9.面倒くさい護衛依頼はお断り!
アードの訪問から二週間。私は一度冒険者ギルドに顔を出すのをやめて、二週間の間、我が家──レイネル公爵家の私兵長に剣の稽古をつけてもらった。
「もう私どもではシルヴィア様に教えられることはございません」
との言葉を私兵長にもらった私は、二週間ぶりに冒険者ギルドの扉を開けた。
「あっ! 白銀の魔法使いだ」
「まじかっ? 二週間ぶりじゃねえか」
なぜかみんな私の方を見てる……? というか白銀の魔法使いってそれ、私のこと?
私がギルドに入った瞬間、冒険者たちの視線が私に集まる。私は無性に居心地が悪くなって、慌てて受付に向かった。
「ルヴィアさん! 二週間もギルドに顔を出さないから、心配したんですよ」
初めてギルドに来た日と同じ、黒髪メガネの大人っぽい受付嬢が私に対応してくれる。前回は気づかなかったが、よく見ると左胸のあたりに『カーラ』と書かれたネームバッジが付いていた。
「それで、ルヴィアさんにはギルドから重要な要件があるのです。ギルドマスターのいる執務室までご足労いただいてもよろしいですか?」
早く剣を実践で試したいんだけど、この流れは多分普通の冒険者は受けられない、何か面白い依頼を受けられるチャンスかもしれない。ここは話に乗っておこう。
「わかりました」
***
王都ギルド執務室。私は再びギルドマスターのボワルグと対面していた。
「まずはおめでとう。ルヴィア、おまえは今日からAランク冒険者だ」
「えっ……なんでですか?」
突然のランクアップに思わず聞き返す。そんな私に呆れ顔を向けたボワルグが口を開いた。
「なんでも何も、おまえさんは『青岩の洞窟』の二十階層に史上最速で到達。さらには王都最強と謳われるAランク冒険者パーティー『王の鉤爪』ですら壊滅させられたボス──ナイトゴーレムを圧倒し、『王の鉤爪』の命を救った」
ダンジョンしつこく付き纏ってきたあの人たち、そんなに強かったのね。そうは見えなかったけど……。
「しかもルヴィアさんはそのままダンジョンの最深部──二十五階層のボスまで倒した。これだけの偉業を成し遂げておいてランクアップしないわけがないでしょう!」
普段は大人しいカーラが興奮気味に私の成したことを語る。ボワルグも誇らしげに腕を組んで頷いた。
ランクアップは嬉しいけど、今はそんなことより早く剣を使って戦いたい……。
「それで、重要な要件というのは?」
「ああ、そうだった。おまえさんに呆れ過ぎて忘れていたぞ」
顎髭を触って笑ったボワルグ。今度は私がボワルグに呆れていると、ボワルグは豪快に開いた左右の膝の上に大きな手を乗せた。
「今回の依頼は、あるやんごとなきお方からの護衛依頼だ。ルヴィアには『王の鉤爪』とともに、あるお方をガーランド辺境伯領まで無事送り届けてもらいたい」
護衛依頼か……確かにファンタジーではあるけど、ほとんど移動だけで魔獣や盗賊なんて道中一回出るかどうかでしょ? それに、見知らぬ人たちと何日も一緒に過ごすとか面倒くさい。私は私の自由にやれる依頼がいいのよ。
「すみませんがボワルグさん。その依頼、受けません」
「はっ? おい待てルヴィア! これは高貴なお方からの指名依頼だ。断れば俺もおまえもタダじゃ済まないぞ!」
「そんなの知りませんよ。私は私のやりたいようにやるだけです」
面白い依頼を受けられるかもなんて期待して損した。ダンジョンのボスもこの前倒したし、受付で剣技を試せそうな依頼でも探そう。
「おいルヴィア!」
「ルヴィアさん……」
「私はこれで失礼します」
二人の制止を無視して、私が扉の取っ手に手をかけたその時、
バンッ!
「いたっ……」
勢いよく開かれた扉は、私のおでこを直撃した。
「ギルマスー! 言われた通り『王の鉤爪』が来たよー! ってあれ、この人ダンジョンで助けてくれた……ルヴィアさん? 何してるんですか?」
おでこを押さえて蹲る私を見て、無邪気なはてなマークを浮かべたのは、私をダンジョンで追いかけ回したうちの一人だった。
「セレナ……執務室に入る前には必ずノックしろといつも言っているよな」
「えっ……とぉ……その、テヘッ!」
「「はぁ……」」
反省の色が全く見えないセレナに呆れて、ボワルグどカーラが肩を落とす。セレナは私よりも一回り小柄で、短い金髪の髪が彼女のやんちゃな性格を表しているようだった。
「ギルマス……先客……いるのか?」
「ユークもいたか。リーダーのゼルはどうした? 来ていないのか」
「あいつは……今、戦ってる」
「なんだ、ゼルのやつ一人で依頼を受けたのか? 珍しいな」
「そうだ。……あいつは、ダンジョンボスとの戦闘や最深部で……全く歯が立たなかったこと……悔しがってる」
ボワルグは、神妙に頷いた。
「ハハハ、そうか……あいつは強くて真面目だからな。それに目標も高い。だが、明日の依頼までには戻ってこいと伝えてくれ」
ユークは被っているフードの先を摘み、頷く。彼は背が高く黒髪黒目。ローブを纏っているから分かりずらいがかなり線が細い。
「なあ、おまえたちもルヴィアを説得してくれないか? こいつ、依頼を断ろうとしていてな。今まさに帰ろうと……」
「なんでなんで?! あなたもわたしたちと一緒に依頼受けようよ。この前のお礼もしたいし、仲良くなろうよ!」
セレナは急に私の手を両手で掴んで、黄緑色の明るい瞳で私の目を覗いてくる。
この子、初対面の人に対する距離感近すぎ……。こういう人を相手にする時ははっきりと拒否するのが最善。
「もう少し、離れてくれませんか?」
そう言って、私の手を握るセレナの手を弾いた。
こういう人にはストレートに距離が近いと言うに限る。でないと本人が相手に迷惑をかけていることに気づかないのよ。
「あのねっ、わたしはあなたと仲良く……」
私がセレナに憐れみのこもった冷たい視線を向けると、セレナの口が開いたまま動かなくなった。そしてそのまま、セレナとユークの間を抜けて執務室の外に出る。その時、
「待てルヴィア」
ボワルグの低い声が聞こえた。
「まだ何かある……の?」
待ってそれって……。
私は自分の顔が紅潮していくのがわかった。私の視線の先──ボワルグの持つ魔水晶には、私がすまし顔で帰ろうとした瞬間、扉におでこを打たれて蹲るシーンが流れていた。
「この手は使いたくなかったのだがな……ルヴィア! これを見せ物にされたくなかったら依頼を受けろ!」
「わかりましたから、早くその水晶割って!」
この話を読んでいただきありがとうございます!
「面白かった!」
「続きが気になる!」
と思っていただけたら、
ブックマーク登録や、
↓の「☆☆☆☆☆」をタップして、応援していただけるとうれしいです!
星はいくつでも構いません。評価をいただけるだけで作者は幸せです。




