第十七幕 戦いの結果
模擬槍を構えて相手を伺う、長政は戦国大名の当主で有るから先陣に立って戦ったことは無いはずだ。
だが其の構えに隙は無い。転生して直に宝蔵院で修行していて良かったよ、そうでなければいかに高スペックの鹿介といえ瞬殺だったな。
「流石だな、隙が無い」
それはこちらの台詞ですよ。
「長政様も、大将なのに大した物です」
「野良田の戦いでは前線に立ったのだ、この位はやらんとな」
浅井が六角を破って名を成した戦か、そのような乾坤一擲の戦なら大将自ら槍を振るっても可笑しくはないか。
互いに隙を探りつつ摺り足にて僅かずつ動く、俺は左に、長政は右に。互いの動きに合わせて動いていく、実戦重視の戦場の荒々しい武を想像していたがそうではなかった、かなり修練を積んでいるようだ。
見守る者たちも息を呑み窺っているようだ、見物人の中に三人の子供を連れた女性が見えた、恐らくお市の方だろう。
お互いの槍の穂先が触れ合うまでの間に入った。間合いに入ると相手の隙の無さに更に驚くことになった。肉体言語で語りたくなるはずだよ。こんな使い手だとは思わなかった。
何度か目の穂先の触れ合いの直後相手が動いた、俺の槍を弾き、体勢を崩させての叩きの一撃! 呼吸がずれていたら体を叩かれていたろう、ひるまず薙ぎ払うも軽やかにそれを躱し間合いを外す。俺の知識の中にあるぽっちゃり肖像画によく似た姿に騙されたよ、あれはぽっちゃりではなく筋肉の鎧、筋肉侍だ、先入観はいかんなと反省する。
そして再び間合いを詰めていく途中で俺は踏み込んだ、ごく自然に前に出て相手の槍を躱し突く、宝蔵院譲りの奥義に当たる技である。
突き出した穂先は違わずに長政に吸い込まれるように……あれを弾くか!
弾かれて体勢を崩したところに槍が迫る、辛うじて躱すが追撃のラッシュが俺を襲う、それを迎撃しながら間合いを大きくとる、驚いたな、こんな事まで出来るとは。
「やるな、決まったと思ったが」
「本当です、危うかったですよ」
息を整えながら油断なく構える。勝てたら信長には吹っ掛けないといけないな。
☆
浅井長政視点
目の前の男は乱れた息を整えてこちらを見ている。
流石だと思った。
山中鹿介、尼子再興の立役者であり忠臣としてこの近江までその名は轟いている。そして幾多の一騎打ちに勝ちし剛の者だとは聞いていたが想像以上であった。
この鹿介の知己を得ている事を考えても織田信長は偉大な人物だと思う、その人物に反旗を翻した自分は後世きっと愚か者の代名詞で呼ばれる事になろう、たとえ叛くのが父上が原因だとしても、それを止められなかった私が悪いのだから。
私自身もはや腹を切る事は覚悟している。心残りなのは家臣や領民たちの事だ、このまま籠城を続け総攻めでもあれば彼らも道連れにしてしまう。それだけは避けたいものだ。そして私について来てくれた市と娘たち、手切れとなった時に帰る事も出来たのに残ってくれた。今はただ感謝しか無い、彼女たちも無事にこの城より出さねばならぬ。
そこに来てくれた鹿介には感謝しか無い。最も家中の納得する方法でなければ開城できない為にこの茶番に付き合わせてしまった。後で詫びを入れておかねばな。
☆
浅井長政との打ち合いは既に数十合にも及んでいる。そろそろ槍を持つ手が怪しくなってきたか。
向こうも肩で息をしている、最もこちらも一緒だが。
もはや言葉を交わす必要はない、ここまでの戦いが全てである。
ふいに宝蔵院胤栄の言葉がよぎった。
「考えるでない、感じたままでよい」
この言葉を聞いた時、カンフー映画のセリフじゃんと思ったけど、何故か今しきりに思い出される。
長政がじりじりと間合いを詰めて来ている。
不意にその光景から色が抜け落ちた。今まで聞こえていた音も聞こえない。
静寂の中、時間だけが流れて行き、目の前の長政が大きく見えた。
そして気が付いた。長政がどう動いて来るか、これからどの様に動くのかを。
長政の動きが変わった。溜めていた力が解放されて槍に乗り移り繰り出される。
その時体が勝手に動き、槍を躱し、繰り出す。
繰り出された槍はしたたかに長政を打った。
「ッ! 一本、山中殿の勝でござる」
こうして勝負は付いたのであった。
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