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100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる  作者: ざっぽん
第1章 100年後に魔術書として転生したけど現代魔術師は弱すぎる
18/76

18話 少女はお嬢様とお昼を食べる


 その日、ミュールは学校をサボり、ウルの通りを歩いていた。

 手には串焼きの袋を持っている。

 公園で食べるつもりなのだ。


「学校は良かったのか?」

「あんな授業役に立たないんでしょ」


 コーレシュのブロンズ像を中央に、手入れのされた緑の庭園で、ミュールはベンチに腰掛け、串焼きの肉を頬張っている。

 柑橘類を使った酸味が少しあるソースが掛かったダンジョンピッグ肉はとても美味しい。


「あら、ミュールさん、今日は学校をお休みになられたのですね」

「エステル、なんでここに」

「休憩ですわ」


 そう言ってエステルはミュールと同じ包み紙を見せた。


「私も、あの店の串焼きは好きですの」


 二人は並んでベンチに腰掛けると、残りの串焼きをもそもそと食べていく。


「意外」


 ミュールと同じように肉を頬張っているエステルの横で、ミュールは呟いた。


「私が串焼きを食べることがですか?」

「エステルって、喋り方もそうだし、貴族のお嬢様みたいじゃない? もっと上品なものを食べているのかと思ってた」

「そうですわね、私の異母兄弟きょうだいは食べないかも知れませんわ。私は一人で外に出ることが多かったですので特別かも知れませんわ」

「噂に聞いたんだけど、エステルって賢者の塔出身なの?」

「噂も何もありませんわ。私のお祖父様は魔術師ギルド長コーレシュ様なのですよ、私もあの塔の出身に決っているではありませんの」


 そう言って、エステルはウルの中央に輝きそびえる白亜の塔を仰ぎ見た。


「賢者の塔の魔術師は世界を導く義務がある。お祖父様が私に教えてくれたことです。私は、あそこで大魔術師アークマギにならないといけないのです」

「それで今回の探索を?」

「もちろん違います。深淵の探索は魔術師ギルドにとって最も重要な任務の一つ。成功した探索によってもたらされるウルへの恩恵は莫大なものになります。私達魔術師の仕事は、人々の生活すべてを維持するために必要な大切な仕事です。魔術師ギルドは一人でも多くの優秀な魔術師を求めているのですよ。私達が優秀であると証明すれば、それが国と人々の為にもなるのですわ」


 エステルはミュールの持っている串焼きを入れていた袋を指差した。


「その袋の原料は、ファニートレントの樹皮を溶かして繊維状にしたものですわ。ファニートレントは弱いモンスターですが出現すること少なく、深淵3層に大量出現しなければ、耐水性のある紙の流通は無かったでしょう。もちろん、我々がノートに使っている紙も、ダンジョンにいる製紙に適した植物系モンスターが原料になっています。

 先程食べた肉であるダンジョンピッグは通称で、ダンジョンで発生するブタ系のモンスターの肉のことです。周りを見渡すと美しい庭園が見えますね。こうした木々を育てる肥料や虫よけもダンジョンで手に入るモンスターの素材が原料です。

 また、公園に限らず農園の地下には水留石みずとどめいしの砂利が混ぜ込まれています。この石は実はダンジョンのレイニーマイマイの殻を砕いたものなのですが、この殻は水を蓄え、少しずつ放出するという性質がありますわ。

 雨季の間は水を蓄え、植物の根が腐ってしまうのを防ぎ、乾季の間は乾いた大地に少しずつ水を返していく。この石がなければ、我々は乾季の間は飢え、野獣けだもの達のように、水を求める流浪の暮らしを強いられていたでしょう。

 我々の服。これはウル郊外で育てている迷宮麻畑が原料なのですわ。この麻は病気にも強く、収穫量も非常に多いのですが、地上ではなぜか種をつけません。迷宮麻が無ければ、街の人の半分は裸で暮らしていたことでしょう。

 あなたが気に入ってくれたウルの町並み。これの建材はどこから持ってきたかご存知ですか? これらは何の変哲もない石から切り出されたものです。そうした石はマナが枯れつつあるダンジョンから切り出されているのです」


 エステルは町の物をつぎつぎに指差すと、それを作るためにダンジョンがどういう役割をするかを次々に説明した。

 ミュールが知っているものもあったが、知らないものもあった。

 こうして説明を受けていると、今流通しているあらゆる必需品、嗜好品どちらもダンジョンの存在が不可欠だと改めて実感する。


「私は、魔術師という職業に誇りを持っています。その頂点に立つお祖父様のことを敬愛しています。私は、少しでもこの国と、お祖父様のお役に立ちたい。そして、私にはそれができることを証明したいのです」


 同じ学生、それも入学したばかりとは思えない強い言葉に、ミュールは何と言葉を返せば良いのか分からなかった。だが……


(なんだか、不安、このままじゃ取り返しのつかない失敗をしそうな、そんな気がする)


 そう、ミュールは心の中で呟いた。


☆☆


 魔術師ギルドの本部は、土地中央に輝きそびえる賢者の塔だが、一般の魔術師が向かうのは西区にある赤銅色のレンガで築かれた魔術師ギルドのウル支部だ。

 あくまで本部はすべての魔術師ギルドの統括を、ウルの問題はウル支部の魔術師ギルドが担当することになっている。

 食事の後、ミュールはエステルと一緒にこの赤銅色の魔術師ギルドを訪れていた。


「エステル様、お帰りなさいませ」


 受付のメガネをかけた女性が、エステルの姿を見て頭を下げた。


「応接室の準備をしてちょうだい。この子は私のお客よ」

「かしこまりました」


 その様子は、ギルドの受付嬢というより、メイドと主人の関係に近いようだ。

 エステルはこのギルドでは高い地位にあるのは間違いないだろう。


「ラファエラは学校が終わってから来ると思うけど、一緒に話したほうが手間が省けない?」

「いえ、ミュールさんにこそ私はパーティーに参加して欲しいのですわ」

「私に?」

「たしかに成績ではラファエラさんの方が上のようですけれど、私はあなたに親近感を感じますの。私達は友達になれるのではないかしら」


 エステルは身を乗り出してそう言った。


「でも、私とエステルは全然違うと思うけれど」

「私はウルで魔術師の娘として生まれ、あなたはリナール村で魔術師として適正を見出された。私は高価な写本の魔術書を持ち、あなたは不思議なオリジナルの魔術書を持つ。確かに違いますわね。でもそれは表面的なもの……あなたには強い意思がある。自分の力で何かを成したいという意思が。私にはそれが分かりますの」

「そ、そうかな、私にはエステルみたいな考え方はまだ無いけど」

「私は、あなたの資質の話をしているのですわ。まぁ、この話はこれくらいにいたしましょう。ただ知っていてほしいのは、私はあなたと一緒に深淵に挑みたい。それだけのことですわ」

「そう……なんだ」


 エステルの瞳の中には炎があった。

 それは野心という名の炎だった。ミュールにかけた言葉の裏に、野心があることを隠すことのできない強い炎だった。


 これが賢者の塔の魔術師。

 上を目指すことを、生まれたときから定められた魔術師なのだと、ミュールは思ったのだった。

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