第十五幕 人は向こうからやってくる、厄介事もやって来る
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「いやあー眼福ですなあ~」
にやけ顔の男が一人、うっとりとした声を座敷に上げた。彼の周りには美祢焼の茶道具が出され、箱がそこかしこに並んでいる。
思うところがあって信長に古田佐介を期限付きで美祢の焼き物工房に派遣してもらう事にした。名目は美濃に新たな焼き物の産業を興すため最新の焼き物を学ぶと言う名目だ。美濃の焼き物職人を連れてきてもらうことになっている。信長は直に許可を出してくれた。領国内に新たな産業が出来るのなら大歓迎だからだろう。それを聞いた荒木殿や松永殿たちの反応が凄かった。あんなに悔しがるとは思わなかったよ。
業が深いわ。
「某も領地のことが無くば美祢に行きました物を! 残念です!」
松永殿は隠居してでも行こうとしたのだが信長に反対されて落ち込んでいた。これが原因で反乱なんか起こすなよ! 慌ててフォローを行ったよ、大和郡山城の近くにある赤膚山に陶器製作に適した土があるので窯を興してはいかがと持ちかけたのだ、凄い勢いで飛びついてきたのでどん引きしたよ。其の為大和の住人から希望者が美祢に修行に出かけ、松永殿はどの様な器にするか考えてもらう、焼き物が完成したら{松永好み}とか{弾正焼}など呼ばれたりするのだろうか?
荒木殿も自分の領地がある摂津の国に窯を開きたいと相談を受けた。あんたもかよと思ったが残念ながら俺の知識ではあの辺りの焼き物についての知識が無い、兎も角陶土が無いと焼き物は出来ないので領内で産しないか調査する為専門家を派遣することになった。放って置くと信楽辺りに国替えを願いそうだからだ。
何故か将軍義昭にも呼ばれたのだが自分は一介の商人であり目通りするのは畏れ多いと断ったのだが、{尼子の忠臣の中山殿に是非会いたい}と言われてドナドナされて行った。何を言われるのかと思ったが珍しい品物があれば欲しいので是非見せて欲しいと言うものであったので拍子抜けしたよ。尤も下心ありげだったのできっと俺の毛利とのコネが使いたいのだろう、大方信長に歯向かう時に味方するようにして貰いたいのだろうな。
そんな事を考えていたら信長が笑いながら言った。
「公方は其のうち俺を討てとそなたを使って毛利に伝える積りだろうな」
完全に読まれてるじゃないか、どうしようも無いな。
「そんな下心があるんですか? それじゃあ……」
良くそんな奴を将軍に据えたなあと思うと信長は笑いながら口を開いた。
「そなたが思うとおりたまたまあの男が援けを求めて来たので乗っただけよ、前将軍の弟と言うのもあったがな」
見も蓋もない話だな。
「しかし、それでよろしいので?」
「いやだと言うのなら退場して貰うしかないな、幸い阿波にも足利はあるし其処から迎えればよかろう」
なんともドライな話だな、信長は人情味もあり民に優しい所もあるがドライな所もある、こんな所が本能寺の変の原因になったのかも知れないな。
まあ、とりあえず公方様とのお付き合いは程々にしとかないとな。
「そう言えば近江の戦況は如何でしょうか?」
浅井長政の拠る小谷城攻めの真っ最中に来てるんだよな信長は、ほったらかしでいいのかよと思ったが。
「藤吉郎たちが締め上げておる、そう長くはあるまいよ」
まあ、比叡山も焼き討ちしたし、朝倉ももうすぐ滅ぶしね。
「浅井はどうされるので? お市殿が居られるのでは?」
「その事なのだがなあ……」
信長の顔が暗くなる。
「お市には手切れとなった時点で戻ってくるように文を書いたし長政も同意したのだが、本人が受け入れんのだ」
この時代政略結婚で嫁いだ家と戦になった場合女子供は返されるのが習いであった。勿論例外はあり処刑される事等もあるけどね。
「では、お市殿は……」
「長政には降伏すれば命は取らぬと使者を送ったのだが断られてな」
長政が何故頑なになる理由はなんだろう?元々は朝倉との同盟を無視して信長が朝倉に攻め入ったからだと言われているけどそれだけかな?もしや……
「信長殿はかつて長政に領地替えの話でもなさいませんでしたか?」
「んん? そういえば朝倉攻めの前に朝倉を討ちし後には越前に国替えしないか話した事があったな。浅井も近江半国で周りに広がる事もできん、越前であれば加賀にも若狭にも伸びる事ができるからな」
恐らくは其れだな、浅井は元々地元の豪族から戦国大名化しており土地への執着は大きいはずだ、国替えを拒んで滅ぼされた領主や大名と同じだったのだろう。
其の推測を信長に話すと彼は憤然として立ち上がった。
「そうなら儂にそう言えば良いではないか! それで家臣や家族を不幸にするなど!」
合理を重んじる信長には理解しがたい理由だったのだろう。
「市殿も理由は知っていたのだと思います。其の上で長政に付いて行く事を決めたのです。信長殿、御二人を死なせたいのですか? そうでないのでしたら某が使者の任を果たしましょう」
「そうしてくれるか、儂は肉親を死に追いやるのは気が進まん」
結局厄介ごとを引き受けることになったな、まあこれも信長への貸しにして商売を広げるネタにするか。
とりあえず、小谷まで行く事になった。さて、うまく行く事になればいいが。
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