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10.器用な貧乏人

(なんだろう・・・この既視感)


『顔の色を失い、動揺を隠しきれず目が泳ぐエミリア』。目の前の見覚えのある光景にエマは小首をかしげた。


エミリアの令嬢に対する侮辱的な発言に言及するべく、リアム王自ら状況確認を行ったところ、当人のエミリアが口を閉ざし動かなくなってしまった。


「そこのご令嬢、何故声を荒げたのか説明してくれ」


口を開かないエミリアに、今にも痺れを切らしそうなリアム王が、射殺しそうな視線を投げかけている。もちろん王のオーラに押し潰されそうなエミリアはその質問に答える事が出来ない。


「・・・はぁ、カールソン嬢、何があったか説明してくれ」


「!!」


頑なに口を開かない態度に呆れた様子のリアム王がエマへと説明を求める。


この状況を遠巻きに見ようと、気付かれない様に徐々に後退していたエマに視線が集中する。


「・・・はい。ノヴァック嬢が乗馬が出来ないことをこちらの令嬢が叱責しておりまして」


逃げる事は不可能と判断したエマは、名がわからないエミリアへちらりと視線を移しながら短く説明した。


(本当は美貌の騎士様と同乗した事が原因だけど・・・)


「っふん、くだらん事を。今すぐ城に引き上げて頂こうか」


「リアム様、騎士はノアしかおりません。一人であの林を抜けて迷いでもしたら大変です。ここはお叱りだけにして上げて下さい」


エミリアを城へ帰そうとするリアム王の腕にそっと手をのせ、オリビア妃が優しくなだめる。堅苦しい雰囲気の騎士達を会食に連れてきたくなかったのか、それともノアが相当の腕の持ち主なのか不明だが、湖に連れてきた騎士はノア一人だった。


「・・・仕方がない。これ以上問題を起こすな、いいか?」


「・・・・は、はい・・・・」


最終通告ともとれるリアム王の命令に、完全に意気消沈したエミリアが、残り少ない力を振り絞り答えた。


シンっと静まり返った湖は大変居心地が悪く、本当にこれから会食が開始されるのかと皆不安な色を浮かべていた。


「さあ、皆さん、王宮のシェフが腕によりをかけた料理を用意致しました。ささやかな席ではありますが、どうぞ楽しんでいって下さいね」


そんな淀んだ空気を一蹴するようにオリビア妃は華やかな笑顔で令嬢や侍女達に声を掛け、皆の緊張を解してくれる。


オリビア妃の声を合図に会食が開始され、侍女達が席の案内や飲み物の提供、食事の配膳などを行い始めた。


リアム王の隣にはオリビア妃が座り、他の令嬢も丸いテーブルを取り囲む形で腰を落ち着けた。先程の恐怖を忘れられないエミリアは王から一番離れた位置に座っている。


「あの、先程の話なのだけれど、乗馬が出来ないのはなぜかしら?」


会食が始まって少し経った頃、オリビア妃がエマを見て尋ねた。恐らく令嬢の名前と顔を王と王妃は正確に把握しておらず、『ノヴァック嬢が誰なのか』がわからないのだ。なぜかエマだけは王に名を覚えられていた様だが。


「はい、こちらのノヴァック嬢は乗馬が出来ません。ですが、こちらの領地では馬ではなく牛を移動手段にしているようです」


「「牛?」」


リアム王も興味を持つ話題のようで、王と王妃の声がそろった。


「は、はい、ノヴァックでは馬は一頭もいません。貴族も平民も牛を一家で一頭は必ず所有しています」


急に注目を浴びたアイラは緊張した面持ちで説明を続ける。


「なぜ牛なのかしら?馬ではダメなの?」


王族を前にしているためか先ほどの様に牛に対する異常な愛情は見せないものの、オリビア妃の質問に先ほど令嬢達に熱弁した内容を丁寧に答えていく。その隣でリアム王が口は挟まないが頷きながら話を聞いていた。


会食での会話はほぼアイラ中心となり、王と話したい令嬢達はやきもきしながら話が終わるのを待っている状態だ。ファッションやスイーツなどの話題には加われるのだが、牛の話など興味さえない。


「やはり肥料として使うには混ぜ物が必要なのですね」


嬉々として会話に混じるエマを除いては。


最初は緊張していたアイラだったが、オリビア妃が質問を重ねるごとに流暢になり、話題は牛からノヴァック領の説明に入っていた。


ノヴァックはカールソンの様な田舎町ではあるが、領地は狭く、土地も痩せこけており作物の生産には向かなかった。しかし、そんな不遇の立場を悲観せず、他の領地から糸を買い、布にしてから都へ売ったり、海辺の領地へ出向き魚を購入しては塩漬けにする事で長期保存が可能な商品を作り、陸地続きの国に売るなど、知恵を絞りながら生きてきたのだ。


「このようにノヴァックは特産物はありませんが、領民と手を取り合い、創意工夫を凝らしながら収入を得ているのです」


「まあ、皆で力を合わせて領地を支えているのね。素晴らしいわ。」


拍手でもしそうな勢いでオリビア妃はアイラを称賛する。しかし、謙遜しながらも嬉しそうなアイラを見る令嬢達の視線は冷たいものだった。



「さて、食事はこれくらいにして、ノヴァック嬢、私と一緒にお茶でもいかがかしら?もっと領地の事を教えてほしいわ」


「はい!喜んで」


オリビア妃と話すことが楽しかったのか、アイラは元気よく嬉しそうに返事をした。


「ではティーサロンを使うといい、俺はまだ仕事があるから応接間にいる。他の者は各自暇をつぶしてくれ、日暮れ前には引き上げるので時間になったら声を掛けろ」


「はい」


ノアに指示を出すと、リアム王とオリビア妃は満面の笑みのアイラだけを連れて去っていった。


残された令嬢達は声を掛けられる事もなく(一人は叱責を受けたが)、特別扱いされたアイラとアイラの話を興味深そうに聞いていたエマへの苛立ちを募らせていた。


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