第四話 六将軍会議
重厚な扉が開かれる。現れた男の姿を確認して室内の二人が手を挙げた。
「遅くなって済みません。東方方面軍司令ユーリ・サヴエリエフ、只今参上しました」
部屋に入ってきた男はそう言って銀髪を揺らし、用意された椅子に手を掛ける。
「紅茶でいいかぁ、ユーリの旦那?」
座っていた隻眼の男が指を伸ばすとその先に小さな火が現れる。その火を油壷の芯に灯し、ティーポットを温める。
「ありがとう、ホウセン殿」
「これで揃ったな」
最後の一人は獣耳の女だった。まだ年若く、背が低い。
「では六将軍会議を始めようか」
「六将軍つっても三人しかいねぇがな」
女の発言にホウセンが茶々を入れる。
「仕方ないでしょう。リア殿とマクシム殿は北方で魔物討伐、ウナイ殿はモール方面の内政で離れられない状況です。侵攻部隊の将軍三人が揃っただけでもよしとしなければ」
「まぁそーだな。じゃあそれぞれの報告から始めようかぁ。順番はどうする?」
「歳の順で」
紅茶を飲んでいたユーリが二人に促されて口を開く。一番年上なのになあ、とは言わないユーリである。
「東方方面軍司令、ユーリ・サヴエリエフ。ノワール共和国の代表と折衝中です。脈はありますがのらりくらりと躱され言質は取れませんでした。今後も小規模な戦闘と交渉を繰り返すつもりです」
「侵攻軍参謀、ホウセン・クダン。ヴァイス王国の都市ヴィグエントを占領後ゼイウン方面に移動、内部分裂の仕込みは上々……だったんだが、ヴァイス王国の反乱は失敗、ヴィグエントも取り返されちまったようだ」
「南方方面侵攻軍団長、チカ・アルパ・ザガ。ゼイウン公国を侵攻中、順調。もう少しで三名家の一つ、マトゥシュカ家の都ゲルスベルクまで到達する」
それぞれの報告を聞き、ユーリが眉を顰める。
「都市を取り返されたとはどういうことです。内部分裂で国力を削ぐ予定ではなかったのですか?」
「ちょっと待てよユーリの旦那。それぁ俺が責められる謂れはねえぜ。俺ぁ要請があったからゼイウンに行った、その間の出来事だ。そりゃ確かに予想外だがよ、あの時点では反乱を防げる人材はいなかったはずなんだ」
「私からも弁護する。この男はゼイウン公国での苦戦を聞いて援軍を名乗り出たのだ。その結果奴等は瓦解し、私の軍も進めた」
「さっすがチカちゃん、わかってるぅ」
「軽薄な男だが頭のキレは確かだ」
「一言多いねぇ、チカちゃんは」
ホウセンは性格に少々難はあるがその頭脳は誰もが認めるところだ。そのホウセンが読み違えたという事はヴァイス王国で警戒すべき何かが起こったのだろう。
「ふむ、調べてみる必要がありますね」
「だぁな、まあ任せてくれや。元々俺の管轄だ」
「では私とユーリ殿は引き続き任務を続ける、ホウセンは臨機応変に行動する、でよろしいかな」
「「異議なし」」
こうしておよそ軍議らしくない軍議を終えて三人はそれぞれ出てゆく。緩やかな雰囲気とは裏腹に三人の行動で事態は急速に動いてゆく。
戦争とは戦場のみで展開されるものではないのである。




