第十六幕 説得するのには肉体言語が有効です
近江 小谷城
小谷城は守りの堅い城である。これまでに何度も織田軍の攻撃を退けてきた。
だが難攻だが不落ではない。この城より尼子の月山富田城の方が城としては守りが堅かった。その月山富田城でも落城しているのだ。力攻めではなく兵糧攻めであったが。
月山富田城の場合は白鹿城という支城が落とされ食料などの補給が出来なくなって詰んでしまった。
鹿介も参加している戦だ。勿論記憶は無いけどな。相当凄惨な状態だったらしい。
小谷城にもその様な場所があり山本山城や大嶽城がこれに当たる。此処が落とされれば浅井は完全に包囲される事になる。
其の為に織田軍の攻撃は其処から開始されている。
木下藤吉郎によって調略が開始され山本山城は開城し大嶽城は落とされた。既に援軍も居らずこのままでは落城を待つばかりである。現在織田軍が小谷城に対抗する為に築いた虎御前山の陣に木下藤吉郎を訪ねた。
「藤吉郎殿お久しぶりですな」
「鹿介殿も壮健そうでなにより、話は聞き申した。大変なお役目ですな、ですが織田家の家中でない鹿介様ならば或いは成し遂げられましょう」
「お言葉ありがたく、力を尽くします」
城の守将である藤吉郎殿の見送りを受け小谷城に向う、供にするのは新十郎のみである、尤も源四郎達も陰で見守っているはずだ、止めても付いてくるからな。
小谷城に着き門の前で来意を告げる。
「摂津の商人鴻池屋の主、山中鹿介です、御城主に御目通り願いたい」
「山中殿と言えば尼子の忠臣ではござらんか! 暫くお待ち戴きたい」
物見櫓の武将が踵を返した、長政に伺いに行くのだろう。
「義兄上の名前近江でも知られるほどなのですな」
新十郎が尊敬の眼差しで俺を見る。この時代は娯楽が少ないからな、マスコミも無いのに情報が広まるのは早い、きっとオリンピックの選手が金メダルを取ったような感じで俺の一騎打ちでの話が広まっている物と思われる。
其の頃の事は俺のした事じゃないしと言いたいが、入れ替わりを話しても信じては貰えないだろうし話せば余計拗れそうな気がするんだよな。沈黙は金とよく言ったもんだ。
☆
「話は相判った、では我と立ち会ってもらいたい」
「は?」
目通りが適って浅井長政に信長の信書を手渡したらそんな事を言われた。
「勇士と名高い山中殿と立ち会えるとは武士として産まれた者として誉れなことであり敗れるのであれば信長の言葉に従おう」
なんでそんなことになるのかと思ったが本人は引く気はないようだ。
雰囲気から断るのは無駄と早々に諦めた。
「わかりました、ですが何故このような事を?」
「諦めをつける為だよ、儂の中での気持ち父上、付いてきてくれた家臣たちに対してのな」
本当は降参した方がいいに決まっている。だが武士としての矜持が其れを許さない、ならば俺と戦う事で気持ちに区切りをつけたいと言う事か。
「場所はこの本丸で行う。父上も招いて立ち会っていただこう」
本当に武士とは不器用な物だな。
☆
「東方、浅井家当主長政殿、西方、西国から来た勇者山中鹿介殿!」
審判役の武士が対戦相手を読み上げるとウォォッとどよめきが起こる。
俺は樫の木で出来た模擬槍を手に取った。向こうでは長政が同じ木製の槍を振って調子を確かめている。
「では両者の立会いを行う、山中殿が勝利されたら織田信長殿の示された開城の条件に沿うこと、長政殿が勝てばこのまま戦を続けると言う事でよろしいですか?」
審判の問いに俺たちは諾と答える。
「久政様もよろしいですな」
「長政よ、茶番も大概にいたせ、浅井家の底力見せるのは今ぞ、篭城して粘れば朝倉や武田が来てくれよう」
「父上も大概になされませ、朝倉は援軍を惜しみこの近江に来る事も適わぬほど。武田も徳川と一戦して勝ちましたが何故か国許に引き返したとの知らせも受けております」
「……」
長政の指摘に久政は黙り込んだ。
「異議ある方が居られないようですので始めたいと思います。それでは……始め!」
この声を受けて俺たちは模擬槍を構える。
こうして、武士の意地をかけた戦いが始まった。
読んでいただきありがとうございます
感想などをいただけると嬉しいです





