↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が戦えなくなった日、パーティーが壊れた  作者: 座間あぜん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/10

第9話 俺を救ってくれた3人の仲間

「……何だ、これ?」


フェルマのお母さんが胸を押さえて倒れた。リスティの両親も、ジルドレの家族も、地面に倒れて苦しんでいる。全員の胸には、赤い魔法陣が浮かんでいた。


「お母様、しっかりしてくださいませ!」


フェルマが母親を抱き起こした。


「フェルマ……、逃げなさい……」

「嫌ですわ。お母様を置いて逃げるなんてできません……!」


リスティは両親のそばにひざをつき、回復魔法を使っていた。


「あたしが治すから……。お父さんもお母さんも、死なないで……!」


だが、赤い魔法陣は消えなかった。ジルドレも家族の胸に手を当てていた。


「……カイ。これは普通の魔法ではないな」

「ああ。たぶん禁術だ」


俺はフェルマのお母さんの胸に浮かんだ魔法陣を調べた。細かい文字が、赤い光の中を動いている。魔法使いの俺でも、見たことがない術だった。

でも、何となく仕組みは分かる。


「……ああ、なるほど」

「カイ、何か分かりましたの?」


フェルマが俺を見た。


「王城から逃げたら発動する禁術だな。このままだと、みんな死んじゃう」


フェルマの顔が青くなった。


「お父様が、こんなことを……?」

「たぶんな」


俺は魔法陣に手を当てた。


「でも、何とかできそうだぞ」

「本当ですの?」

「おう。禁術を別の身体に移せばいいんだ」


俺は自分の胸を指さした。


「俺が引き受けるよ」

「駄目ですわ!」


フェルマが俺の腕をつかんだ。


「あなたは、また自分を犠牲にするおつもりですの?」

「俺はもう普通の人間じゃない。強度が上がってる。俺なら耐えられるかもしれない。それに、なん体か死んだところでどうってことないさ」

「そんな言葉、もう聞きたくありませんわ……!」


フェルマの目から涙がこぼれた。

リスティも俺にしがみついた。


「カイ、お願い……。あたし、もうカイが死ぬところを見たくないよ……」

「でも、このままだと家族が死んじゃうんだぞ?」


リスティは何も言えなくなった。

俺は2人の頭をなでた。


「大丈夫だって。今度は256人もいるんだからさ」


ジルドレが俺を見つめた。


「……カイ。私たちに何かできることはないか」

「家族のみんなを頼むよ」


俺は笑って、フェルマのお母さんの胸に手を当てた。

赤い魔法陣が俺の手を通り、胸へ移ってくる。


「……よし」


母親の胸から赤い光が消えた。


「お母様……?」


フェルマが母親の顔をのぞき込んだ。


「フェルマ?」

「よかった……!」


フェルマは母親を抱きしめた。

他の俺は続けて、リスティの両親とジルドレの家族からも禁術を引き受けた。全員の呼吸が落ち着いた。


「よし。これで全員助かったな」


俺が笑ったときだった。胸に痛みが走った。


「……あれ?」


口から血がこぼれた。


「カイ?」


フェルマが振り向いた。俺は自分の胸を見た。赤い魔法陣が、黒く変わっている。


「……おかしいな」


次のとき、隣にいた俺が倒れた。さらにもう1人、また1人と倒れていく。


「……おい?」


俺たち256人全員の胸に、黒い魔法陣が浮かんでいた。どうやら、増えた俺たちは魔力の根元までつながっているらしい。


「……これは、まずいかもな」


俺がそう言うと、フェルマが叫んだ。


「カイ!」


俺の身体が地面に倒れた。そのとき、森の奥から拍手が聞こえた。


「見事だ、カイ・アルベルト」


俺は顔を上げた。木々の間から、国王が姿を現した。後ろには、大勢の騎士と魔法使いが並んでいる。


「……国王?」

「やはり、貴様は人質を助けたか」


国王は俺たちを見下ろした。


「予想どおりだ」

「……予想どおり?」


国王が笑った。


「その禁術は、貴様を殺すために作らせたものだ」


フェルマが立ち上がった。


「お父様……。お母様まで利用したのですか……?」

「世界を救うためだ」

「もしかしたら、お母様が死んでいたかもしれないのですよ」

「必要な犠牲だ」

「必要な犠牲……?」


フェルマの声が震えた。国王は答えなかった。


「カイ・アルベルト。貴様の増殖は、魔王討伐時に飲んだ大量のポーションが原因だ」

「……まあ、そうだろうな」

「研究所で採取した貴様の血を調べた結果、増殖した身体はすべて同じ魔力でつながっていると判明した」


俺は自分の胸を見た。黒い魔法陣が、ゆっくり動いている。


「その禁術は、同じ魔力を持つ身体を1つにまとめるものだ」

「……1つに?」

「そうだ。256体を1体に戻し、増殖する力を封じる。その後、残った1体を処刑する」


つまり、俺が増えなくなるってことか。俺は思わず笑った。


「それ、すごいじゃん。助けてくれよ」


国王が眉をひそめた。


「……何? 助ける? 化け物を助けるわけないだろ」

「まあ、そう言うだろうと思ったけど」


俺は頭をかいた。


「でも、その禁呪は本当に効果があるのか? 失敗したら、世界中が俺でいっぱいになるぞ。ヘヘっ、どうするよ」

「要らぬ心配だ、化け物」


国王が右手を上げた。騎士たちが剣を抜く。


「化け物をすべて、処刑せよ」


フェルマが聖剣を構えた。


「……お父様。もう、あなたへの尊敬は完全になくなりましたわ」


リスティも立ち上がった。


「あたしの家族も、カイも、もう誰にも傷つけさせない……!」


ジルドレが盾を構える。


「……私たちの仲間に、手を出すな」


3人が俺の前に並んだ。国王の顔が険しくなった。


「反逆者どもめ。まとめて始末しろ」


騎士たちが走り出した。フェルマが聖剣を振る。ジルドレが盾で攻撃を受け止める。リスティは2人の傷を治しながら、俺たちを守っていた。


でも、敵の数が多すぎた。森の奥から、次々と騎士が現れる。魔法使いたちも、一斉に杖を向けた。


「全員、撃て」


巨大な火の玉が、3人に向かって飛んできた。


「……あ」


俺は地面に手をついた。立ち上がろうとしたが、身体が動かない。禁術が魔力を奪っている。


「……くそ」


このままだと、3人が危ない。俺は胸の魔法陣を見た。

黒い線が、俺たち256人をつないでいる。


……あれ? 待てよ。禁術は、256人の俺を1人に戻すんだよな。だったら、戻る前に魔力を集めることもできるんじゃないか?


「……おい、俺たち」


俺は近くに倒れている俺に声をかけた。


「……何だ?」

「最後に、ちょっと頑張ろうぜ」


ほかの俺たちも顔を上げた。全員でアイデアを共有できるってのは都合がいいな。俺たちは残った魔力を、1人の俺に集め始めた。黒い魔法陣が光った。


「……何だ?」


国王が俺たちを見た。倒れていた俺たちの身体が、次々と光に包まれる。1人、また1人と姿が消えていく。その光が、俺の身体へ集まってきた。


「……おお」


身体の中に、力が戻ってくる。256人分の魔力だ。


「……すげえな、これ」


俺は3人の前へ出た。火の玉が迫っている。俺は片手を上げた。


「消えろ」


火の玉が消えた。魔法使いたちが驚いている。


「……何だと?」


俺はもう1度、手を振った。騎士たちの剣が、全部砕けた。盾も、鎧も、杖も、次々と壊れていく。


「……え?」


国王が後ずさった。


「なぜだ……? 禁術が発動しているはずだぞ……!」

「うん。ちゃんと効いてるぞ。お前のおかげで、みんなを統合した最強の俺が誕生した。大抵のことは魔力量でどうとでもなる。禁術もな」


俺は笑った。国王が叫んだ。


「殺せ! 今すぐ殺せ!」


騎士たちは動かなかった。武器がないからな。俺は国王の前まで歩いた。


「なあ、国王。国を守りたいのは分かるけどさ」


俺はフェルマたちを振り返った。


「家族を人質に取るのは、よくないと思うぞ」


国王は何も言わなかった。俺は地面に手を当てた。魔法陣が広がり、国王と騎士たちの身体を光の縄で縛った。


「……よし」


これで、もう誰も傷つけられない。だがそのとき、身体から力が抜けた。


「……あれ?」


足が動かない。俺はその場に倒れた。


「カイ!」


フェルマが駆け寄ってきた。

リスティも俺の身体を抱き起こした。


「カイ、しっかりして……!」


俺は笑おうとした。でも、顔が動かなかった。声も出ない。魔力も感じない。


……ああ。使い切っちゃったか。


最後に見えたのは、泣きながら俺を抱きしめる3人の顔だった。






目を覚ますと、知らない天井が見えた。


「……ん?」


身体を起こそうとした。動かない。手も足も動かなかった。声を出そうとしたが、うまく出ない。


「あ……」


その声に、誰かが反応した。


「カイ……?」


フェルマだった。俺の顔を見た彼女は、目を大きく開いた。


「カイ……目が覚めたのですね……!」


フェルマが俺を抱きしめた。


「よかった……。本当によかった……!」


リスティも駆け寄ってきた。


「カイ……! カイ、あたしが分かる……?」


俺は頷こうとした。でも、首が動かなかった。


「あ……」


リスティの顔がくしゃくしゃになった。


「ごめんね……。あたし、治せなかった……」


ジルドレが俺のそばに座った。


「……カイ。お前は、3日間眠っていた」


3日? そんなに寝てたのか。


「禁術は消えた。家族も全員無事だ」


それはよかった。俺は笑おうとした。でも、顔も動かなかった。ジルドレは唇をかんだ。


「……ただ、お前の身体は動かない」

「……?」


フェルマが俺の手を握った。


「禁術は、あなたの魔力をすべて奪いましたの」


リスティが泣きながら続けた。


「身体も……、元に戻せなくなっちゃった……」


俺は自分の身体を見ようとした。首が動かないので、何も見えない。でも、何となく分かった。手足の感覚がない。魔力も感じない。


そういうことか。俺、また戦えなくなったんだな。





それから、しばらくたった。俺は車椅子に座っていた。フェルマが後ろから押してくれている。リスティは俺の隣を歩き、ジルドレは荷物を持っていた。


どうやら、俺たちの増殖は完全に止まったらしい。禁術が俺たち256人を1人に戻し、増える力まで封じてしまったそうだ。国王は、俺がもう増えないと知って討伐命令を取り消した。


でも、そのあと大変なことになった。フェルマのお母さんや、リスティたちの家族が、国王に何をされたのかを全部話したんだ。人質に死の禁術をかけたこと。俺たちを殺すために、家族まで利用したこと。国王は王位を失い、罪を償うことになった。


フェルマは王女として王宮に戻るよう頼まれたらしい。でも、断ったそうだ。


「私は、カイと一緒に暮らしますわ」


そう言ってくれた。リスティも、ジルドレも、同じだった。

俺はもう戦えない。でも、3人が毎日そばにいてくれる。だから、けっこう楽しく暮らしている。


「カイ、今日は何を食べたいですの?」


フェルマが尋ねた。


「あ……」


うまく答えられない。

すると、リスティが俺の顔をのぞき込んだ。


「カイ、あたしが作ったスープ、また飲んでくれる……?」


俺は目を1回閉じた。それが、今の俺にできる返事だった。


「うん。ありがとう、カイ……」


リスティは笑った。でも、目には涙が浮かんでいた。

ジルドレが俺の肩に手を置いた。


「……安心しろ。もう戦う必要はない」


フェルマも頷いた。


「ええ。これからは、私たちがあなたを守りますわ」


3人は、俺が少し動こうとするだけで心配する。


俺が咳をすれば、リスティが泣きそうになる。俺が眠れば、フェルマが何度も呼吸を確かめる。ジルドレは、夜になると俺の部屋の前で見張りをしている。

そこまでしなくても大丈夫なんだけどな。






ある日の朝。


「……ん?」


目を覚ますと、右手が動いた。試しに足を動かしてみる。


「……おお?」


俺はベッドから起き上がった。手足を見て、さらに驚いた。化け物みたいに変形していた身体が、元の人間の姿に戻っている。


「おお、治ったぞ」


俺が立ち上がったとき、扉が開いた。


「カイ、おはようございま……」


フェルマが固まった。


「……カイ?」

「おう。見てくれよ。人間に戻ったぞ」


フェルマが駆け寄ってきた。騒ぎを聞いたリスティとジルドレも部屋に入ってくる。


「カイ……その身体……!」

「……元に戻ったのか」

「おう。手足も動くし、魔力も戻ってるぞ」


3人は俺の身体を何度も確かめた。やがて、フェルマの目から涙がこぼれた。


「よかった……。本当に、よかったですわ……」


リスティも泣きながら俺に抱きついた。


「あたし……もう元に戻れないかと思ってた……」

「いやあ、何で治ったんだろうな?」


俺が首をかしげると、リスティが顔を上げた。


「……たぶん、あたしたちの魔力だよ」

「3人の?」

「うん。国王の禁術で増殖は止まったけど、カイの身体には異常な再生能力が残ってたんだと思う」


リスティはフェルマとジルドレを見た。


「フェルマの聖なる魔力が、その異常な力を消してくれたの。ジルドレの魔力が弱った身体を支えて、あたしの回復魔法が変形した身体を少しずつ治してたんだよ……」

「じゃあ、3人が俺を人間に戻してくれたのか」

「……うん」


俺は笑った。


「そっか。ありがとな、3人とも」


その言葉を聞いたフェルマが、俺を強く抱きしめた。


「カイ……今度こそ、あなたを救えたのですね……」

「もう二度と、あんな苦しい思いさせないからね……」


リスティも泣きながらしがみついてくる。ジルドレは俺の肩に手を置いた。


「……もう無理をするな。次は私たちを頼れ」

「分かったって。もう元気だし、心配しなくていいぞ」


すると、3人が同時に首を横に振った。


「いいえ。一生、あなたのおそばにおりますわ」

「あたしも、絶対に離れないから……」

「……私もだ」


どうやら、俺の身体は元の人間に戻ったらしい。でも3人の心配性は、まだ治っていないようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。