苦悩と焦燥⑤
「……美味い。」
陽道君が私の家で味噌汁をすすってる。
変な光景だなぁ。
「それならよかった。」
週四で作るから味噌汁は得意料理なのだよ。
他にも食卓には白ごはん、冷蔵庫の余り物で作った野菜炒め、漬物が並んでいる。
人様に食べてもらうんだったら、もうちょっと肉とか魚とか買っておけばよかった。
「でも、、、ご飯作ってもらうなんて、悪いな。今度お礼はする。」
「いいよ、そんなの。1人分も2人分も作るの変わんないから。自炊めんどくさいんだったら、また食べに来ていいし。」
そう言うと、陽道君は少し躊躇うように私に質問した。
「……そういえば、一人暮らし、なのか?」
たぶん、この質問の真意は、家族はいないのか?ということだと思う。
「そうだよ。お母さんとお父さんは私が中二の時、事故で死んだの。私を引き取ってくれたおじさんも、今は海外出張でしばらく帰って来ないし。」
ちなみに、鬼門院という名字はお父さんの方で、おじさんはお母さんの弟だから、妖怪となんて一切関わりがない。
そして、お母さんとお父さんが事故にあう前から、ずっとマレーシアで働いてきたので、今更、なかなか日本には戻れないということだ。
「そうか……。大変だな。」
「一人暮らしは君たちもでしょ。生活能力がなくて今大変なのは、陽道君の方だし。」
「……否定はしない。」
陽道君の他にも、みやび、月城の実家は他県にあって、今はそれぞれ一人暮らしをしているんだって。
一昨日くらいにみやびが言っていた。
この後、1週間でどれほど授業が進んだかとか、割と真面目な話をしてたら食事が終わり、陽道君を玄関でお見送りすることとなった。
「陽道君、明日は学校来なさいよ?」
「ああ。………………。」
何かを言いたげな様子だ。
「どうしたの?」
「潤、でいいよ。その呼び方長いし。」
「ああ、そう。じゃあ、私も名字長いし、茉莉花でいいよ。」
「わかった。……じゃあ、また。」
「うん、ばいばーい。」
彼がドアを開けたとき、ふと、こちらを振り返る。
「ご飯、また、食べに来ていいのか?」
「さっき言ったじゃん、全然いーよ。」
「そう、か……。」
その時、彼が初めて微笑む所を見た。
イケメンの微笑みの破壊力、やばい。
彼は再びじゃあ、と言って出ていった。
可愛らしいとこもあるのね。彼。
翌日。
朝学校に来ると、陽道く、、潤が復活していた。しばらく学校に来なくて、しょんぼりしてた女子達にも活気が戻る。
自分の席まで行くと、彼と目が合う。まあ、席前後だからね。
「潤、おはよ。」
「おはよう、茉莉花。」
私はゆっくり席について、カバンの中の教科書を引き出しに入れる。
すると、左隣の席から激しいツッコミがとんできた。
「…………おいいいい!!!!何普通に下の名前で呼びあってんねん!なんか、自然すぎてスルーしかけたわ!!!」
「え、ええー?ま、まあ、いろいろとね、、、」
本人の名誉の為に、昨日あったことは絶対言えないし。とりあえず言葉を濁す。
どうしようか。みやび、絶対追求してきそうだしな。…………あ。
「トイレ行ってくる。」
「え、ちょっと、待、、、、!」
そそくさと教室から逃げることに成功した。
潤には申し訳ないことをしたと思うが。
教室。
「……で?どういうことやねん、潤。」
「……別に。」
潤はだんまりを決め込んでおり、何も話そうとしない。その様子を見て、みやびも諦める。
「まあ、ええわ。それは置いといて、、、
潤くぅん〜。女の子を名前で呼ぶなんて前代未聞やなぁ〜。どういう風の吹き回しなんや〜?」
「確かにそれは気になるな。そこんところどうなんだ?」
誠也も話に入ってくる。
「……別に恋愛とかの対象じゃない。」
潤はそう言って教科書を読み始める。そんな彼の耳はほんのりと赤くなっていた。
「へーーーえ。そうなんだぁーーー。」
みやびと誠也は潤を見てニヤニヤと笑った。




