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100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる  作者: ざっぽん
第1章 100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる
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33話 魔術師は冒険者ギルドの窮地に笑う


 ウルに帰った三日後。

 ここ数日で買い物や休養などを終えた後、ネクロノミコンとミュールは冒険者ギルドを訪れていた。


「こんにちは」


 入り口の扉を開けて挨拶すると、冒険者達がちらりとこちらを見た。

 今は人が出払っているのか、前に来たときはたくさんの冒険者がいたのだが、今は両手で数えられる人数しかいない。


「おや、確か君はランカース君の話していた魔術師ミュール君だね」


 話しかけてきたのはガラガラと轟くような声だが口調は穏やかだ。それでも、彼の姿を見たミュールは思わず後ずさった。

 見上げるほど巨大な身体、顔の中央が縦に裂けているかのように見える大きな口。

 両腕は肘のあたりから分かれ、4つの腕を持つ異形の姿。


 無理も無いことだ。田舎育ちのミュールは、ガグにまだ慣れていなかった。


「すまんすまん、怖がらせるつもりはなかったんだ」

「あ、いえ、こちらこそすみません……」


 失礼だったと謝るミュールに、気にしていないと手を振りながらガグは話を続けた。


「君のことはギルドでも話題になっているよ。君に助けられたアルダッド君なんて、君から依頼がかかる日のために猛特訓しているところなんだ」

「え、ええっと……ああ、ハカンの洞窟9にいた」

「憶えていてもらえてアルダッドも喜ぶよ。あいつは前のパーティーが解散してから熱意を失っていたからね。あんな様子じゃ、いつダンジョンで事故に合うか不安だったんだ。君のおかげだよ」

「私はたまたま居合わせただけで……」

「そうだとしたら、神に感謝しないとね」

「神……あなたは神様を信じているんですか?」

「そう言われると、さて、どうだろうね。具体的にどういう神様がいるかとか、どういう祈りをするかってのは分からないけれど、こういう運命には感謝したくなることってないかい」


 恐ろしげな外見や、ガラガラと轟くような声の印象を打ち消すほどに、このガグの口調は温厚だった。

 ミュールも、自分の第一印象が間違っていたことを認めた。


「私、ガグとこうやって話すの初めてで。もっと怖い人達かと思っていました」

「我々の種族は全体的には怒りっぽい上に乱暴だ。体質的に肉しか受け付けないのもあって、飢えた部族が人間を襲うって話もたまにだけどある。君のイメージは間違っていないね。でも人間と同じだよ」

「同じ?」

「中には例外もいる。僕はどうも呑気な質のようでね。戦いでもスイッチを入れるのが大変なんだ」


 ミュールは彼が冒険者であることを忘れていた。

 温厚そうな彼も、武器を持ってダンジョンに入り、モンスター達とその膂力で戦うのだ。

 ガグという種族が戦いを得意とするのは当たり前なのに、彼の持つ雰囲気はそのことを忘れさせるほどだった。


「おっと、引き止めてすまないね。ランカース君に用かな?」

「はい、以前話していた深淵探索の話の続きをと思って」

「それは良かった。ランカース君もミュール君のことを気にかけていてね。きっと喜ぶよ。すぐに呼んでくるから、少し待っていてくれ」


 そう言うとガグは大きな体を揺らして奥へと入っていった。

 ミュールはその後姿を見ながら、ガグという種族への興味を感じていた。


☆☆


 ミュールはランカースの事務室へと通された。

 目の前には琥珀色のコーヒーが湯気と共に美味しそうな香りを漂わせている。


「お越しいただきありがとうございます。どうぞ、おかけください」


 ランカースは前のような笑顔で応対する。

 だがその表情には、どこか陰りのようなものが見えるようにミュールは感じた。


「深淵から帰還されたそうで。ご無事でなによりでした。探索の成果はどうでしたか?」

「地下3階でガジャン達やレーシーに襲われ、途中帰還となりましたけど、成果としては十分でした」


 ミュールは詳しい経緯を説明した。

 ランカースは時折メモを取りながら、ミュールの話を真剣に聞いている。

 その様子を見てミュールは、以前は何でも知っている様子だったランカースが、魔術師ギルドへは報告が上がっているだろう深淵での成果について何も知らないのは意外に思っていた。

 ミュールの表情に気がついたのか、ランカースはふと手を止め、初めてミュールに弱みを見せた。


「昨日、魔術師ギルドから近年、マッパー依頼で事故が起こるケースが多いと苦情が来ましてね。対策しろと命令されたんですよ」

「事故が増えてるんですか?」

「はい……しかしですね、たしかに事故で血を流しているのは我々冒険者ギルド側です。しかしそれは、魔術師を守るということを最優先にする我々の方針では当然の状況で、生き残った者の報告書でも冒険者は最善の手を尽くしている。問題は、魔術師側にあるはずなんです」

「あるはず? ランカースさんにしては珍しい言い方ですね」

「冒険者の質が悪化していないのなら、モンスターが強くなったか魔術師の質が悪化している。残るはこの2つしかない。モンスターの強さは常に変化はないので、魔術師の質が悪化している……と考えるしか無いのです」


 ランカースはそこで大きなため息を吐いた。

 どうやらこの問題に手を取られていて、ミュールのことを気にかける余裕がなかったようだ。


「魔術師の質が悪化している。そのはずなのです、十年前は最下層までいけた状況で、いけなくなった。しかし、過去の報告書と見比べてみても、魔術師の質が落ちた形跡がないのです。報告書を見る限り、過去の魔術師は同じような力量で現代の魔術師よりも高度な探索が可能だった。全くもって合理的ではありませんが、そう結論付ける他ない」

「それって……!」

「失礼しました、申し訳ありません、魔術師であるあなたに、こんなことを言ってしまって」


 ランカースは我に返った様子で訂正した。

 いくらミュールが冒険者ギルド派の魔術師になってくれているとはいえ、魔術師相手に話すようなことではない。


「そうとうキツく言われたようだな」


 そんなランカースの様子をみながらネクロノミコンは言った。

 ランカースは、失礼と一言断ってからコーヒーカップを手に取り、一口飲む。


「状況が改善できなければ、この支部の幹部の首を入れ替えると宣告されましてね。いやはや参りましたよ」

「ランカースさん達を!? そんな権限が魔術師ギルドにあるんですか?」

「本来は人事権はこちらにあるのですが、我々は下部組織。不祥事を理由にすれば、強権を発動するのも可能というわけです」

「なるほどな、やつらも考えたものだ」

「我々の代わりにギルド長に就任するのは冒険者ではなく、魔術師ギルドから出向してくる魔術師だそうで」

「冒険者ギルド独立派を潰すつもりだろうな」

「ええ、このような弱みがあったとは、なぜこれまで気が付かなかったのか」


 ランカースのカップを持つ手が震えた。


「申し訳ありませんミュールさん。我々の状況は良くありません。あなたにお約束したAランク冒険者相当の扱いも、新しい冒険者ギルドでは許可されないでしょう。我々とは距離を取ったほうが良い」

「でも……」

「あなたの友情を、心から嬉しく思います。コーレシュ様の孫娘を味方に引き込むなんて不可能だと思っていましたが、それすらやり遂げられた」


 ランカースは微笑んだ。

 作り笑いではなく、ランカースという男の自然な笑みが、そこには浮かんでいた。


「ランカースさん……」

「あなたに目をつけた私の目に狂いはなかった。きっとあなたは偉大な魔術師になる。どうか、私との友情が終わった後も、冒険者達との友情が末永く続くことを願っております」


 ランカースは、冒険者ギルドのためならミュールのことを顔色一つ変えずに切り捨てられる。それがネクロノミコンのランカースに対する印象だった。

 だがこの状況であれば、ランカースは絶対に裏切らない。

 魔術師ギルドは冒険者ギルドを追い詰めすぎた。

 ミュールはランカースに同情しているが、ネクロノミコンは密かにほくそ笑んでいる。


 冒険者ギルドを忠実な味方にすることができると。


☆☆


 老人……雪のように真っ白になった髪を除けば、50代と言われても信じられそうなほど精強な肉体をしているが、彼は今年で122歳にもなる上寿だ。


 老人は縞瑪瑙しまめのうの彫刻を乾いた布で磨いている。

 その顔には何の表情も浮かんでおらず、ただ無心に彫刻を磨いている。


 ノックの音がした。


「むぅ……」


 老人は憩いの時間を邪魔されたことを不快に思いながら、「入れ」と一言命じながら、黒檀の木目が美しい机へと戻る。


「コーレシュ様、例の男を捕らえました」


 入ってきたのは賢者の塔の所属であることを表す魔術師のローブを身に着けた男だった。


「竜骨城の結界を突破したという男か、だがまさかこうも容易く捕まえられるとはな……やはり誰かに利用されたと見るべきか」

「そのようですね、経歴を調べてもただの詐欺師以上のものは見えません」

「尋問は終わったのかね?」

「はい、薬物も使いましたが、聞き出せた情報に特別なものはありませんでした」

「なぜ竜骨城に行ったのかは?」

「若い女の魔術師に依頼されてだそうです。中からバラムが注釈を書き込んだネクロノミコン写本を手に入れるようにと」

「その女の風貌は聞き出せたか」

「残念ながら。似顔絵を書かせたら、顔に穴の空いた女の絵を描きました。本人は自分の描いた絵の異常さに気がついていない様子でした」

「精神魔法か」

「何の魔法が使われたかは特定できていません。未知の魔法とのことです」

「どの魔法に近いかも特定できていないのか」

「申し訳ございません。既存の魔法とは全くことなる理論によって作られた魔法だとしか」


「信仰魔法か気魔法か」

「は?」

「気にするな、お前には理解する必要のない言葉だ」

「失礼しました」


 老人は黙って、皺が深くなった手の甲を撫でながら、じっと黙り込んだ。

 こうなった時は、もう用は無いから出て行けということだ。

 男は一礼すると、黙って部屋を退出した。


 この老人こそが、かつてバラムを裏切った弟子であり、現在は数多の魔術師達のトップに立つ、魔術師ギルド長コーレシュだ。

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