
どうせこの男も詳しい理由など知らないのだろう。そりゃそうか、とも納得する。
とはいえ、カジェ国といえば先日、不本意とはいえ顔合わせをしたばっかりである。お互いに秘密を抱えていたとはいえ、私のほうがどう考えても隠したい内容の重要度は高い。
そこにわざわざ行くほど、愚かではない。
「お断りします」
「残念だが、断ることは許されない」
別の声が聞こえてそちらを向けば、なぜかニールがそこにいた。なぜに勝手に家にいる、と内心ツッコミを入れながら、手にしている書状を見ると明らかに私に関する内容だった。
[クエリーシェル・ヴァンデッダ卿の使用人、リーシェをカジェ国語の通訳として王城に登城することを許可する]
サインにはきっちりと国王のサインがあり、さらに王家の紋章が押印されている。所謂、正式な公的文書である。
これを反故すれば反逆と見なされ、投獄されるのがオチだ。つまり、逃げられない。
「残念だったな、メイド」
「これも国のためだ、頑張ってくれ」
来る家間違えたかな、なんて今更なことを思いながらも非常に不本意ながらも渋々承諾し、嫌々ながら王城に行くためにノロノロと支度をするのだった。
「ほう、噂に名高い有能なメイドか」
王城に着くやいなや謁見の間へと連行される。ずらっと重鎮らしきおじさんが周りにいる中、リーシェは王と接見を余儀なくされていた。
過去に見慣れた光景とはいえ、居た堪れない気分になるのは仕方ないことである。
「リーシェと申します。有能かどうかは自分では判断つきかねますが、ヴァンデッダ卿の使用人であることには間違いないです」
一体私のことをどのように国王に伝えていたのか、と背後にいる領主に詰め寄りたいところだったが、そんなわけにもいかずに、グッと堪える。
「実際カジェ国に行った経験が?」
「行ったことはありませんが、カジェ国の方を相手にすることがありましたので、ある程度の言葉は話せます」
「そういえば、マシュ族の出身だそうだな」
「はい。占術は使えませんが」
「それも聞いている。よし、実際にどの程度話せるか確かめてみせろ。……ベルン」
呼ばれて、いかにも賢そうな御仁が出てくる。試すくらいなら私来る必要ないんじゃない?と内心毒吐きながらも、とりあえず大人しくしている。
「私が言った言葉を通訳してください」
「わかりました」
「(おはようございます)」
「おはようございます」
「(ご機嫌いかがでしょうか)」
「ご機嫌いかがでしょうか」
え、何、こんな初歩的な挨拶とかから始めるわけ?と思いながらもこんなお偉いさんの前でそんなことを言えるはずもなく、ただただ言われた言葉を通訳していった。
「ベルン、どうだ?」
「全部合ってます」
「そうか」
結局、ほぼ基礎カジェ国語講座みたいな、程度の低い内容で終わってしまった。今のを聞いていたら、確かに通訳が必要なことも頷ける。
「それにしてもこちらの言葉も随分と流暢だな。訛りもない」
「言葉に関しては躾けられましたので」
マシュ族の者にではないが、嘘はついていない。国家を担う者として、常に些細なことを汲み取り、少しの違和感でも感じ取れ、という教育を受けているからか、このように国王級の人々は聡いから眼前に立ちたくない。
私も、それなりに場数は踏んでいるからすぐにボロは出さないと自負している。だが、それでも年の功、若輩者の私とは比べ物にならないほど話術に長け、矛盾点をつき、身包みを剥がされるかのごとく、すべてを曝け出す論述をする者もいるから始末におえない。
「……まぁ、よい。来賓が来るのは2週間後だ。それまでに体調を崩さぬように、また逃亡など計らぬように」
「承知致しました」
はぁ、これで帰れる、と思うとドッと疲れが押し寄せる。このところ、心臓に悪いことばかりだ。
この分の償いは領主にしてもらおう、と背後から睨むように見つめると、なぜかクエリーシェルがびくりと身体を跳ねらせたのは邪念が通じたようで、少し溜飲が下がった。




