余話 第二話 義光 鮭料理の奥深さを知りますますのめり込む
「某出雲より参りました山中鹿介と申します」
「貴殿の武勇、我が最上家迄届いておる、出雲での戦いぶり是非お教え下され」
義光としてはどんな武勇伝が聞けるか楽しみであったが鹿介は苦笑いをして口を開いた。
「某の武勇など左程のことはござらん、尼子家を守る事も出来ず恥を晒しております」
「そのような事はございますまい!」
「いえ、義光殿、家を守り栄えさせる事が出来てこそ武士の勤め、我ら尼子家の者たちに無く、毛利にあったのは家を栄えさせる手段の有無でござった」
「手段とは?」
「領国を豊かにし力を蓄える事です、尼子家は勢力拡大の為周辺の国に兵を送りました。その為領国は大きくなり形の上では毛利をしのいでいた。ですが本領を含め領国を富ませる事に疎かったのです。その為疲弊にあえぐ国人たちは毛利の調略に転ぶこととなった。毛利はじっくりと足場を固め領地を治めることで国人たちの信頼を得て強くなっていった。容易な事ではなかったでしょう、だがそれをやりぬいた。悔しいが毛利元就殿はまさに一代の英傑、そしてその息子たちもそれを受け継ぎ隙がござらん、某は尼子家再興を目指していますがただ兵を集め戦を起こしても勝つ手立てが浮かびませぬ。故に各地を巡りその手立てを得ようと思っているのです」
「な、なるほど」
今の義光には話の半分も理解が出来なかったが最上家もこのままではいけないのではないかと思っていた。
「我が最上家も先年迄領地を増やすことのみを考えておりました、鹿介殿、なにかいい案はござりませぬか?」
「そうですな…ここでの特産品とかはありますかな?」
(特産品…さて良く分からん、それがいけない事なのだろうがうーむ)
悩んだ義光がふと「鮭ですかな」と言った。大好物となった鮭がふと浮かんだだけであったが。
「ほう、鮭ですか、こちらの川でも鮭が遡上してくるのですか」
「ええ、我が領では貴重な品です、なかなか食すことが出来ないくらいに」
「成程、確かに鮭は美味いですからなちゃんちゃん焼きなどはたまりませんな」
「鹿介どの?ちゃんちゃん焼きとはいかなるものですか?某聞いたことがございません」
そこで鹿介はちゃんちゃん焼きの事を教える。
「陸奥国のさらに北、海を渡った蝦夷の地で生まれた料理だそうで、現地の民が交易で得た味噌で葱など野菜と共に鮭を焼いて食べる料理が始まりと聞いております、酒に溶いた味噌を鮭の切り身に付けて焼くと何とも言えないうまさですな」
それを聞いた義光はもういてもたってもいられなくなってしまった。
「鹿介殿!是非ちゃんちゃん焼きを作って下され!」
「え、ええ判りました」
その迫力と勢いにさしもの鹿介も飲まれてしまった。
(若、その迫力は良し、ですがその向ける方角が違いますぞ!)
傍でずっと話を聞いていた氏家守棟は斜め上に突き抜けた義光に頭を抱えるのであった。
△
義光に押し切られた鹿介はちゃんちゃん焼きを作る羽目になった。材料はお供に来ていた源四郎や新十郎が協力して集めてきた。
「まず鍋に酒に溶いた味噌を入れその後葱などの菜を入れます、そしてぶつ切りにした鮭を入れ蓋をして炊き上げます」
本当は鉄板か浅い鉄鍋があれば良いと鹿介は言っていたがあいにく手に入らなかったので普通の鍋で代用したのであった。だがその味は義光を魅了した。
「なんと奥深い味だ、今まで食べていた鮭の味がまるで色褪せてしまうほどに!」
義光は余りの美味しさに感涙していた。
「確かにこれは食べた事も無い味。流石鹿介殿、武勇だけの人物ではなかったか」
守棟もその味に感動していた。
鹿介は義光の状態にドン引きであった。そこに更に爆弾発言をしてしまう。
「よし、自分も鹿介殿の弟子になって全国を巡り各地の鮭を味わおうぞ!」
「いや、ちょっ!待て!」
その後は阿鼻叫喚の状態になったのは当然の事であった。
後に最上家の歴史に{義光の錯乱}と名付けられるほどの騒ぎとなり当主の耳に入った為、義守と義光の確執の原因となったのであった。
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