呪いの村⑨
「……と、いうことを蓮が死ぬ前に話したんだよ。」
「…………。」
大山先生は真面目な顔で茉莉花を見る。
「俺はな、二階堂と契約している鬼について知りたい。鬼は何を企んでいる?二階堂は鬼に対してどう考えているんだ?」
茉莉花は目を伏せ、しばらく黙った。
当時、4歳であったが、鮮明に思い出せる2ヶ月間。
どこまでも続く草原の中に気がついたら立っていて、そこで中性的な見た目の鬼に出会った。
その鬼に眠らされ、起きた頃には手の甲にあった風車のような形の印が消えていた。
「…………あの鬼は、確かに私の陰除の印を消しました。陰除の印の重要さについて知ったのは今さっきですけど。そして、契約をすれば家に帰してやる、と言われて、それに従い、契約をしました。」
「そうか。……その鬼の名は?」
「さあ。私が4歳の頃の話なんで、名前までは……。だから、召喚はできないですよ。」
大山先生は腕を組み、ため息をついた。
「はぁー。それで潤たちは騙されるんだろうけど、俺は無理だよ?契約したら、例え契約者が記憶喪失になったとしても、その人が母国語や自転車の乗り方を覚えているように、妖怪の名も覚えているもんなんだよ。先生は妖魔師よりも妖魔師を熟知してるんだから。」
げ、なかなか鋭いな。……というか、普通にその情報知らなかったんだけど。
「…………天音輪道鬼です。」
大山先生は首を傾げる。
「ほう、聞いたことないな。……で、なんで嘘をついたのかな?」
「……。」
茉莉花は唇を噛んだ。
「……言えないことかい?」
「……いえ、先生には言うことにします。
……契約では妖怪の提示した条件を妖魔師は守らなくてはいけない、というのは先生も知ってますよね。」
「ああ。」
「私はハクっていう妖怪とも契約しているんですが、その妖怪と契約する条件は、毎月3枚の油揚げを与えることなんです。それに対して、天音輪道鬼と契約する条件は…………召喚した後に私が死ぬ、というものです。」
「……!?」
大山先生は目を見開いた。
「私がこの契約について、誰にも言いたくなかったのは、この契約を誰からも利用されたくないからです。
……正直、アイツを召喚したら、どんな問題、緊急事態も解決すると思います。おそらく、八岐大蛇の問題だって…。
ですが…私は死にたくないです。例えば、赤の他人1000人を守るために召喚してくれ、なんて頼まれても、私は善人ではないのでそんなことしたくないですし。後で、この人が召喚してくれていたら、多くの命が救われたのに、なんて思われるのもゴメンですから。」
「……なるほどね。」
「ですので、先生はこの契約について、他の人には言わないでくださいね。」
「……わかった。口は固いから大丈夫だよ。」
茉莉花は少し安堵の表情をする。そして、チラッと先生の顔色をうかがった。
「……私のこと酷い奴だと思いました?」
先生は立ち上がり、茉莉花の頭をポン、と叩いた。
「いーや?正直で清々しいよ。誰かの為に、二階堂が犠牲になる必要なんてないんだから。
……じゃあ俺は部屋に戻るぞ。話したいことは話せたから。」
「あ、はい……。」
「あ!そうだ。俺、蓮から二階堂への伝言預かったんだった!」
「……?」
大山先生は優しい表情をした。
「『もし、新聞に載ったことを後悔しているのなら、そんなこと思わないでほしい。悪いのは、鬼門院から逃げ、何も解決しようとしなかったお父さんだから。茉莉花はお父さん、お母さんの誇りだよ。』だってさ。」
「……。」
茉莉花の顔が少しほころぶのを見て、先生はニッコリ笑った。
「じゃ、おやすみ〜。」
そう言うと、茉莉花の部屋から出ていった。
『君は何も悪くないし。』
お兄さんの怪我を自分のせいだと思い込んでいた潤に私が言った言葉。
今はその逆の状況だ。
「……こういうのって、人から言われないとわかんないもんなんだなぁ。」
茉莉花は口角を上げながら、ボソリと呟いた。




