我、襲撃サレル
辺り一面に爆発音が響き思わず手に持っていた手榴弾を落としそうになったが、何とか気を取り直し、反射的に爆音がした場所に目を向けた。
爆音がした場所はちょうどさっきまで手榴弾を投げようとピンポイントに狙いを定めていた位置だ。弓を持ってさきほどまでこっちを狙っていた男の姿は見あたらず、突然の出来事にさっきまで臨戦体勢でこちらに意識を集中していた面に少しばかり動揺の色を見せた。
「皆伏せろ!襲撃だ!」
さっきまで仁に対して警戒心を露にしていた金髪の男が混沌とした状況の中、いち早く置かれた状況を理解したのか、即座に大きな声で素早い判断を下した。
「おい、敵の位置を特定できるか!?」
怒鳴りつけるような声で隣の兵士に命令する金髪。しかし戦い慣れをしているのか、さっきまで動揺していた顔は冷静に戻りつつあった。
「ここ周辺は草の丈が高く詳しくはわかりませんが我々の居場所が敵に知られていることは確かです。ずっと後をつけて機を伺っていたに違いありません。」
「そうか、仕方ない。とりあえずこのままでは埓があかん。皆、各自できるだけ今の場所から離れて応戦しろ!」
伏せたままの体勢で淡々と命令を下すと、周りの兵士たちは一斉に行動を開始した。
「ラフィア王国直属の精鋭、王国騎士隊に喧嘩を売るとは馬鹿な連中め!」
そう吐き捨て金髪は剣に炎をまとわりつけ、襲撃者に向かっていった。
「え?ちょっ、ヤバいだろこの状況!?」
ひとまず襲われた時の為に完全武装をすることにした。帽垂をつけた帽子と九八式夏衣をだす。ちなみに軍服もある程度は精製できる。しかも服は自動に着た状態で変えられるので、余計な着替える時間は割くことができ、かなり便利だ。
肩に四四式をかけ、両手で九六式を持ち手榴弾を装着、これで一応完璧だ。
「さてと、見つからないようにさっさと逃げますか。」
ひとまず草の丈が高く見渡しの悪いここを出ることが目的だ。
「はあぁぁぁッ」
剣と精霊術を駆使した二重攻撃を受け、眼前の敵は顔に氷槍が刺さったまま、剣で勢いよく叩き斬られた。
辺りの草の背が高いのをいいことに周りの風景に溶け込み、待ち伏せ攻撃をしようとした敵に氷の槍を精霊術で作り上げ発射した。と同時に、自分も氷槍を追うように走り敵を斬りつけた。
フィレアが属している王国騎士隊が相手にする敵は最低Cランク以上の凶悪なモンスターや、指名手配の犯罪者や魔術師、凶悪なテロ集団など実力者ばかり相手にしてきた。襲撃者は身なりから判断するとただの盗賊にみえ騎士隊にとっては赤子の手をひねるようだ。
二重の攻撃をまともに受け、目の前の男は叫ぶことも許されずうつ伏せに倒れ、絶命した。
次々と飛んでくる矢の攻撃を防ぎ、こちらを狙っている射手に向け高濃度に圧縮した精霊氷攻撃魔法を放った。
「ラウス、敵の詳細は?」
「服装や攻撃のやり口で予想すると盗賊だと思われます。奴ら相手なら問題はないのですが…」
「何か問題があるようね。」
「はい、相手側に一人かなり腕の立つ魔術師がいます。」
顔をしかめ面にするラウス。
「そう…わかった。魔術師には一人でなんとかしようと思わないでと皆に注意して。」
「御意。」
フィレアに胸に手をあて頭を下げると仲間の援護をしにその場から立ち去った。
フィレアは手元の剣を構え直し、精霊の加護を周りに放出させ、依然と前方で弓矢を放つ相手に向かっていった。
両手で軽機関銃を持ち弾倉をセットし、いつでも発射OKの状態で仁は戦線からいったん離れ、遠くから戦いを見守ることにした。
「これは逃げるべきなのか、それとも一緒に戦うべきなのか。迷うな。」
さっきまで睨み合っていた相手だ。友好的な目では見られないだろう。
周囲を幾度も警戒しながらもぼそっと呟いた
「おっと逃がしやしないぜそこの坊主よお?」
「!?」
不意討ちのように突如後ろからごぶとい声がかけられたと同時に、草むらから10人ちょいの男たちが現れた。ほとんどが軽装の防具を身にまとい、手には剣やら槍、弓を持っている。見た目で判断すれば完全に盗賊…これが仁の第一印象だった。
「お頭、こいつ武器一つ持ってませんぜ。」
真ん前のナイフを持った背の小さいギョロ目の男が仁を見てあざ笑った声をあげた。
「抵抗できないならちょうどいい。殴り倒した後、奴隷市場で適当に売りさばいてやる。」
ギョロ目の横にいる比較的体格がよく、顔中毛むくじゃらのゴリラ顔の男が答えた。どうやらこいつがお頭らしい。
「しかし旦那ぁ、こいつ2、3発殴れば死にそうな顔をしてるぜ!」
「ギャハハハ」
周りの男たちは下品に大声で笑った。
「さてとお遊びはこれまでだ。」
笑いを止め腰から剣をとりだすと、お頭と呼ばれた男が腰の剣を抜き、脅すようにチラチラとみせつけながらこっちにゆっくりと近づいてきた。
「本当は奴隷市場で売りたいところなんだが、依頼者から全員一人残らず殺せっていわれてるんだ。」
薄汚い顔を近づけながら来る男の発言に疑問が浮かび上がった。
「依頼者?」
つまりこいつらは金銀盗みたくて故意に襲撃したのではなく、誰かに頼まれて襲ったということなのか。
「そうだ、依頼者だ。」
歩みを止め野卑な笑みを顔中に浮かべながら喋り始めだした。
「どうせ殺すなら話しても別に問題はないか。依頼者の提案で、まず騎士隊の奴らを依頼者と俺らの別働隊が先に攻撃し、引きつける。そして奴らの背後からこっそり俺達が後ろから不意打ちにして挟み撃ちにする単純な作戦だ。」
もっている剣を高くあげながら男はまだしゃべり続ける
「この作戦が成功すれば依頼も完遂して大金が貰える。俺達の邪魔をしてくる騎士隊に大損害を与えられる。こんなうまい話にのらない方がおかしいだろ?」
男のお喋りが終わると同時にギョロ目が騒ぎ始めた。
「頭ぁ、早く殺しちまってくださいよお、さっさとしないと作戦が失敗しちゃいますぜ。」
「そうだな、始末するか。」
歩みを再開し、剣をあげたままの状態で一歩二歩と近付いてくる。
迫ってくる相手から仁は少しずつ後退しつつ、手元の九六式を男に向けた。
「命乞いをしなくていいのか?」
にやけ面した野卑な笑みをこぼす。多分けいつは仁が命乞いをしないのを疑問に思っているに違いない。勿論男のいったことを実行しするつもりない。
「じゃあ俺からも一個聞いてほしいことがある。」
軽機関銃の引き金に指をおき、男に狙いを定めた。
「どうした?命乞いの準備か?」
「お前ら全員が今から俺に命乞いをするなら許してやっていいぞ。」
仁の言葉に最初はきょとんしていたが、時間が立ち理解したのか剣を持つ手がブルブル震え始めた。
「手までブルブルさせて…命乞いすることが怖いのかいボク?」
「……ッ…このぉ野郎…ふざけやがって」
馬鹿にされたことがないのだろうか、顔中の血管という血管を浮かばせ、真っ赤のトマト顔になった男は持っていた短剣を握り締め、こちらに向かって大声をあげながら真っ直ぐむかってきた。
「て、てめぇの腹を切り裂いて内臓を引っ張りだしてやらあああ。」
「うおっ」
男の俊敏な動きと発した言葉の狂いように戸惑いを隠せなかったが、体を男の方へ向け銃を固定し、気を取り直し引き金を引いた。
乾いた音が辺り一面に響き銃の反動に耐えながらも仁は間隔をおいて発射した。
今は軽機関銃を持ち上げている状態なので、引き金を引いたままにしておくと銃の反動によって狙いが定まらないことがあるのだ。
一直線に突っ込んできた男は銃から発っせられた6.5mm弾をまともに食らい、体を守っている鉄の鎧を易々と貫通し、体の内の繊維をぐちゃぐちゃにしていった。
真っ正面から突っ込んできた男は見事に銃口から放たれた銃弾の恰好の的になり、雑巾のぼろ切れと化した。
「え、おいどうしたってんだよ。」
自分達を統率するボスが未熟な青二才の未知なる攻撃を受け、簡単にやられてしまったことに動揺を隠せないでいた。
「こ、こいつ武器を持ってるぞ!」
今更気づいたのかよと想いつつ銃をギョロ目の方へ向けた。
「へ?」
そしてマヌケ面をみせた顔に何発もの弾を食らわせた。
おしゃべり口はぐちゃぐちゃになり、歯は砕け唇は引き裂かれた。
「ま、魔術師だあ!」
「どうすりゃいいんだ」
予想外の展開に盗賊側は大混乱に陥った。
しかし敵対する人数がたった一人であることに気をとりなおしたのか男たちは再度剣や弓を握り締め警戒を露わにし始めた。
「全員でかかればいくら強くても対処しきれねえはずだ!おまえらやっちまえぇぇぇぇ。」
「うおぉぉぉ」
「敵はとってやる!」
「死ねえええ」
全体の志気を上げ四方八方囲んでいた男たちが一斉に声を荒げながら仁の方向へ飛びかかってきた。
「ちょ、一気に突っ込んでくるのかよ。」
内心焦りながらも持ってる軽機関銃を腰の位置に構え、まず初めに先程とさほど変わらない攻撃パターンを仕掛けてくる敵に向けて銃をあわせ引き金を引いた。
「うぎゃあぁぁぁ」
男は体勢を大きく崩し地面に倒れ先程の威勢のいい声と変わり悲痛で情けない悲鳴に変換され足を押さえこんだ。どうやら銃弾は足に着弾したようだ。命を取るには至らなかったらしい。
すぐに照準を左前方に変え同様に引き金を引いた。乾いた音が鳴り響きこちらを弓で狙っていた射手の胴に鉛か撃ち込まれていった。
慣れない動作であるが素早く弾倉を取り替え次の弾倉を差し込み口に差しこみ体勢を変え後ろを振り返った。後方は全員合わせて6人。
「怯むな怯むな!」
「腐れ魔術師があああ」
「隙あり!」
銃口をあげ軽く興奮状態に陥っていた敵に向け銃が火を噴いた。連発的に発せられる重低音と連動するようにバタバタ倒れる自分たちの仲間。彼らの死体の多くは胴体や頭、手足に穴という穴があき、粉砕している。自分たちの知識内で理解できない恐怖に打ち勝てなかったのだろう。あっという間に4、5人を撃ち殺されたところで、男たちの目にはいとも簡単に仲間が殺されていったことに対する憎悪と、知識内で理解しがたい武器に対しての恐怖が浮かんできた。
男たちはもはや勝てない相手と悟ったのか、ジリジリと後退し始めた。
「ク…ソ…。」
歯軋り音が聞こえそうなくらい頬を硬直させ呪詛を吐き出した声を出す。
「いつかこの借りは必ず返してやる。」
男たちは口々にいいながら後退し、草むらに隠れるようにして去っていった。
「ふぅ」
戦闘が一段落落ち着いたとこで仁は腹の底から溜め息をだした。慣れない戦闘に神経を研ぎ澄まし実際のところ少し疲れているのである。もしこの軽機関銃がなく手持ち0で異世界な放り込まれていたら持ち物と服を全て没収され、全裸で辱めを受けた後、斬り殺されていただろう。
「はあ、一段落ついた。」
「なあ兄ちゃん。俺のことを忘れてないか?」
「…え?」
右足が突如勢いよく掴まれバランスを崩され仁は倒れ込んだ。突発的に受け身の形をとりなんとか地面に直撃しなかったのは幸いだったが同時に持っていた軽機関銃を手放してしまった。
「てめぇよくも俺の足にぶち込んでくれたなあ!っうちくしょ、力が入らねえ。」
前半身を動かし悪態をつきながら血走った目をこちらに向け片手に握っている剣を振り上げ……られなかった。目の前の男から血が吹き出し男の息の根が止まった。
「な…何が。」
「貴方。」
つかつかとベットリ血がついた剣を持ちこちらに向かって歩く少女‥フィレアは紫色の目に隠せない驚きをさらけ出しながら一言を発した。
「あれだけの数を短時間に…本当に何者なの?」