17話 魔術師と少女と政治的駆け引き
「ミュールさん、冒険者といっても、所詮は魔術師の荷物持ち、そういう考え方をする魔術師がほとんどです。高ランク冒険者に対する優遇は、彼らの才能に対して魔術師ギルドのやりかたでは十分な対価を支払えず、こうした優遇措置をして彼らに冒険者を続けてもらっているのです」
「つまり、ミュールも魔術師ギルドから正当な評価を受けないと?」
これまで黙っていたネクロノミコンが口を挟んだ。
ランカースは驚いた様子もなく、淡々と言葉を返す。
「あなたがネクロノミコンですね。意思を持つ魔術書とは珍しい。そして鋭い。おっしゃる通りです、ミュールさんの才能は魔術師ギルドでは正当に評価されないでしょう」
「だが、ミュールは深淵への探索を依頼されたぞ。これは評価されたからではないのか?」
「あれはエステル嬢の独断でしょう。彼女は魔術師ギルドで孤立しています。手持ちの魔術師も少ない」
「エステルさんって、学生じゃないんですか?」
「彼女は魔術師ギルド長コーレシュの孫、魔術師ギルド本部である賢者の塔で生まれた魔術師なのです」
魔術都市ウルの中央にそびえる城は、領主のものでも王のものでもない。あれこそ魔術師ギルドの本部、ギルド長コーレシュと大魔術師達の住む世界の中心、賢者の塔なのだ。
「賢者の塔で生まれた大魔術師の子供達は、ほぼ全員、魔術師ギルドのレベル30以上の階位を持っています」
魔術師ギルドの階位は、冒険者ギルドと違って細かい。
階位はレベル1からレベル50まで分けられ、階位が上がったかどうかはギルド内の審査によって決まる。どのような審査が行われているかは公表されていないが、レベル20以下の下位魔術師が全体の80%を占めている極端なピラミッド型。
レベル30以上ともなれば、全体の10%ほど。エリート魔術師と言ってもいいだろう。
「付け加えるならレベル40以上の魔術師に、賢者の塔出身でない魔術師はいません。賢者の塔の魔術師でなければ魔術師ギルドで出世することはできない。そういう世界なのです」
ミュールも、賢者の塔については漠然とだが噂は聞いていた。
だがミュールは自分がそういう世界に関われるとは思っていなかった。
それに今でも実感はなかった。こうして話してもいても、出世できないという言葉が、自分に関連付けられるということが、心の中では理解できていない。
「つまりは、魔術師ギルドから冷遇されるであろうから、冒険者ギルドが優遇しようというわけか?」
「そう理解してもらっても結構です」
「だがミュールは魔術師ギルドの人間だ。もし今回のエステルからの依頼や、今後魔術師ギルドからの依頼を優先させることもあるかも知れない。その時はAランク扱いを剥奪するのか?」
「そのようなことあありませんよ。ミュールさんの都合が良いときに冒険者ギルドからの依頼を受けてくだされば、それで十分です」
ランカースはちらりと時計を見て、
「これは失礼いたしました、思った以上に引き止めてしまったようで。そろそろ出ないと学校に遅れてしまいますね」
「い、いえ、こちらこそ朝から来てくださってありがとうございます」
「あ、最後に一つだけ」
「なんですか?」
「エステルさんは違うとは思いますが、賢者の塔の魔術師には注意してください。最近多いんですうよ、力のある魔術書を持った魔術師が行方不明になり、なぜかその魔術書だけ、賢者の塔で保管されていることって」
「え、それって」
「我々も調べているのですが、魔術師ギルドと事を構えるわけにもいきませんので」
最後に疑念を掻き立てるような言葉を残して、ランカースは帰っていったのだった。




