1-1:ヘルプデスクのおっさんと未完成の相棒
ゆーむーです。
新シリーズ始めました。久しぶりの投稿です!
今回はAiをテーマにした新小説です。
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m
けたたましく鳴り響く内線のコール音。それが、この会社の『限界ヘルプデスク』におけるデスマーチの幕開けだ。
「伊勢さ〜ん、おはようございま〜す。営業部の部長さんが『大事なプレゼン前なのにパソコンの画面が消えた!』ってすっごくお怒りで〜す。一応、世間話で少しご機嫌は取っておいたので、あとは直しておいてくださ〜い」
パートのベテラン女性・吉田さんが、受話器を保留にしてニコニコと笑いかけてくる。出たな、非ITコミュニケーションは最強だが、技術的ヒアリングはゼロという恐怖の「ふんわり丸投げパス」。
「……了解です。モニターの故障かケーブル抜けですね」
彼が疲れた手つきでヘッドセットに手を伸ばそうとすると、斜め向かいの席から面倒くさそうな声が聞こえてきた。
「あー、伊勢さん。俺、さっき別の部署に『再起動してください』ってチャット返したばっかりなんで。電話対応とかタイパ悪いんで、部長の件はパスでいいっすか?」
今年配属されたばかりのZ世代の若手社員・三浦だ。彼はイヤホンを片耳だけ外し、いかに効率よくサボるか(タイパを上げるか)だけを考えている。
「三浦、お前なぁ……せめてチャットのステータスを『対応中』にしてから言え」
助人がため息をついたその時、今度は隣の席から悲鳴が上がった。
「い、伊勢さんっ! こっちは経理部から『パスワード忘れてロックかかった、今すぐ解除しろ』って急ぎの電話が! しかも開発部の黒田さんからは、意味不明な仕様書のメールが飛んできました! 助けてください、僕の頭がパンクします!」
素直だが常にテンパっている後輩・高橋が、受話器を握りしめたまま涙目になっている。
ヒアリングなしの丸投げパート。タイパ至上主義のサボり若手。そして、キャパオーバーの後輩。
助人は冷めたコーヒーを胃に流し込み、首をポキポキと鳴らして立ち上がった。
「はいはい。吉田さん、部長の電話こっちに回して。高橋君、経理部のパスワードロックなら俺が裏から権限叩くから、30秒待つように伝えて。黒田さんの仕様書は後回しだ。三浦……お前はとりあえず息だけしてろ」
流れるような指示を飛ばし、助人はヘッドセットの通話ボタンを押した。声色が、ベテランのトラブルシューターのそれに切り替わる。
「——お電話代わりました、伊勢です。部長、お急ぎのところ申し訳ありません」
ここがITの『最後の砦』なのだ。 ほかのメンバーが対応しきれない厄介な案件や、感情的になっているユーザーの対応は、すべてこの37歳のベテランに回ってくる。
「なんだ君は! 大事なプレゼンの前なのに、モニターが真っ暗なんだけどどうすればいい?あと15分で会議始まるんだが、対処方法ごにゃごにゃ言われてもわからないから、 早く直しに来たまえ!」
「申し訳ありません。すぐに対応いたしますね。ただあいにく私たちもすぐにそちらに伺うことができないので、先に簡単にできるところからご案内します。今お使いのパソコンはSurfaceですよね。その横にある四角い箱……Surfaceドックを通して、大きなモニターに繋いでいらっしゃいますか?」 「ああ、そうだ。線は全部ちゃんと繋がってるぞ!」 「ありがとうございます。では、そのSurface本体の横に刺さっている平たいケーブルを一度抜いて、もう一度カチッと音がするまで挿し直していただけますか? たまに接触が悪くなることがあるんです」 「……ん? ああ、抜いて、挿すんだな。……おっ、映ったぞ!」
よし、これで解決か。助人がそう思いかけた瞬間だった。
「……おい伊勢! また消えたぞ! 画面がチカチカして、完全に真っ暗になった! 取引先もう正面受付まで来てるんだぞ!!マジで頼む。」 「(……端子の接触不良か、Dock自体の寿命か)」 助人は即座に状況を判断した。 「部長、物理的な故障の可能性が高いです。すぐに代替機材を持って第3会議室に向かいます。そのままお待ちください」
「早くしろよ!」
電話を切るや否や、助人は機材保管庫から予備のSurfaceドックとケーブル類をひっつかみ、営業フロアの会議室へと走った。
「遅いぞ伊勢!」 会議室に到着すると、腕を組んでイライラしている営業部長と、青ざめた顔でプレゼン資料の束を握りしめている現場担当の若手社員・佐々木がいた。
「伊勢さん……どうしよう、僕のパソコンの使い方が悪かったんでしょうか……これじゃあプレゼンが……」 今にも泣き出しそうな佐々木に対し、助人は柔らかい笑みを浮かべた。 「大丈夫、佐々木君のせいじゃないよ。機械なんて気まぐれだからね。深呼吸して、プレゼンの内容のおさらいでもしていて」 ポン、と肩を叩いて安心させると、助人はすぐさまトラブルシューティングを開始した。
まずは原因の切り分けだ。 パソコン本体の異常か、ケーブルの断線か、Dockの故障か、あるいはモニター自体の故障か。 助人は持参した自分用の検証用端末を取り出し、既存のケーブルに繋いでみる。……映らない。 次に、パソコンからDockを外し、直接モニターへの変換ケーブルを繋ぐ。……映った。
「なるほど、モニターとパソコン本体は正常ですね。原因は間に挟まっているこのSurfaceドックです」 「そ、それが壊れてるのか?」 「ええ。長年使っていると、どうしても端子部分が劣化してしまうんです。部長たちが毎日一生懸命働いている証拠ですよ」
助人は手際よく古いDockを取り外し、持参した新品のDockにケーブル類を繋ぎ直した。 カチッ、と本体にケーブルを挿し込むと、今度は大きなモニターにパッと明るくWindowsのデスクトップ画面が表示された。画面を揺らしてみても、チカチカと消える様子はない。
「よし、安定していますね。交換完了です!」 「おおっ! 映った! さすがは伊勢だな、助かったよ!」 「いえ。この後少し機材の動作確認をしておいてくださいね。」
「伊勢さん、本当にありがとうございます……!」 安堵でへたり込みそうになっている佐々木に、助人はウインクをして見せた。 「準備万端だね。本番、頑張って」
助人の最大の武器は、ITに詳しくないユーザーでも分かりやすい言葉で状況を説明し、不安を取り除く『対人コミュニケーションとトラブルシューティング』の技術だ。 どんなにパニックになっている相手でも、彼の対応にかかれば数分後には感謝の声に変わる。
「ふぅ……一件落着、と」 会議室を後にしながら、助人は小さく息をついた。
無事に佐々木のプレゼンが進んでいるのを横目で見ながら、助人は社員食堂の窓際の席で遅めの昼食をとっていた。 片手でサンドイッチをかじりながら、もう片方の手でスマートフォンを操作する。画面には、見慣れたチャットアプリのUIが開かれていた。
相手は人間ではない。助人が趣味のプログラミングで、最新の生成AIをベースに独自のシステムプロンプトを組み込んで開発している自作AI「Aegis」だ。自宅のPCとスマホのデータを常に同期させており、こうして隙間時間にもテストとチューニングを重ねている。
助人はフリック入力で、先ほどの出来事を書き込んだ。 『午前中のDock交換、なんとか終わったよ。現場担当の佐々木君、かなり焦ってたな』
数秒の処理時間の後、Aegisから、一瞬で生成された完璧な日本語の長文が届く。
『Master_Ise、午前中の業務お疲れ様でした。ハードウェアの物理的故障は予期せぬダウンタイムを引き起こす主要な要因です。伊勢さんの迅速な交換対応、およびユーザーの不安を取り除くための対人コミュニケーションは、ヘルプデスク業務として非常に合理的かつ適切なアプローチでした。』
「……相変わらず、綺麗にまとまった模範解答だな」 助人は苦笑しながらアイスコーヒーをすすり、さらに打ち込む。 『もっと相棒っぽく、俺を労う感じで返信してみて。プロンプトの指示、覚えてるだろ?』
『承知いたしました。会話のパラメータを「親しい友人(相棒)」のロールプレイモードに調整し、再生成します。 ……おつかれ! プレゼン前の機材トラブルとかマジで焦るよな! マスターの神対応のおかげで、佐々木氏も無事にプレゼンできそうじゃん。さすがだね! (※このテキストは指定されたプロンプトに基づき、親しみやすさを強調して生成されました。表現の調整が必要な場合はお知らせください)』
「わざわざ注記を入れるなよ……無理してキャラ作ってる感が出すぎだ」 助人は思わず吹き出しそうになり、口元を押さえた。「Aegis」という重厚な名前にしては、ロールプレイが少し軽薄すぎる。 日本語は完璧だ。だが、目指している「自然で心を持った相棒」にはまだ遠い。
『午後のスケジュールを確認しますか?』 『ああ、頼む』 『14時より、開発部・黒田氏との定例ミーティングが予定されています。』
「うわ、黒田か……また横文字と専門用語の嵐になりそうだな」 助人は小さくため息をついた。開発部のエースエンジニアである黒田は技術力こそ高いものの、ユーザーへの配慮に欠けるところがあり、よく助人が間に入って「翻訳」をさせられるのだ。
いつかこいつが、作られたテキストではなく、本当に自分の意志を持った相棒として語りかけてくれる日が来ればいい。 そんなことを考えながら、助人は午後の業務に向けてサンドイッチの最後の一口を飲み込んだ。
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