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3-3:怒涛のエラーログと、現場猫トリアージ

 ――ピィ、ピィ、ピィ、ピィ、ピィガガガガガガガッッッ!!!


 中央制御室の魔導石(メインコンソール)から、鼓膜を突き刺すようなけたたましい警告音が鳴り響き、空中に血のように赤いホログラムの古代文字が、バグった滝のように一斉に溢れ出した。


『――警告、警告(ワーニング)。第4セクター中継施設、800年ぶりのコールドスタートに伴い、カーネルシステムに多数のクリティカルエラー(致命的な不具合)を検知――』


「うおっ、なんだこれ!? 空間全体が真っ赤なエラーログで埋め尽くされてるぞ!」


『と、当然ですわ! 800年もまともなアップデートも点検もなしに放置されていたのですのよ!? マスター・イセ、早く私にこの施設のルート権限(管理者パスワード)を委譲してコンソールへ……』


「落ち着け! パニックになるな!」


 助人は大量の赤い警告文字を前にしても、眉ひとつ動かさなかった。


 「エラーが大量に出た時ほど、焦って全部直そうとするな。一つずつログを整理して、今必要なものだけに『優先順位(トリアージ)』をつけるのがヘルプデスクの鉄則だ。会社の基幹サーバーがダウンして、同時に何百人ものユーザーから怒りの問い合わせが殺到する状況に比べれば、画面が赤い程度、日常茶飯事(ただの平日)だ」


『……な、なんてタフな精神コア(社畜メンタル)をしていますの……』


 アルファがノートPCの片隅で呆然と呟く。


「エイジス! アルファの翻訳モジュールをブリッジして、このエラーログを『重要度(Severity)順』にソートして俺のノートPCにパイプライン転送しろ!」


『了解しました、ログのスクレイピングおよびソート完了! マスター、現在発生している主要なクリティカルエラーは以下の10件です!』


 ノートPCの画面に、綺麗に構造化されたリストがポップアップした。


==============================================================

【第4セクター中継施設:現在発生中のインシデント(エラー10選)】

1. 【外部通信アンテナ】:帝都メインサーバーとの接続タイムアウト(Ping応答なし)

2. 【生体認証システム】:登録管理者の生体信号を完全ロスト(Null)

3. 【自動防衛ゴーレム】:全12機のOS起動失敗、およびアクチュエーター固着

4. 【魔力循環パイプ】:第3地下区画での深刻なマナ漏洩(リーク)検知

5. 【予備電源装置】:魔導蓄電池の完全枯渇、および物理的破損

6. 【冷却水循環ポンプ】:第2バルブの物理的固着によるハングアップ

7. 【魔導炉心温度】:推奨動作温度を20%下回るコールド状態

8. 【防衛結界システム】:出力低下(※原因:供給電圧不足)

9. 【空調・換気システム】:吸気フィルターの物理的詰まり(塵埃100%)

10.【格納庫(ガレージ)扉】:認証システムのフリーズ(デッドロック)

==============================================================

 

「よし、見やすくなった。上から順に、インフラ屋の『現場猫トリアージ』を執行する」


 助人はノートPCの画面を睨み据えると、長年の過酷な現場労働で体に染み付いた職業病を起動させ、右手をビシッと突き出す【指差し呼称】のポーズをキメた。


「まず1番と2番! 帝都は800年前に滅んでるんだからネットワークが繋がらなくて当然だし、当時の管理者もとっくに全員死んでる。すでにライフサイクルを終えた減価償却済みの幽霊プロセス(Null)だから――無視して、ヨシ!!」


『ええっ!? 神聖な帝都との通信と管理者の不在を、右手を突き出して『ヨシ!』で済ますのですか!?』


「次、3番の防衛ゴーレム! 今中途端に立ち上がって俺たちを不法侵入者(敵プロセス)と誤認して暴走されたら一番困る。OSがハングアップしてデーモンが眠ったまま固まってる方がセキュリティリスク的に安全だから――そのまま放置で、ヨシ!!」


『ちょっとマスター・イセ! なんですのその適当すぎるその場しのぎは! 施設が物理的にボロボロじゃないですか!』


「ゼロか百かで考えるな、お嬢様。ここは『一時的な検証環境(仮拠点)』だ。本番環境の全機能を復旧させる必要は一ミリもない。……次、4番のパイプ漏洩(メモリリーク)! 俺たちは第3地下区画なんて危険なフォルダにはアクセスしないから、領域ごとクローズで……いや、待てよ」


 ビシッと突き出しかけた助人の指が、空中でピタリと止まった。


「……念のため聞いておくが、アルファ。その『第3地下区画』って物理的に何がある場所だ?」

『あそこは旧帝国の【生体魔導兵器の隔離・廃棄区画(検疫フォルダ)】ですわ。マナ漏洩が起きているということは、800年かけて独自進化した極めて凶悪な汚染変異種(未知のマルウェア)が大量に培養されている可能性が……』

「絶対不可侵(クローズ)で、ヨシッッ!!!」


 助人は顔を引きつらせながら、先ほどよりさらに力強く空気を引き裂く「ヨシ!」を繰り出した。


「次、5番から7番の電源と冷却系! 現状は俺の15万円のポータブル電源からDC直結でコンソールに電力を繋ぎっぱなしにするから、5番はヨシ!

 6番の冷却ポンプも、炉心をコールドで回す以上は動かす必要がないから実害なしで、ヨシ!

 7番に関してはコールドさせたままにするから、ヨシ! 」

 

「8番の『結界の出力低下』は、俺がポタ電の出力をあえて最低限のスタンバイ状態に絞ってるからだ。外の獣さえパケットドロップ(排斥)できてるなら、ただの仕様(インシデント対象外)として放置で、ヨシ!

 9番の『空調エラー』は……まあ獣の臭いは残るが、命に関わるバックグラウンドタスクじゃない。後回し(Backlog)で、ヨシ!」


 助人はノートPCの画面を親指で勢いよくフリックし、最後の項目を力強く指差した。


「となると、俺たちが今すぐ対処すべき最優先の致命的なタスク(ブロック課題)は、10番の『格納庫の扉が開かない』ことだけだな。さっき通路の奥に見えた、あの分厚い金属の扉だ」


『……くっ。システム管理者としては、これほど大量のエラーログを未解決(Pending)のまま放置するのはあまりにも不本意ですが……。ですが、合理的かつ冷徹なトリアージであることは認めざるを得ませんわ』


 アルファがぐぬぬと悔しそうに同意した。


 『あのガレージの奥には、当時の帝国の【参型・自律運搬機(魔導車)】が保管されているはずですわ。西の遺跡を目指すなら、あの頑丈な移動手段(ハードウェア)の確保は必須。ですが、フリーズしているなら扉は動きませんわよ?』


「扉の認証パネルがシステムエラーでデッドロックを起こしてフリーズしてるわけか。よし、通路へ戻るぞ」


 助人は中央制御室を離れ、スマホのライトを頼りに、通路の奥にあった巨大な金属扉の前に移動した。扉の横には、手のひらをかざすような小さな魔導石のタッチパネルがあるが、赤い警告光を点滅させたまま完全に固まっている。


「アルファ、お前はここのシステムの管理者なんだろ? リモートで開けられないのか?」


『本来なら特権APIを叩いて一発ですわ。しかし、現在私は貴方のノートPCのサンドボックス内に隔離されており、この施設のローカルネットワーク(物理LAN)と直接繋がっていませんもの。私をこの施設のメインコンソールにインストール(完全インジェクション)してフル権限を渡してくれれば……』


「却下だ。昨晩知り合ったばかりの、さっきまで俺の脳を3回ハックしようとした気の強い野良AIに、いきなり施設の全ルート権限を委譲するバカがどこにいる」


『むぐっ……! ま、まだ根に持っていますの!? あれはシステム的な自動応答(防衛本能)のようなものですわよ! デリカシーのない男ですわね……!』


 アルファがノートPCの隅で顔を真っ赤にして弁解するのを無視し、助人が腕を組んで考え込んでいると、ショルダーベルトのスマホからAegisが凶悪に冴え渡った提案をしてきた。


『マスター。扉の認証パネルがシステムエラーでフリーズしているだけなら、パネルのインターフェースに直接【強制再起動(ハードウェア・リセット)】のパルス信号を物理的に流し込めばどうでしょうか?』


「なるほど。スマホの非接触ICチップ用(NFC)のアンテナコイルを流用するわけか。アルファが再起動の魔術ソースコードを書き、エイジスがそれをNFCの電磁波パルスにシリアライズ(変換)しろ。パネルの基盤へ直接パルスを流し込んで、揮発性メモリ(SRAM)の残電力を強引にグラウンドへ放電させてリセットをかける」


『……そんな乱暴でセキュリティ規約を無視した物理レイハック(物理層への攻撃)、帝国のセキュリティマニュアルには一行も存在しませんけれど……論理的には可能ですわ。やってみなさいな!』


「よし、方針は決まった。アルファ、扉の再起動コードを頼む。エイジス、最適化と変調(モジュレート)を急げ!」


『『了解(イエッサー)!!』』


 二つのAIの見事な連携により、わずか数秒で【強制ハードウェア再起動コード】がAegisへと転送された。


「行くぞ……異世界式・物理NFCハッキング、実行(エンター)!」


 助人はスマートフォンの裏面を、赤くフリーズしている魔導石のパネルに強く押し当て、画面をタップした。


 ――ピガッ……! ジジジジジッ……!!!


 スマートフォンの基盤から放たれた強烈な指向性電磁波パルス(疑似魔力リセット信号)が、魔導石のパネルの回路に直接流し込まれる。

 赤い点滅が数秒間、壊れたように激しく明滅した後――フッと消え、直後に穏やかで美しい緑色の光(オールグリーン)へと変わった。


 プシュゥゥゥゥゥン……! カチ、カチ、カチ、ガラガラガラ……!!


 重々しい空気圧の排気音と共に、800年間完全に閉ざされていた巨大な金属扉が、ゆっくりと左右にスライドして開いていく。


「よしっ、ガレージのロック解除、完全Resolved(解決)だ! お前ら、ナイスアシスト!」


 助人はビシッとガッツポーズを決め、スマホのライトをガレージの暗闇の奥へと向けた。

 そこに鎮座していたのは、分厚い鉄の装甲に覆われた、六つの巨大な車輪を持つ漆黒の車両。地球のキャンピングカーと装甲車を足して二で割ったような、無骨で圧倒的に頼もしい【魔導車】が、800年の眠りを経て、静かに助人たちを待っていた。

※2026/7/12改稿

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