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【連載版】破滅エンドの回避なんてめんどくさいっ!〜悪役令嬢の私は余生で国を滅ぼそうと思います!〜  作者: 早川冬哉


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7.属性混合魔法

 私が切先を僅かに下げると、巨岩は一斉にミノタウロスへと襲いかかる。だが、ミノタウロスは大斧を振るい、巨岩を全て打ち砕く。


「それなら、これはどうかしら?」


 私は電気を纏った右手を掲げ、指を弾く。すると、ミノタウロスの頭上から雷が降り注ぐ。それを紙一重で回避するミノタウロス。


「グオォォォオォォオォ!」


 咆哮を轟かせたミノタウロスの体が、紅い光を帯びた。その瞬間、二十メートルは離れた場所にいたはずのミノタウロスが目の前に現れ、大斧を横薙ぎに振り払う。


 ガキイィィィイィィン!


「……っ」


 私は大斧を剣で受け止めた。だが、その攻撃の重さに私の軽い体は弾き飛ばされ、岩壁に激突した。


 危なかった。斧を受ける直前にミノタウロスと反対方向に跳んだから助かったけれど……。


「なんて強さだ……俺たちがあれと戦っていたら、十秒と待たずに負けていただろう」


 部屋の外から戦闘を眺めていたゼルたちの顔がさらに青ざめる。その時、ミノタウロスの注意が声に引き寄せられ、ミノタウロスは私に背を向けてゼルを睨みつけた。


「まずい……おまえたちは下がれ」


 ミノタウロスに威嚇され、瞬時に仲間の前に出るゼル。だがその膝はガクガクと震え、幽霊に怯える子供のような怯え顔をしていた。


「ゼル。ボクも……手伝う。セレナは……逃げて」


「ユークさん……ゼルさん……」


 ユークは杖をガタガタと震えさせながらも、ゼルに支援魔法をかけた。セレナは腰が抜けたのか、その場で尻餅をついて震えていた。


 魔法の威力が今の私じゃ足りない……一番火力が出るのは火属性だけど、大したスピードは出ないから反応されて斧で防がれる。速さだけなら水と風属性が速いけれど、威力が出ないからミノタウロスには傷一つつかなさそう……。


「……ん? まって私、なんでこんな簡単なこと思いつかなかったの……」


 私は思いついた魔法のイメージを始める。その時、ボス部屋の外にいる三人に向かってミノタウロスが闘牛のごとき突進で突っ込む。ミノタウロスが突進の勢いそのままに振り上げた大斧が、ゼルの顎に直撃する……その直前。


「ベースは氷の槍で……風で加速させて……炎を……」


 私の手の中に現れた一本の氷の槍。その先端には、赤く輝く炎が立ち上っていた。そして私は大きく振りかぶって、氷の槍を投げた。すると、イメージした通りに氷の槍は風を纏い加速。氷の槍は一直線にミノタウロスへと向かう。


 ギイィィィン!


 これでも斧が間に合うの?!


 ミノタウロスは氷の槍を両斧で防ぐ。しかし、ミノタウロスの足は地面を抉りながら下がっていく。さらに大斧にも、目に見えるほど大きな亀裂がいくつも現れ、まもなく大斧は二つとも粉々に砕け散った。


「今よ、爆ぜなさい!」


 私の声に応えて、槍先の炎がオレンジ色に輝き出し、ミノタウロスだけを包み込む。その次の瞬間、ミノタウロスを焼き尽くすオレンジ色の火柱が轟音を轟かせた。


「グオォォォ……」


 火柱が止み、中にはミノタウロスのツノだけが、燃え残って落ちていた。それを見た途端、私は吐息を漏らして緊張を解いた。


「これでダンジョン攻略達成ね」


 ゆっくりとボス部屋内を歩き、私は初ダンジョン制覇の記念にしようとミノタウロスのツノを拾う。そこでようやく、ダンジョン制覇の達成感で忘れかけていた三人に目が止まった。


 三人とも地面にへたり込んで、先程までミノタウロスが立っていた場所を見続けている。


 どうしようか……まあ、面倒くさいし置いて帰ろう。


 私は自分の部屋をイメージして、転移魔法を準備する。すると私の体は薄緑色に輝き出し、地面から足が浮いた。その時、はっとしたゼルが、他の二人を引っ張って私の足にしがみついた。


「ちょっと……離してください」


「恥を忍んで頼む! 俺たちだけでは二十階層に戻ることすらできない。俺たちも連れ帰ってくれないか?」


「しょうがないわね……」


 私は転移魔法の光を三人にも纏わせ、転移先のイメージをダンジョンの入り口に切り替える。そうして、私たちはダンジョンから王都へと帰還した。


***


「楽しかったぁ……」


 王の鉤爪の三人をダンジョン入り口まで転移させた後、私は転移魔法で公爵邸の自室に戻った。


 「この国を滅ぼそう」と言って笑ったあの日以来メイドたちから恐れられた私には、当然身の回りの世話をしてくれる人がいない。なので私はいつも魔法で部屋着に着替えている。そうして赤を基調とした天幕付きのベットに身を委ねた。


「明日は何しよう……近場のダンジョンは今日行った『青岩の洞窟』だけなのよね……次はやっぱり剣の腕を磨くのがいいかしら……国を滅ぼすのに、近接戦闘はできません、なんて笑い話にもならないし」


 私はベットに寝そべり、ぼんやりと天井を見がら明日の想像を広げていた。


「あっ……そういえば剣が砕けたんだったわね。また武器庫から盗──借りてこないと」


 コンコンコンッ!


 えっ? こんな時間に私を訪ねてくるなんてどうしたのかしら? みんな私を恐れて滅多に部屋に来ないのに。今の、聴かれてないよね。


「どうぞ」


 私はベットの上で姿勢を正す。まもなくして扉が開くと、あからさまに怯えた状態のメイドが一人立っていた。


「し、失礼します。シルヴィアお嬢様に、旦那様からの言伝を預かってまいりました」


 レイネル公爵──お父様から言伝? それより、本当に剣を盗んだこと、聴かれてないわよね?


「ひっ……」


 疑念と疑問から、私は無意識に視線を鋭くしたのだろう。怯えたメイドの肩が跳ねる。私は咳払いをして、公爵令嬢のシルヴィアらしく振る舞ってみた。


「それで、お父様の言伝というのは?」


「は、は、はいっ! こ、こちらになります……」


 私はメイドから手紙を受け取る。その途端、メイドは頭を下げ、大慌てで部屋を去った。そんなことは気にせず、私は手紙に目を落とした。


「明日の午後、おまえの婚約者──ここエステワ王国の第二王子──アード殿下が我が屋敷を訪れる。昼食後、応接室に来なさい。 【メイガスト・フォン・レイネル】」


 ゲームでシルヴィアを婚約破棄したアードが明日くる? 面倒な予感がする……ギルドに行ってやり過ごすのが良さそうね。


 アードと会わないことを決意した私は、何気なく手紙の裏面を見る。するとそこには、「追伸」と記されていた。


「追伸。剣は危ないものなんだ。武器庫から剣を勝手に持ち出すのはやめなさい。それともう一つ。馬小屋の側にある林が倒壊した件。あれもおまえの仕業ではないか?」


 えっ? 私がやったこと、全部バレてる……。


「ハハハ……明日アード殿下と会えるの、楽しみねー」

この話を読んでいただきありがとうございます!


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