27.合流
「セレナ」
「ルヴィア……わたし……早く戻らないとみんなが!」
私が転移すると、セレナは街道から外れた森の中をラドスに向かって走っていた。
「落ち着いてセレナ。ゼルさんとユークさん、それにアード殿下ももうラドスから避難したわ」
「でも! まだラドスに住んでた人たちが……」
「さっきの隕石見たでしょう? 全員死んだわ。もう一人も生きてはいないわよ」
「そんなのまだわからないよ! 戻ろうよルヴィア。まだ誰か生きてるかもしれない……」
セレナの視線が私の焼け爛れた右腕に移動した途端、セレナは口を止め唇を噛み締めた。
「ごめんルヴィア……。でもわたし、さっきは貧民街の人たちを見捨てて逃げ出しちゃったから、今度は助けてあげたいの」
「無理よ。客観的に見て、あの町にセレナが戻ったとしてもできることは無駄死にだけよ」
「……っ! それでもわたしは……みんなを助けたいの!」
純粋で真っ直ぐな黄緑色の目を見て、私はセレナの肩に手を置いた。
私にはセレナを説得することができなさそうね。ゼルさんたちに頼もう。
「セレナ、まずはゼルさんたちと合流するよ。そして二人と話をして、それでもラドスの町に戻るというのなら、私はそれに従うわ」
ちゃんと現実を考えるあの人たちなら、セレナを説得してくれるはず。そのあとは転移魔法で馬車ごと王都に運んでしまえばノアのところに行けるわね。
複雑な表情でセレナが頷くのを確認して、私は転移魔法を発動した。
***
ガタンッ!
「なんだ今の音は?!」
手綱を握ったゼルが、御者台から音のした荷台の屋根に目を向ける。
「ゼルさん、ユークさん。セレナを連れてきました」
「ルヴィアさんか。セレナを見つけてきてくれたこと感謝するぞ」
私の肩越しに短い金髪を覗かせるセレナを見てゼルが安堵する。だが屋根の上で風の防壁を維持しているユークは、セレナの様子がおかしいことに気付き懸念を漏らした。
「ルヴィア……さん。セレナ……本当に……大丈夫、なのか?」
「いえ、それが……」
「ゼルさんユークさん! 今すぐラドスに引き返そうよ! わたし、あの街の人たちを助けたいの」
「なにを言っているんだセレナ! 俺は『王の鉤爪』のリーダーとして、仲間を死地に向かわせるわけにはいかない!」
「それに今は……護衛依頼の、最中……だ」
冷静に正論をセレナに言い聞かせる二人。だがそれでも、セレナは納得せずに二人に食い掛かる。
「でもっ! わたしは……キャッ! なに?!」
まさにその瞬間、馬車は推進力を失い大きく揺れた。ユークが作った風の防御を一体の強化ゾンビが突破し、馬の喉元に噛み付いたからだ。
「ヒヒーンッ!!」
「ぐわっ!」
「なっ……」
馬車を引いていた二頭の馬は地面に倒れ伏し、荷台が横滑りを始め、バランスが崩れる。
「まずい……横転するぞ!」
「か、風よ、我が願いに……」
ブオォォオォッ!
私はユークの意図を汲み地面に突風──風属性魔法の一つゲイルブローを放ち、その反動で馬車の横転を防いだ。ついでに、ゲイルブローの中に目に見えないほど細くしたウィンドカッターを織り混ぜ、足の速い強化ゾンビを処理した。
「助かった……ボクじゃ、間に合わなかった……」
「でもどうするの? 足がないとこのゾンビの大群から逃げられない。ラドスにも王都にも戻れないよ」
今も刻々と馬車に迫るゾンビの大群。それを見て私以外の三人の表情はいっそう険しくなる。
「おい、さっさと馬車を動かせ! さっきの揺れといい、おまえたちは何をやっているのだ!」
突如荷台の窓から顔を出して叫ぶアード。だが生意気な彼ですら、二頭の馬が地面に倒れているのを見た途端顔が青ざめた。
「う、馬が……。お、おまえたち、早くこの状況をどうにかしろ! おまえたちはオレの護衛だろう!」
「アード殿下……。外のことは俺たちがどうにかします。ですからアード殿下、安全のためにも馬車から顔を出さないでいただきたい」
「当然だ! おまえたちにはこのエステワ王国第二王子であるオレを守る義務があるんだ! なんとかしろよ」
「はい……」
アードが顔を引っ込めると、ゼルは前髪を掻き上げて頭を抑え、考え込む様子を見せた。その間も、ジリジリとゾンビたちの群れがにじり寄ってくる。そのことが、ゼルにいっそう冷や汗を流させた。
「だが、どうすれば……そうだルヴィアさん。ルヴィアさんは転移魔法が使えたな? 俺たちを荷台ごと王都に転移させることはできないのか?」
「少なくとも今の状況では無理です。そもそも敵が近くにいる状態だと、敵も転移に巻き込んでしまいますから」
「そうか……無理を言ってすまな……」
私の魔法による解決を諦めそうになったゼルの言葉を断ち切るように、私は氷の魔力を宿した人差し指を立てる。そして、魔力を使って空に馬の絵を描いた。
「出てきなさい」
私の言葉に呼応して、空に描いた馬の絵が輝き出す。すると、幾筋もの光へと姿を変えた氷の魔力が、氷で作られた一頭の馬を顕現させた。
「こんな魔法が……存在、したのか?!」
「これでまだ王都に辿り着く希望が繋がった!」
本物の馬さながらに動く氷馬を見て、ユークの声が上擦る。ゼルの表情も明るくなり、歓声を上げた。
「ヒヒーン!」
前足を上げて叫ぶ氷馬。それは私が思い描いた通りに馬車を引き、先ほどまでとは比べ物にならない速さで街道を駆け出した。
「やっぱり……ルヴィアはすごいよ。私には選べない選択肢だって選べるんだから……」
セレナの呟きを聞き取れず、私は首を傾げる。そして、セレナがまだラドスに引き返そうとしていたことを思い出した。
「セレナ。この状況でもまだ、ゼルさんやユークさんまで巻き込んでラドスに戻ると言い出すの?」
セレナは唇を噛み締め、俯いたまま首を横に振った。
(わたしがルヴィアみたいに強かったら、みんなを助けられたはずなのに……どうしてわたしはこんなに弱いの? どうしてルヴィアはラドスの人たちを助けてあげないの? わたしは……どうすればよかったの?)
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