第2話 銅貨40枚じゃ割に合わねぇ!
「お主、中々腕があるのぉ。見ておったぞ」
国王は満面の笑みを浮かべる。
「まさか使い手の少ない『戮』を扱うとは、驚いたものじゃ」
国王は渾身の笑顔でスレイに語りかけてくる。それを、スレイは否定する。
「いえ。『戮』だけではありません。すべての属性を扱えますが」
スレイは当たり前でないことを当たり前に言ってのける。
「通常、人間には多くとも2種の属性が限界だと言われておるんじゃぞ」
国王は、スレイに興味津々だった。ものすごく前のめりになっている。
「すべて、ということはまさか『灼』『零』『轟』『舞』『震』という、基本の5つに加えさらに『戮』『穿』『僞』『靈』『禦』という、習得が困難だとされている属性まで扱えるのか? なおさらすごいではないか」
国王はかなり驚いた表情を見せた。
「お主、かなりのやり手じゃなぁ」
国王はそう言いながら部下を呼び、なにか指示をした。
「そんなお主に期待をかけて、この優秀な成績を残したメンバーとチームを組んでほしいんだ。君はまだ、チームを組んでいないはずだからな」
後方にある扉が開かれると、見覚えのある人物がいた。
「あぁ! スレイじゃん! よかったぁ、知ってる人でぇ!」
そこにいたのは正真正銘、ラソラであった。黄色の腕輪をつけていることから、試験に合格し、魔法使いの資格を与えられたのであろう。
「なんだお主ら、知り合いかね? まあよかろう」
国王はそう言うと、扉の方に残っている人物のことを見た。
その先には、見知らぬ人物も立っている。
「わたくしは嬢様ですわよ! あんな庶民共とわたくしがチームを組むなんて、ありえませんわ!」
そこには仁王立ちをし、金髪で長いスカートをはいた、嬢様だと言い張る人が立っている。
「君たちには期待をしておるぞ。ぜひ、異界生物が増えた原因を解明してくれたまえ」
国王は嬢様の話を無視し、スレイ達を追い払うように押し出した。
******
このギルドで1番大きい建物である王城から出てきた。
「ねぇ、名前は? 私ラソラ! よろしくね!」
ラソラは警戒なくしゃべりかけている。
「わたくしはユスですわ。わたくしと巡り会えたこと、感謝するがいいですわ!」
ユスは、最後の部分だけ強調して言った。
「その腕輪、弓使いか?」
ユスはきれいな青い腕輪をつけていた。
「ええ、そうですわ。なにか問題でもあるのです?」
ユスは、上から目線な態度だった。スレイとラソラはそんなことなんて気にしない。
「確認しただけだ。一応な」
スレイはそっけなく返した。
「ねぇ! みんなでクエストやろうよ! 最近、借金しちゃったからさぁ!」
ラソラは、笑顔で言ってはいけないことをなぜか笑顔で、しかも1番明るい笑顔で言ってのけるのである。
「借金って、なにに金使ったんだ?」
「えっとねぇ、おいしいもの食べてたらなくなっちゃった」
なぜラソラはこんなに明るく振る舞えるのかがわからない。普通だったらものすごく暗い内容のはずだが、めちゃめちゃ笑顔だ。
「だからさぁ、まずはクエスト行こ!」
ラソラは2人の手を引っ張った。
クエストが書かれた看板は、ギルドの中央広場にあるのである。
「よぉし、このクエストとかいいんじゃない?」
ラソラが指したのは、『ゴブリン』と書かれているクエストだった。
「ゴブリンだが、突然変異して巨大になるかもしれないんだぞ!」
スレイは変な妄想をして、やっぱり警戒している。
「そんなのいるわけないじゃん! スレイは気にしすぎなんだよぉ!」
ラソラはその紙を1枚手にとった。
「報酬は銅貨40枚か。生存確率に対して割に合わない。やめよう」
そう言って逃げるスレイを、ラソラは無視した。
「1名逃げてますが、よろしくて?」
ユスは逃げゆくスレイを遠目に見ながらラソラに聞いた。
「ここで、転送魔法を使えばぁ、スレイなんて一瞬でここに来ちゃうんだからぁ!」
ギルドを出てから言った。ギルド内では、抜剣したり、魔法を使うのは禁じられている。だからギルドの外で使うのである。
「『フリュー・パ・レア!』」
さっき使った転送魔法と名前が違うが、ラソラもそのことには気づかない。無意識に、笑顔のとき、怒ってるときで使い分けているらしい。
そこにはスレイが現れた。休憩していて、ベンチに座っていたようなポーズだ。スレイはバランスを崩し、尻もちをつく。
「俺は行かないぞ。報酬が少なすぎる」
「えぇ? そんなことないよぉ!」
スレイはそんなラソラの話は聞いていない。
「早くしてくださる? わたくしは待ちくたびれましたわ」
さっきまで静かに聞いていたユスが突然口を開いた。
「よぉし! いっくよぉ! 『フリュー・パ・レア!』」
「ちょっと待て――!」
そこにあった3人の影は、瞬時に姿を消した。
******
現れたのは目的地の付近だった。
「転送か!? 座標を間違えてゴブリンの目の前に行ったらどうするんだよ!」
スレイは急いで文句を言ったが、ラソラはそんなこと聞いていない。
「あそこにありますわ。わたくしはやる気が出ませんから、2人でがんばってくるのですわよ」
ユスは近くのちょうど良さそうな石に腰掛け、優雅にティータイムを始めている。どこから持ってきたのやら。
「はぁ? 俺がプランを立てるからな」
そういって地べたに座り込み、話しだした。
「まずは偵察だ。敵の基本情報をすべて知るまでやる。次に⋯⋯」
スレイの長々としたプランを途中で遮ったのは、ラソラである。
「とりあえずお友達になればいいんだよ! そうすれば倒したことになるでしょ!」
ラソラはなぜか自信満々だった。
「どんな方法にせよ、わたくしはやらないですわよ」
そう言い終わった直後にも、静かに紅茶を飲み始めた。なぜこんなに自由にしていられるのだろうか。スレイにはわからなかった。
「倒してきてくださる? 報酬はもらってさしあげますわ」
「働かねぇやつに報酬はやらねぇよ」
そう冷静な突っ込みを入れた後、スレイは脳筋で突っ込んでいったラソラを追いかけ始めた。
ユスは大きなため息を吐きながら、仕方なく立ち上がった。弓と矢をとり、ゆっくり歩いて2人のもとへ向かうのである。
「仕方がないですわね。付き合ってさしあげますわ」
ユスは、ごくわずかなやる気を振り絞ったような歩速で歩いている。
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「お友達になってくださーい!」
ラソラはそう大声をあげながらゴブリンの巣穴へと向かってゆく。その姿はまるで、虫を追いかける子供だった。
「待てラソラ! その巣穴には何万という数のゴブリンが潜んでいるかもしれないんだぞ!」
「大丈夫だって!」
ラソラはスレイの言うことには耳を貸さず、1人で巣穴に向かっていった。
「お友達になってくれるかなぁ?」
ラソラは1人で謎の心配をしながら巣穴へと向かう。本当になにを考えているのやら。
巣穴には、緑色で二足歩行の生物がうじゃうじゃと入り混じっていた。
「すみませーん! お友達になってくれませんかぁ?」
ラソラは巣穴の入口で叫んだ。巣穴で声が反響し、もともと大きな声をさらに大きくして響かせた。
その瞬間、緑色の異界生物とラソラの目がバシッと合う。
「あのぉ、お友達が欲しいんですけどぉ」
ラソラは静かに近づいてくる同じ顔に怖気づいた。これが本来の反応なのかもしれないが。
ラソラが後ずさりを始めたとき、緑色の異界生物が向きを変え、動きを止めた。
その後ろから、長らしき王冠をかぶったゴブリンが出てきた。
「お断りだ」
それだけ言うと戻っていった。
「ちぇっ」
ラソラは舌打ちをし、スレイ達のもとへ戻ろうと決めた。そのため、緑色の異界生物に背を向ける。異界生物はまさにその瞬間を狙っていた。
「かかれぇ!」
ラソラの後ろからは、大きな声とものすごく大きな足音がドタドタと聞こえた。
ラソラは後ろを振り返ると、思いがけない発言をする。
「あ! やっぱお友達になってくれるのぉ?」
ラソラは両手をあげ、ゴブリンたちを迎え入れようとした。
緑色の異界生物は、そんなの無視だ。問答無用で持っている棍棒を振り上げる。
その棍棒がラソラをかすめた。ラソラの頬からはポタポタと赤色の液体が垂れる。緑の地面は濃い赤へと染まっていく。その瞬間、あたりの温度はかなり低くなった気がした。これには緑色の異界生物も固まっている。
真上の太陽がじりじりと照り、ラソラの赤い液体を光らせる。
「テメェら、やりやがったな」
ラソラは緑色の異界生物にそう言い放つ。ゴブリンはまだ固まったままだった。




