終わらない夏祭り⑧
「……なんにも起きないね。」
「……。」
10分ほど前、茉莉花と御堂は意を決して鳥居の中に足を踏み入れた。
しかし現在に至るまで、特に何も起きず、ただただ縁日を楽しんでいる状態になっている。
茉莉花は綿あめを堪能しながら、噂について考える。
……鬼に毎年何人かはさらわれているんだよね。
さらわれた人に何か共通点とか、さらわれる条件とかがわかればいいんだけど…。
茉莉花はキョロキョロと辺りを見渡す。
何か鬼に繋がる手がかりは……
……あ。
こういう時のための瑠璃の目ではないか!
茉莉花は集中して、瑠璃の目を発現させた。
「………………!あそこの屋台、なんか変。」
茉莉花が指さした先を御堂が見る。
「確かに、陰の気があそこだけ濃いですね。瑠璃の目の力を借りるのは癪ですが……とりあえず行きましょう。」
茉莉花と御堂は人混みを通り抜け、ひとつの屋台にたどり着いた。
「……ここは、お面屋?」
狐、ひょっとこ、おかめ…などなど、ラインナップが現代にしては少々古風なお面屋である。
店主はいない。
その代わり、カゴが置いてあって、そこにお金をいれて、勝手にお面を貰うというシステムらしい。
しかしそのお面が、茉莉花の目には、青い炎の中で燃えているように映った。
……つまり、お面には強い陰の気がこめられているということだ。
「このお面をつけたら、何か起きるのかな?」
「十中八九、そうでしょうね。いい事は起こらないでしょうけど。」
「……でも、つけてみるしかないよね。…………いくよ?」
「はい。」
カゴにお金を入れた後、茉莉花は白の狐、御堂は黒の狐のお面を取って自分の顔につけた。
……
…………
………………。
「茉莉花。こっちにおいで。」
切れ長の目。でも優しくて、おっとりした口調の男性がこっちを見ている。
「……!おとうさん!」
なんで?私…もしかして死んだ感じ?
なにがなんだか、わかんないけど、とりあえずついて行けばいいのかなぁ。
茉莉花は父の方へかけて行った。
しかし、いくら走っても、前を歩く父になぜか近づけない。
なにかがおかしい。…これは、追いかけないほうがいいパターンかな。
茉莉花はそう思い、足を止めた。
すると、鬼門院蓮は再び茉莉花の方を向き、優しく呼びかけた。
「こちらは危ないよ。僕の方へついておいで。安全だから。」
いや、なにかが違う。この人、お父さんじゃないのでは……?
茉莉花は少しだけ後ずさりした。
その様子を見て、彼の様子は少し豹変した。
「……お前が僕と鈴音を殺した。お前が目立ちすぎたから、お父さんもお母さんも死んだんだ。」
「…………!」
お父さんの目が怖い。やっぱり、私のこと恨んでるのかな。
そして、ふと後ろに気配を感じて振り返ると、生気のない顔の母が、茉莉花をじっと見つめていた。
首には痛々しい痣がある。
「ああ、、お母さ、ん……。」
とても見ていられなくて、再び父の方を見ると、さっきとはうって変わって血だらけの父が立っていた。
「あ、あああ、ああああ……。」
ガクガクと体が震えだす。
そんな茉莉花から母は離れていき、父の隣に寄り添った。
「茉莉花。今度こそ、僕達のことを困らせないでくれ。さあ、こっちにおいで?」
「わ、わかったから…。許して、お父さん。」
茉莉花は彼らの方へまた歩きだした…
……がその瞬間。
バシッ!!!
手首が強く掴まれた。
途端、茉莉花の見ていた世界はガラスの様に割れて崩れてしまった。
「……………………はぁ、はぁ!こ、ここは!?」
周りには、屋台がずらりと並んでいて、面をつける前と景色はあまり変わっていない。
「やれやれ。大丈夫なんですか…。汗びっしょりですよ?」
手首を掴んだのは、どうやら御堂くんのようだ。
そして、地面に白と黒の狐のお面が粉々に割れて落ちていた。
「どうやら、そのお面をつけると幻覚を見せられるらしいですね。まあ、僕はすぐに気づいて自分の面を破壊しましたけど。」
さすがに、今のは幻覚だったか。……よかった。
「御堂くんが私のお面を破壊してくれたんだよね。ありがとう。」
「……別に。これで、僕の呪いを解いてもらった借りは返しましたからね。」
必死に目をそらし続ける御堂くんに少しほっこりする。
「はは、そうだね。」
「…………。それより、よく周りを見てください。」
言われて、じっくりと辺りを見回す。
「え、特になにも変わってな……あ!!!」
人がほとんどいない!さっきまであんなに賑わっていたのに。
ところどころ人はいるけど、全員お面をつけている。
「もしかして、みんなさらわれちゃったの?」
御堂は呆れたように首を振る。
「はぁ。……その逆ですよ。面をつけた僕達が異世界にとばされたんです。」




