第三話 占領後の統治
街が戦勝ムードの中、高官達は決して楽観視してはいなかった。セラムとてそれは例外ではなく、忙しい日々を過ごす中常に次の戦争を考えていた。セラムは一時的な平和が長く続かない事を知っているのだ。
ゲームのシナリオでは次に来るのはゼイウン公国からの救援要請、都市レーゲンの防衛戦。そして立て続けにノワール共和国へも援軍に向かう事になる。遠からずゼイウン公国からの使者が来るだろう。
あの戦いの二週間後、リカルドも本来の公務に戻るためにここを離れた。セラムとしては少々心細いが、元より貴族のまとめ役である公爵が長期間本領を離れるわけにもいかない。領地の管理をルーカス子爵に引き継ぐためにもリカルドには公爵としてやらなければいけない事がある。
街の運営は都市長がやっているので、セラムの仕事は主に防衛設備を整える事である。
「何? 渋滞だと?」
「はい、物資の運搬が多くなっている為馬車の往来が円滑にいかず……。中には暴走したり住民とぶつかる等事故になる場合も」
「左側を通行するように立て札を立てろ。避ける時はお互い左側に避けるように指導しろ。特に渋滞の原因になる辻等には誘導員を配置しろ。人員は警備兵から手すきの者を手配、逆走するような悪質な輩は取り締まって罰金を払わせるように徹底しろ」
「了解」
ここのところ似たような案件が多い。やはり頭を悩ませるのは軍隊と住民とのトラブルだった。特に労働に関しては住民が敏感になっていた。グラーフ王国の占領時、兵士は最前線に送られ、それ以外の住民は強制労働をさせられていたらしい。
これは捕虜から引き出した情報だが、グラーフ王国のやり方として捕虜は三回最前線で戦わせ、非戦闘員は一年間の強制労働を強いるらしい。その代わりそれを終えた者はグラーフ王国民として立場を保証される。一種の奴隷制度である。ただし異民族から将軍になった者もいるらしいので労役を終えた者は本当に平等に扱われるようだ。期間限定である為不満は長くは続かない。意外とよく出来た制度かもしれないとセラムは思った。
ただ、そんな背景がある為今住民に労働を協力してもらう事は叶わず、軍人だけでやる工事は遅々として進まなかった。そろそろ季節は秋、収穫の季節なので領民兵を帰してしまった事も遅れに拍車をかける。
ただグラーフ王国が侵攻してくる気配がないのが救いであろう。
王都からの使者が来たのはそんな時だった。
「セラム少将、至急王都へお戻り下さい」
とうとう来たと思った。ただ、想像していた事態とは少し違っていた。




