第13話 『あの情報』を世にばらまくぞ
「『クルエール・メイデン』 テメェら、邪魔なんだよ!」
ラソラの周りにいた異界生物はなにかに縛られたように動かなくなった。
「邪魔なんだよ! 二度と生まれてくるんじゃねぇ! 『インフィジャール・カリス』」
あたりには大きな爆発音が空気をとんでもなく震わせた。天井がボロボロ落ちてきたほどだ。
もう誰がいようと関係ない。理不尽に攻撃をしているラソラであった。
「あ、あの、僕でよければ、手伝います。どうせ力にはなれないですけど⋯⋯」
低い姿勢でラソラに話しかける。
「話してる暇があったら早くやれ!」
「あ、はい」
リデソは、ラソラの元に戻ってきた。ラソラは、そんなリデソにはまったく気づいていない。
「『滅』殲鏖壊・骸軆廻!」
リデソはすべてを蹴散らす、そんな勢いで敵の集団に飛び込んだ。
「テメェ、邪魔なんだよ! 私の攻撃が当たっても知らねぇからな!」
リデソには聞こえていないようだった。
そうは言いつつも、リデソが離れてから攻撃することにした。
「『インフィジャール・カリス』」
その魔法で目の前にいる異界生物は倒れていく。
「ねえ、お願いがあるんだけど」
戻ってきたリデソは、ラソラにお願いをする。
「あぁ? テメェの願いなんか聞いてる暇ねぇんだよ」
「上にいる人が倒れていてさ、回復してきてほしいんだ」
リデソは強く言う。ラソラも一応耳は傾けている。
「頼むよ。ここはこんな僕だけど、任せていいから」
「いくらなんでも死体は回復できねぇぞ?」
ラソラは忠告するように言った。
「気を失ってるだけだから」
「そういえばテメェ、リデソか?」
ラソラは、ようやくリデソの存在に気がついたようだ。
「今頃なの?」
リデソは、嘲笑うように言った。
「あ、異界生物来た。じゃあ、頼んだよ」
リデソはそう言いながら、敵の方へ技を放っていた。
「仕方ねぇな」
ラソラは仕方なく2階へ行くことにした。
******
「で、どこなんだ?」
ラソラは突き破られた天井から2階へ上った。
ラソラの周りでは、なぜか飛び跳ねているスライムがいる。
「あぁ、テメェか」
ラソラはスライムを見た。この間ついてきたスライムだ。
そのスライムは、なぜか飛び跳ねている。ラソラにも、なんとなく意図は察せられた。
「仕方ねぇ。ついていってやるよ」
ラソラは扉を開け、廊下に出た。
スライムが、また扉の前で飛び跳ねている。ラソラがそこに行こうとすると、スライムは体を縮め、扉と床の少しの空間から部屋に入っていった。
ラソラは普通に扉を開け、中に入った。
「こいつのことか?」
ラソラの目の前には横たわっている人間がいる。
「試してみるか。『アザーブ・ダル・イアーヴァ』」
ラソラがそういった。
するとその人間は意識を取り戻したように目覚めた。
「ああ、助けてくれたのか。感謝だ」
「テメェ、誰だ?」
ラソラにはわからない。一切部屋の中身を見ていないからだ。いや、見てもわからないかもしれない。
「私か? 錬金術師だ。腕を気に入られてここにいる」
「テメェ、ちょっと待ってろ」
ラソラはその錬金術師を置いて下へ行こうとする。
「あ、これを持っていきたまえ。一時的だが、能力が格段に上がる優れモノだ」
錬金術師は、袋に入れた瓶をラソラに手渡した。
「テメェ、動くんじゃねぇぞ?」
ラソラは一応言った。一応。
******
「テメェ、はよどっかいけ!」
「あ、やってくれたんだ。わかった」
リデソは、少々驚いていた。本当にやってくれたんだと。
「テメェ、舐めてんのか?」
リデソはラソラの話は頭に入っていなかった。もうとっくにそこにはいなかったからだ。
******
「なんだこれ? 気味の悪い空間だ」
スレイは階段を登りきり、扉をあけると、不思議な空間についた。
そこは薄暗く、なぜかジメジメとしたような空気が広がる空間だった。
歩くたびにネチョネチョと音がする。
「もしかしたら、罠があるか?」
スレイは段差の裏に隠れ、あたりを観察した。
「やっぱなにもないな」
あたりを見るが、罠らしきものは一切見当たらない。罠すらも最新技術で見えなくなっている可能性は否定できないが。
スレイは段差や障壁に隠れながら中央へ向かって進んでいった。
このまま何もなく終わるのが1番よいが、あまり期待はしていない。
そこは、もとの姿を無理やりかき消されてこんな姿になっているようだ。
もう、なにがなんだかよくわからない状態になっている。スレイにこれが解明できるとは思わない。
「これ、どうするべきなのか」
あたりには静寂な空間が広がっている。
スレイがつぶやくたびに、そのすべてが空気中に飛び回る。
「本当に、なにもいないのか?」
すると、1つの物音がスレイの鼓膜を襲った。
「なんだ!? なんかいるのか!?」
スレイがそういう。だが、反応はまったくない。一切存在しない。
「どこだ? 上か?」
スレイは上を振り向いた。そこには、なにも見えない空間が広がっていた。
スレイは剣を取り出し、いつでも戦闘ができるようにしておく。
「そこだ。それ以上影を踏み荒らすな」
どこからか、声が聞こえる。姿形は、一切見えない。声だけが聞こえる。
スレイは、周りを見渡すも、なにもない薄暗い空間だった。
「人の土地に侵入する、不届き者よ」
心に突き刺さるような冷たい声で、スレイはそう言われた。
******
「今後のお前の言動次第ではあの情報を世にばらまくかもな?」
あの情報、というのは、ユスが偽名で生活をしていることだろう。いや、もうユスではないのかもしれない。
「我々一族の華美な名を捨て、その汚らしい名前を使っていくのか? ユス?」
なぜその情報まで知っているのか、わからなかった。
「わたくしは、わたくしは⋯⋯」
ユスの声は、完全に縮こまっている。もう、誰にも聞こえないぐらいの声しか絞り出せていない。
「お前は一族から出ていった。お前はなぜ出ていったのだ? この素晴らしい一族から」
どこが素晴らしい一族なのか、ユスにはわからない。得体のしれないことだった。
「わたくしの、わたくしの⋯⋯」
ユスが理由を言おうと口を開いたときだった。
部屋の扉が開き、誰かが入ってきた。
「父上! 1人の勇者と、幹部の接触が確認されました! どうしますか?」
「命知らずな勇者だな。そういうやつは大抵最初に死ぬアホだろ。放っておけ」
お父様はそういう。だが、ユスにはこれが誰か、なんとなく察せられた。
ユスはなにも言わずにその場を走り去ることにした。
「おいお前! 逃げる気か!?」
後ろからは、お父様の声が聞こえる。
ユスは、完全に無視する。これが、ユスにとって初めて、誰かのために動いた、そんな瞬間だった。




