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100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる  作者: ざっぽん
第1章 100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる
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36話 魔術師は四英雄を語る


 四英雄。

 魔術師ギルド黎明期の英雄で、千の魔術のコーレシュと共に、強欲なるバラムや魔王モウゼルなど、魔術師ギルドと敵対した反逆の魔術師達を倒した四人の大魔術師アークマギ達。

 勇者ピーノを筆頭に、竜吠師りゅうこうしアクラ、火巫ひふライラー、無貌のフーの4人。


 ピーノはモウゼとの戦いで命を落とし、アクラとフーは深淵に向かったまま二度と戻らず、ライラーはモウゼとの戦いのあと魔術師を引退し、以後表舞台からは姿を消した。


 そう図書館の歴史書には書かれてあった。


☆☆


「まったく、恥知らずめが」


 二人は訓練所に向かいながら、暇つぶしに雑談をしていた。

 今はサクス校の職員室にあった四英雄のレリーフについての感想から、実際の四英雄の話へと移っていた。


「あの当時、コーレシュは凡庸な魔術師に過ぎなかった。それなのにまるで自分が戦ったかのように記録を残すとは」

「四英雄ってどんな人達だったの?」

「卓越した魔術師達であり当代最強とされていた冒険者パーティーだった」

「魔術師にして冒険者? それって今の私達みたいに?」

「そうだな、近いかもしれない」


 ネクロノミコンは感慨深げに言った。

 現代の常識では、魔術師と冒険者は完全に区別されている。

 魔術師ギルドの英雄である四英雄が、冒険者であったという事実は魔術師ギルドにとって不都合だ。

 歴史書に残っていないのも、コーレシュが主役となって戦ったとしなければ魔術師ギルドにとって都合が悪い。

 そういう政治的意図があるかもしれないと、ネクロノミコンは語った。


「四英雄は、ウガル強欲王……深淵の周囲を占領して深淵から生み出される財宝を我が物にせんとした王だ。ウガル王は周辺諸国や魔術師ギルドと戦争になったのだが、そこで名を挙げたのが、“蒼白なる馬”というチーム名で活動していた、後の四英雄というわけだ」

「へぇ! ダンジョン探索で有名になったんだと思ってた」

「現代だと、魔術師にしろ冒険者にしろダンジョンでの成果が評価のようだな。それ以外での活躍は二の次か」

「うん、冒険者ギルドも、依頼を受ける仕事はダンジョン探索の予定がない冒険者達が生活費を稼ぐためって。優先順位はダンジョンが上っていう認識みたい」

「四英雄も、戦後はダンジョン探索で活躍している。俺もやつらのパーティーを組んで深淵を探索したことがある」

「え? そうなの?」

「99階まで到達したところで意見が分かれて解散したがな」

「そんな深層まで! やっぱりすごい人達だったんだね」

「当代最強の冒険者パーティーと言っても過言ではないな。あの頃はまだ、戦争が強大な個人同士の一騎打ちに左右される最後の時代だった」

「へぇ、それがたった100年ちょっとくらい前だなんて、事情を知っていても信じられないよ」

「リーダーである勇者ピーノは、その二つ名の通り、正義感が強く、多くの人にその精神性を含めて英雄視されていた。最後の悪竜と言われていた大砂龍アジ・ダハーカを倒し、竜の時代を終わらせた者とも言われていた」


 竜の伝説は、もう現代にはほとんど残っていない。

 アジ・ダハーカの名も、ミュールには聞き覚えがなかった。


「その後については、俺が死んだ後だから詳しくは知らんがな」

「そんなすごい人達だったのに、現代ではちゃんと功績が伝わっていないって、なんか悲しいね」

「歴史に残る名などそんなものだ」


 ネクロノミコンがバラムだったころに行った功績は、現代では残っていないかコーレシュのものになっている。

 だが、ネクロノミコンはいきどおることもない。


「我々が死後に目指すべきは歴史に名を残すことではなく、何かを成し、歴史の一部になることだ。そこに名が残らずとも、我々が見出したものは残る。もっとも、生きているうちは何一つとして他人にくれてやるつもりはないがな」


 そうネクロノミコンは言葉を締めくくった。


☆☆


 訓練所のない貧乏学校以外の生徒は、魔術師ギルドの訓練所を利用することはない。

 設備はいいのだが、多くの現役魔術師が利用するし、なにより利用料金がかかる。

 ミュールも、ここを訪れるのは初めてだった。


 まぁ実技の授業が少ない1年生が訓練所を利用すること自体が少ないのだが。


「やっぱり大きいね」


 魔術師ギルドが管理しているだけあって、訓練所は王宮の庭園のような広大なものだった。

 ダンジョンの部屋や通路を模した施設や、存分に魔法を発動できるような頑丈な壁で覆われた広場、また図書館の端末もいくつも置かれており、必要な情報があればすぐに調べることができる。

 訓練所のメンテナンスを行う職員だけでなく、医師や引退した魔術師も常駐しており、安心して魔法の訓練に励むことができるというわけだ。


 訓練所に近づくと、魔法鋼製の門の側には、魔術師ギルドの職員が受付を行っていた。

 ミュールは身分証であるサクス校の学生証を取り出した。


「すみません、サクス校1年のミュールですが、ここにサクス校教師のハオン先生は来られましたか?」

「ミュールさんね……ああ、伝言を預かっているよ。ハオンさんから、G棟の3番で待っているそうだ。利用料金も貰っているから、入って」

「分かりました」


 利用料金が支払われていると聞いて、ミュールはちょっと安心した。


「こんなよくわからないことでお金払いたくないもの」


 まぁそれでこんなところまで歩かされた不満が消えるわけではないのだが。

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