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第十一幕 大内輝弘乱入

永禄十二年


 大友領より密かに出発した船団が有った。毛利の目を避けるように航路を取った船団はやがて周防国秋穂浦に到達する。


「若林殿送ってくれて忝い」


「我らはこれより援護として毛利方の港を襲撃する、大友の御屋形様も貴殿らの活躍を期待しておりますぞ」


「では、これにて御免」


 大内家の係累で尤も大内宗家に近かった大内輝弘は付き従った部下たちに激を飛ばす。


「この地は嘗て大内が数百年に渡って治めた地、兵数は少なかろうと父祖の霊が我等に必ずや味方し、毛利等の新参者を討ち取るであろう」


 その激に兵士たちは鬨の声を挙げて応じる。


「では先ず手短に近くにある領主を攻める、別働隊は大内家の帰還を触れて廻り味方するように説くのじゃ、この地には毛利の兵が半数以下になっておる、我等に味方する者たちは瞬く間に増えるであろう」


そうして行動に移ろうとしたその時、周りから一斉に鬨の声が起こり旗指物が現れる。


「何事! 一体どこの軍勢か?」


 輝弘が驚いていると配下の者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。元々豊後で集めた浪人衆や雇われ兵であったので子飼いの僅かな家臣のみになった一行は簡単に包囲され捕縛されたのであった。



「無念……こうなっては潔く腹を切ろう、介錯をお願いしたい」


「そう急いで死ぬ事は無いでしょう、会って欲しい人物が居るのですが」


「是非も無い、会わせていただこう」


 こうして大内輝弘・武弘親子と僅かな家臣たちは謎の部隊に連れられて出発した。その旗指物に描かれた紋は橘であった。そうして彼らは山中へ分け入る道を進んでいった。


「大内輝弘殿、初めましてという所であるな、儂の名は尼子義久、元は出雲にて大名をしておった者だ」


「これは……確か毛利家から許され、所領を賜ったと聞いておりましたが此処はもしや……」


「そうじゃな、長門国の美祢という土地じゃ」


「ここがですか……」


 大内輝弘が目を瞬かせたのも無理も無い、この館に連れて来られる前に見たのは多くの人が行きかい栄えている街の姿だったからだ。石炭と石灰石の鉱山が始まって鉱夫や鉱石を運び出す荷車が行き交い、市が立って物を売る者あり、酒を飲ませる店や娼館までできていた。まだ真新しいそれらを見た彼らは度肝を抜かれていたのだったが、まさか美祢だとは思っていなかった、これまで一度も防長二国に入った事の無い輝弘だったが流石に美祢が何もない田舎だという事は知識としてありその事で驚いたのであった。


「まあ、採掘が始まったばかりでな街の方は今からと言った所だそうだ。それ以外は山深い田舎ゆえ大した物はないがゆるりとされよ」


「あ・尼子殿は某らを討ち取り手柄にされないのか?」


「討たれてあたら命を落とすこともあるまい、たった一つの命ゆえにな」


「ですが、我々は大内再興を目指して討ち入って来た者たちですぞ」


「なあ輝弘殿、貴殿は本当に大内の家名を再興されたいのか?僅かな手勢でそれもあっと言う間に大将を打ち捨てて逃げる者たちを連れて。居るかどうかも怪しい元家臣たちを上陸してから糾合することが出来るのか、疑問に思ったことは無いかな?」


「……そうしなければならなかったのだ、大友家より此度大内の再興の為に出陣せよと命が下ったのだ、今まで扶持を与えていたのは今日の日の為ぞと言われてな、断れば命もなかったであろう」


「父上……そのような事は知りませなんだ、いきなり出陣すると言われたのはそのせいだったのですか」


「武弘許せ、大内の名乗りなど今更どうにもなるまいにな、儂の父上が大内家の家督争いで敗れて大友家に逃げた時に大内の名乗り捨ててしまえばよかったのだろうがな、お前にまでそのつけを払うことになろうとはな」


「家名と言うものは時に人に重荷を与える物ですな」


「義久殿?」


「私も父が急死していきなり当主をせねばならなくなりましてな、尼子の家名の重さに疲れてしまい、月山富田城を開城した時、悔しいというよりも安堵する自分が居たのですよ」


  淡々と今でこそ語れる義久であったが籠城した時は気持ちが荒み、ちょっとした流言に惑わされ家臣を手打ちにしたりした。開城後寺に入ってからの日々悔悟する毎日を過ごしてたどり着いた境地である。


「尼子の名前も重かったが大内の名前はもっと重かったでしょう、一度見直してはいかがです、そうすれば新しい生き方が生まれるでしょう」


 穏やかな顔で語る義久に輝弘の顔から険がとれ穏やかな顔に成っていくのが見える。


「この輝弘尼子殿にこの身お預け申す、よしなにお願いいたす」


 こうして大内再興による長門・周防の混乱は未然に防がれたのであった。



豊前国 門司城 



「では混乱は最小限度で済んだか」


「はっ大内輝弘親子は山中・尼子勢が捕捉、輝弘殿を翻意させました。蜂起をしようとしていた者も事前に取り押さえる事が出来ました」


 元就の問いに使番は淀みなく答える。


「うむ、これで安心して前面の大友軍と戦える」


「大内輝弘はいかがいたしますか?」


「尼子義久殿と鹿介からは嘆願状が来ておる、大内の嫡流として遇して欲しいとな」


「では?」


「旧大内領では問題が起こるか判らんからな、出雲か伯耆にて領地を宛がうことにしよう」


 小早川隆景の問いに元就が答える、これは事前に鹿介と打ち合わせて居た事の確認でもあった。


「大友の工作もこれで種切れでしょう、出雲でも蜂起を呼びかけに使者が送られましたが皆捕らえられましたからな」


 これは国内の不満分子を鹿介らが自分たちの商売に誘い国内に居なかった事、尼子本家が客将として毛利家から遇されている事が大きかった。


「鹿介らには何か褒美をやらねばな、この戦が終わってからであるが」


 この後毛利と大友の戦いは毛利優勢になり、大友は幕府に再度和談を申し込む破目になるのであった。



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